5・喫茶店『カルミア』
私のバイト先はアニメワールドの近くにある2階建ての少し古びた喫茶店 『カルミア』 店の中は広くてアンティーク物がたくさんあり、1階は普通のお客さんで2階は常連さん専用になっている。ここの常連さんには偏りがあって、それは全員小説家なのだ。
「風邪、治ったのですね」
注文されたカフェオレを運んでいると常連さんの1人、工藤 マリアさんが話しかけてきた。この名前はペンネームで本名はここの主人しか知らない、でも金髪碧眼で美人なところから日本人ではないことは確か、日本語は日本人並みに流暢なので会話に困ったことはない
「はい、もうバッチリです!」
「木曜日にも来ましたが、彩乃さんがいなくて淋しかったです」
あぁ、このほわーんとした空気、相田さんに似てるな。でもマリアさんってこう見えて、かなりグロいホラー小説を書くんだよね。
「あやのちゃんのシフトって木曜日と土曜日なの?」
突然、話に加わったのはマリアさんの後ろの席で座るカフェオレを頼んだ張本人の西川 疾風、もちろんペンネームで本名は西川 隼斗 自称23歳、名前は体してそう変わらないな
「そうですけども、今更知ったんですか?」
「あれ?マリアちゃんとは対応が全然違うよね」
だってこの人は私がこの店に入りたての頃、コーヒーのブラックを頼んだのにいざ持って来たら『あっ!ごっめーんやっぱり、カフェモカがいいな交換してくれる?』それで交換して持って来たら『う〜ん、カフェモカって気分でもないなぁ、じゃぁレモンティーで』注文の通りレモンティーを持って行くと『オレンジジュースがいいな』と言われ、それを5回も続けられたから、流石に私も頭にきて最後に頼んだカプチーノと今まで頼んだ飲み物のレシートを机の上に叩きつけて『飲め』って言ってやった。
「もしかして、まだあの事を根に持ってるのかな?」
「当たり前でしょ」
その時、階段から勢いよく駆けてくる足音が聞こえた
「あやさん、マスターが次の仕事がまだあるぞって言ってるよ」
階段から上がってきたのは同じバイト仲間で3歳年上の浪川さん 男性です
「マスターに叱られるかな (笑)」
「(笑)を口で言わないで下さい!」
「あやさん、そんな奴ほっといて早く」
ちなみに浪川さんもこの人から過去に私と同じ事をされたらしい
「あらあら、彩乃さん行ってしまいましたね。僕のおもちゃが連れてかれたという顔ですよ西川さん?」
「えーそんな顔してないよ。マリアちゃん」
「ちゃん付けはやめて欲しいですね」
笑顔の裏に隠された何かに気づいた西川は、冷や汗をかきながら注文したカフェオレを飲んだ
「にしても、今日の常連客は私達しかいないようですねいつもの土曜日ならもっと大勢の方がいらっしゃるはずですが」
「多分、木曜日に来た常連のやつらがあやのちゃんが風邪だって事を知り、風邪なら土曜日も来れないだろうと予測して今日はこなった、これでどうだ!」
「流石、推理小説を書く方ですね」
「声に感情がこもってないのは気のせいかな」
「気のせいですよ。そう思うとやはり彩乃さんの影響力は大きいですよね」
「月1で来てた小説家が毎週、木曜日と土曜日に来るようになったりしたっけな。でも、この言い方だとマスターのコーヒーが美味しくないって聞こえるけど?」
「いえ、マスターのコーヒーは本物です。昨日だって、いつも木曜日にしかこない常連さんが来てみえましたし、コーヒーを目当てに来るお客さんも1階にいますよ」
口を潤すため温かいブラックコーヒーを飲む。
うん、マスターのコーヒーは美味しいと呟くマリア
「あやのちゃん以外にも面白い奴はいるけど、なんて言うのかな、オーラ?」
「彩乃さんには人を惹きつけるような力があると言って下さい。その方がしっくりきます」
「だな」
「そろそろ私が頼んだケーキが届く頃だと思いますが」
その時、階段からケーキを持った人物が現れた
「なんだー浪川かよ」
「僕で悪かったですね」
「運んで頂きありがとうございます」
「じゃ、オレも注文でカプチーノお願い」
「マスター、西川さんがお帰りになりますよー」
「ちょっ!注文と違うくない⁉︎それに大声で言わなくてもさ」
ケーキを食べながらくすくすと笑うマリア
*
今は7時を少し過ぎた頃かな、店を閉めて従業員達は帰った。でも、私はゴミ捨てや1階・2階の掃除があって居残っているとマスターが現れ話しかけてきた。
ここのマスターはすごくダンディな人で、うす黒く焼けた肌に筋肉質な体、マスター目当てで通うお客さんも多い。それに厳しくも優しいところがあって、とにかく人柄が良い。あっ!あとコーヒーは美味しい、これは本当
「病み上がりなのに大丈夫か?」
「はい!もちろんです」
「うちの常連達に、二ノ宮が風邪だって言ったら、見舞いに行くとか言い出してな。風邪なのに見舞いに行っても困るだろ」
昨日、澤田君が家まで来てくれたんだけどね。別に困らなかったけど、いやその前が大変だったんだ。思い出さないようにしよ
「耳赤いぞ」
「いや、その、これは、思い出し笑いです」
自分で言っても無理あるな
「そうか、で見舞いに行けない代わりに常連達が手紙やら千羽鶴とか作ってな」
従業員室のロッカーから紙袋3つと千羽鶴を持ってきた。紙袋を見てみるとそれは全部手紙
「二ノ宮がいなかった3日分だ」
「こんなにも!」
紙袋から溢れんばかりの手紙がある。その多さに驚くと同時に嬉しさが込み上げてきた
「みんな心配してるんだ。今度会ったら礼の一つは入れとけよ」
「はい」
嬉しさいっぱいでバイトを終え裏口から外に出る。なんだか今日は気分がいいなぁ〜そうだ寄り道して帰ろ
*
そして寄り道をした結果、道に迷った挙句ガラの悪い人達に囲まれました!目の前には5人の不良、後ろには壁しかない。もう、絶体絶命だよ




