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40・海の底へ

私がさやちゃんたちの温かい言葉に感動していると今度はイヤホンから高橋さんの声が聞こえてきました


「あっ、通信出来た」


「鬼教官!」


「ん?」


「いえ、何もです」


つい、口が滑ってしまいました。って、そうだ、今はこんなことをしている場合じゃなくて。早く島崎さんや高橋さんがいる場所に集合しないと!そう考えながら、立ち上がると、イヤホンから高橋さんの声じゃなくて神谷さんの声が聞こえてきます


「ねぇ、彩乃ちゃんの方に祐樹っている?もし、見つけたらパーティー会場に連れて来て」


「はい、祐樹ならここにいます」


「良かった。それと」


おっと、また声が変わったぞ。次の声は高橋さんの声でした。よく、声が変わるなー。聞いているこっちがめまぐるしくなってくるよ


「島崎さんが捜してるよ」


そして、通信は切れる。たった、その一言で私の背筋は伸びました。いや、固まりました。なんで、私なこうも島崎さんを恐れているのか…それは、ただ単純に狼な様な鋭い目で気を許したら食べられてしまいそうな感じだからです。って、今はそんな事よりも、早く向かわねば


「祐樹、行くよ」


「あっ、そう言えばオレ仕事あったんだ」


忘れてたんかいっ!とツッコミは後にして祐樹は立ち上がります。すると、さやちゃんがとんでもないことを言い出しました


「さやの瞳なんて盗まれてしまえば良いのに」


「ちょっと、さやちゃん⁉︎」


「だって、あの宝石は単なるただの普通よりも少し大きいダイヤなのよ!」


さやの瞳ってダイヤだったんだ。でも、それなら、なんでさやの瞳って呼ばれているんだろう?その名前の由来江本君に聞いてみると、どうやら、孫LOVEなさやのおじいちゃんが、珍しいダイヤを発見し、その綺麗さに驚いたとのこと。さやちゃん、普通のダイヤじゃなくて珍しいダイヤだよ。そして、おじいちゃんが「おぉ、まるでさやの瞳のようにキラキラと輝いている」と言ったことから、さやの瞳と名付けられたらしい


「余程、名前が恥ずかしいんだね」


「えぇ。本当になんであんな名前をつけたんだか」


それでも、さやちゃんの表情は赤くなっています。4月からの付き合いだけど、さやちゃんの事なら少しは分かる。口では盗まれてしまえば良いのになんて言っているけど本心は多分、違うと思う


「ふふ、それじゃぁ。私たち行くね」


「いってらっしゃい」


部屋を出る前、ロイさんにパーティー会場の場所をちゃんと聞き、今度こそ道に迷わないように行きました








無事にパーティー会場へ着くと祐樹はそのまま中へと入ります。一方、私は祐樹と別れパーティー会場の入り口で島崎さんと高橋さんと合流、案の定、島崎さんからゲンコツをくらいました。私、女子高生ですよ。女の子ですよ。なんて、現実逃避しても現実は変わらなくて


「二ノ宮が方向音痴ってこと、忘れてた」


苦々しく呟く島崎さん。でも、そんなことはほんの一瞬で終わり、島崎さんはすぐに切り替えます


「オレと高橋はパーティー会場の中で待機。それと、二ノ宮はパーティー会場の外で待機、相田は松永 源次郎の護衛でいないからな」


あっ、相田さんのお仕事ってさやちゃんのおじいちゃんの護衛だったんだ。それに、神谷さんと祐樹もパーティー会場の中にいる。それぞれ目的は違うけどみんな同じ場所にいるんだね。


「ロイは別室で待機中だ」


さっき、会いました。で、これから私の仕事はパーティー会場の入り口付近を見張っているとのこと。実はこのパーティー会場の入り口は1つしかないのです


「9時まであと少し」


現在、私は閉じられたパーティー会場の入り口の前で立っています。もちろん、目の前には誰もいない赤色のカーペットが敷かれた一本道だけ。私もパーティー会場で怪盗が鮮やかに盗み出すシーンを見たかったなーと思ったり思わなかったり。なんて、そんな事を考えている暇はない


「あと1分」


9時まで残り1分となりました。今のところ目の前の長い通路には怪しい人物は見当たりません。そう、このパーティー会場に行くためにはこの1本道を通るしかないんです。他に入口があるとすればどこだろう


ピピッ!


あっ、腕時計の針が9時を指した。今思ったんだけど、いくら私に異能があってもここを一人で任せるのは良くはないんじゃないかな?反対にもう一人か、異能を持っていない人と一緒にここを守ったほうが良いと思うけど


あっ、分かった。ここを一人で任せると言うことはそれだけ、島崎さんに信頼されていることかな。よしっ!それなら、もし、ここに怪盗が来たら全力で通させないぞ!それに、さやちゃんの名前の宝石もあるからね


私はドアのほうを見ながら息込んでいると、勢い良くこちらに向かってくる音が聞こえてきました。方向は通路の奥からじゃなくてドアの向こうから。この勢いでこちらに向かって来るのは、もしかして


バンッ!

その時、ドアが勢い良く開きました。そして、飛び出してきたのはテレビに出ていた、あの痛い名前の怪盗です。私は怪盗を捕まえようと怪盗の肩に手を伸ばしましたが、敢え無く失敗。そのまま怪盗は一本道を全力で駆け抜けて行きました。もちろん、ここで足を止める私ではないです


「【待て】」


能力全開で言霊を発しながら怪盗を追いかけます。でも、能力で待てと言っても怪盗は止まらない。つまり、能力の強さで言うと怪盗の方が上と言うこと


「それでも、私は行く!」


怪盗を追いかけ階段を登り角を曲がり、とにかく私は怪盗の後ろ姿をしつこく追いかけ回します。他所から見れば悪質なストーカーだよね。なんて思っているけど今はしょうがない


「そこまでよ!」


船の先端に逃げた怪盗は海を背に私の方をしっかりと見ます。そして、手にはキラリと輝くダイヤモンドがありました。そう、あれが【さやの瞳】普通のダイヤモンドだけど


「夏の海は天候が変わりやすいんだって」


「それは、どういう意味?」


突然、怪盗がそんなことを話しました。それよりも、私が気になったのはその声。どこかで聞いたことのある無駄にイラつく声が気になりました。そう、この声に近いのは西川さん!


「まさか、あなたは西川さん?」


「西川って誰?」


あれ、今度は女の人の声に変わった。しかも、声が私のバイト先の常連客、マリアさんに似ている。まさか、これは声帯模写⁉︎じゃぁ、この人は一体、誰?


「あら、この天気は後で嵐が来そうね」


月明かりは綺麗だ。それなのに怪盗はおかしなことを言う。あっ、そうだ。私が海難事故にあった時も月明かりが綺麗だっな。そう、あの時は…あれ?


「どうしたの?へたり込んじゃって」


気が付くと私は足に力が入っていなくて、下に座っていました。どうして!高橋さんに催眠術というか海が怖くないように暗示を掛けて貰ったはずなのに、はっ、まさか、今の怪盗の言葉で無意識に海の嫌な記憶が戻って暗示が解けたんだ


「た、立たなきゃ」


まだ、足腰は震える。でも、そんな甘ったれたことを言っている場合じゃない。今私がやるべきことは、目の前にいる怪盗を捕らえること。それに、島崎さんから期待されているんだから


「あの、おとなしく自主とかしてもらえませんか?」


そう言いながら私は能力で、竹刀を出して怪盗に向ける。本当は刀を出したいけど万が一、ブシャーっと切ってしまう恐れがあるので私は竹刀にした。そして、怪盗に突っ込む


「おっと」


「峰打ちにしますから。安心して下さい」


「女の子が物騒なこと言わないの」


男声に戻った怪盗はひらりと私の攻撃を半身を逸らして躱す。今度の立ち位置は、私が船の先端に立ち、怪盗がさっき私がいた位置にいる


すると、ここで船が大きく揺れた。そして、空に黒い影が広がる。えっ、本当に怪盗が言った通りに嵐が来るの⁉︎なんて思っていたのも束の間、波が更に高くなり船を襲った


「きゃっ!」


私は足場を崩して海に落ちた。そう、昔のように。ぐらりと揺れる視界の中私が見たのは怪盗が仮面越しに慌てた表情で手を伸ばし私を掴もうとする姿とその後ろから島崎さんや高橋さんや色々な人が見えた


バシャン

私は怪盗に掴まれることもなく海に落ちた。当然、私はかなづちだから、泳げない。ぶくぶくと暗くて冷たい海の底に沈んで行く


沈んで行く中で私が考えていたのは能力について。今なら、祐樹の『こんな能力はいらない』って言う言葉が分かる様な気がした。だって、もし、私に言霊の能力がなければ、今まで、戦わずに普通の女子高生でいられてこんな危険な目に合わなかったしさ


「うっ」


息を止めるのがもう限界。もちろん、能力があって出会いはあったけど、その分、いや、それ以上に危険なことはたくさんある。あっ、口から空気がこぼれた。海面がゆらゆらと揺れている。こうして下から海を見上げるのは久しぶりだな


あぁ、意識が遠のいて行く。島崎さん、高橋さん、それに異能課のみんな、怪盗を捕まえられなくてごめんね。それと、バイト先のみんな今までありがとう。さやちゃん、江本君もありがとう。それに、澤田君。君には色々、ドキドキしたよ。かっこ良くて頼れるしお兄さんみたいで。今から思えば私は君のことが好きだったよ。でも、もう言えないけど。


「はぁ」


神様、生まれ変わるなら、今度は普通の人生を送りたいです

本当に能力なんていらない。無ければ良かったんだよ

本当に…本当に…能力な………ん…て……いら…ない


そう思いながら、私は静かに目を閉じた



一人称が彩乃だったり私だったりと点でバラバラなのに、今まで読んで下さりありがとうございました。


今から読み返すと酷い文章でしたよね…

本当にごめんなさい


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