39・ドアの向こう側
なんで、私たちには能力があるのかと悩みながら適当に螺旋階段を登っていると、突然、私が付けているイヤホンからノイズが聞こえてきました
「二ノ宮っ…」
低くてドスの効いた声、この声は島崎さん!
もしかして、今の時間はもう5時30分を超えてしまっているのか!確か、5時30分から乗客全員を大きなホールに集めるとか言っていたと思う。私は自分の腕時計を見ました
「今…どこ…」
ブチッ!そこで話が途切れてしまいました。でも、通信ができると言うことはもう少しでここから出られると言うこと。やったと思ったのもつかの間、時計は7時を指し示しています
「この階段の先が出口なんじゃねぇか」
祐樹の言った通り螺旋階段の先にはドアがありました。ドアは押したり引いたりして入るタイプのドアで、祐樹はドアノブに手を掛けます
ガチャリ
「なんだ?」
今、私の目の前に祐樹が立っている状況なので祐樹の背丈で部屋の中が見えません。一体、祐樹は何を見たのでしょうか?
「えっ、祐樹どうしたの?」
祐樹を押し退けて部屋の中に入ると、そこは学校の保健室の様な場所でした。おまけに部屋の中には知っている顔が大勢いたのです
清潔そうな白いベッドにはロイさんが寝込んでいて、そのベッドの隣にある3つのパイプ椅子には真っ赤なロングドレスを着たさやちゃんとタキシード姿の澤田君と江本君が座っていました
「あやの⁉︎」
「彩乃⁉︎」
「二ノ宮ちゃん⁉︎」
「おぉ…ちょうど良いところに二ノ宮君と一ノ瀬うっぷ!」
ベッドで寝込んでいたロイさんは起き上がって私たちの名前を呼ぶのと同時に口元を抑えてまた、寝込んでしまいました…って、なんでさやちゃん達がここにいるの!そして、ロイさんも
「知り合いか?」
「学校の友達」
「へぇ」
祐樹に聞かれて簡単の言葉しか言えなかった。いや、驚きすぎて今、私の頭の中は真っ白です。だって、いまだに目を丸くしているみんなと目が離せないもん
「松永君、薬と水を取ってくれないか」
「えっ、えぇ」
さやちゃんから渡された薬と水を飲んだロイさんは、私たちにベッドの近場にあるソファーに座る様に促しました
「紹介するよ、この2人がさっき私が話していた同じ異能課の仲間の二ノ宮 彩乃君と一ノ瀬 祐樹君だ」
「あっ、どうもー。じゃなくて!ロイさん!」
「おい、じじい。異能課の事は島崎から口酸っぱく言われてるだろ」
待って、展開が分からない。何これ、今、私はどうなっているの?なんで、ロイさんはこんな事を言っているんだろう?
「ちゃんと説明しろ」
「オーケーオーケー、説明するから、そのメリケンサックをチラつかせないでくれ」
*
ロイさんがなぜここにいるのかと言う理由は。仮に怪盗を捕まえたとし、怪盗に逃げられては元も子もないので、ロイさんの能力で作った空間で閉じ込めるため、島崎さんに無理矢理連れて来られたそうです。確かにロイさんが作った空間なら逃げる術もないよね
でも、ロイさんは慣れない海の上で船酔い。しばらく自室で寝ていたけど、自分ではどうしょうもないくらいに船酔いが酷くなり、この簡易保健所に来たらしい
「簡易保健所なら医療に詳しい人がいるのに、なんで今いないのですか?」
「ほら、この時間帯は乗組員全員、大きなホールに詰め込まれるとかなんちゃら」
「あっ、そうだ」
「いや、本当は医師もここに残ると言ってくれたのだが、私が断ったんだ。後から行くと言ってな」
あっ、そうかなるほど。で、さやちゃん達がなんでここにいるのかとロイさんに聞きました。えーと、ロイさんがベッドで寝ていたらゆっくりと部屋のドアが開き、さやちゃんたちが入って来たそうです
あっ、そう言えばさやちゃんが私を海上パーティーに誘ってくれた時、澤田君と江本君も誘ったからと言っていたのを思い出しました
「私はただ単にあのパーティー会場に行きたくなかっただけよ」
なんでも、自分の名前が入った宝石を見たくはないからだそうです。うーん、なんとなく分かるかも。だって、普通に考えて恥ずかしいもんね
「でも、親は無理にでも行かせようとするし」
「だから、さやは親の目を掻い潜って逃げて来たんだよね」
「オレたちは元々、部屋にいたら急に松永から電話で呼び出されて来たら、いつの間にか一緒に逃げていたんだ」
「誘ったのは私だし旅は道連れって言うでしょ」
そして、辿り着いたのはこの簡易保健所。ここで、パーティーが終わるまでひっそりと留まろうとしたら、ベッドの上で苦しんでいるロイさんを発見。案の定、優しいさやちゃんたちはロイさんを介抱したとの事。現に今もロイさんを介抱している
「この子達には感謝だよ」
「で、それがどうして異能課の話になるんです?」
介抱してくれたさやちゃんたちに自己紹介をしたそうです。その時言ったセリフが『私は異能課のロイだ』当然、異能課と言う単語に食いつく3人。ロイさんは島崎さんから異能課について口止めされているけど、介抱してくれた子だし話しても良いかなと思い、事細かく話したそうです。しかも、自分の能力を見せながら
「普通、自己紹介でそんなこと言うか⁉︎」
「ずっと研究室に籠ってばかりで久しぶりに人と話すからつい口が軽くなってな」
「口が軽くなったとか、そんな問題じゃないでしょ」
私と祐樹はお互いに頭を抱えながらため息をつきました。で、私たちが出て来たところは万が一、事故が起きでドアから外に出られなくなった時用の避難口だそうです。
「あやの」
「はいっ…」
突然、さやちゃんに低い名前を呼ばれる。もしかして、友達なのに今まで黙っていた事、怒っているのかな?それとも、能力が、ある気持ち悪い子に見えるのかな?そんな不安の中、さやちゃんは言いました
「海は苦手って言ってたけど大丈夫?」
「えっ、それなら知り合いに催眠術をかけてもらったから大丈夫だよ」
予想の斜め上を言った質問に私は驚いたけどちゃんと答えます
「それと、例えあやのが変な子でも」
「うっ」
「ずっと友達だからね」
澤田君と江本君も頷く。うわー、視界がぼやけてきた。でも、ここは涙を堪えて、まず言うべき言葉を伝えます
「みんな、ありがとう」




