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31・夢のその先

私達が集められたのは、脱走した囚人服の男を連れ戻すために集められたのだが、それはもう、解決済みになった。なぜならば、もう囚人服の男はここにいるし、能力も無くなって普通の人となっているから


この人については、島崎さんや高橋さん達が何とかしてくれるとの事で話は終わり、解散した


「彩乃ちゃん、もう夜遅いから家まで送るよ」


「相田さん、ありがとうござい、あっ」


「どうしたの?」


「島崎さんに玄関のドアを壊されてたんだ」


そうだった、蹴破られたんだ。現在、異能科の本部の部屋に、島崎さんと高橋さんとロイさんはいない。3人とも仕事で帰った。でも、ロイさんに至っては街にいる知り合いに会ってから帰ると言っていた。となると、今、部屋にいるのは私と相田さんと神谷さんだけ


「なら、俺の家に来る?」


「【黙って】下さい」


「彩乃ちゃん!」


「あっ」


すると、神谷さんは口を動かすものの声は出ていません、力を抑える指輪を外していることに気が付かず、やらかしてしまいました。うーん、どうも神谷さんは苦手です。なぜ苦手かと言われれば、それは


「分かった、神谷さんは西川さんに似ているんだ!」


「西川さん?」


「はい、私がバイトしている店の常連客の一人で、神谷さんと同じくチャラい人なんです」


「…っ!はぁ、だからって一緒に嫌わないでよ」


「その、無駄にキラキラした顔で言わないで下さい」


と言うか、私の能力の効果が解ける時間よりも早く解けたのが驚き、ある意味、神谷さんは凄腕の人なのかな?あっ、そうか探偵やっているとか言ってからそれなりの修羅場をくぐり抜けているのか


「すいません、どうしても苦手な人と被ってしまうので」


「もうー、彩乃ちゃんはツンデレなんだから」


「【日本刀】」


「えっ」


「彩乃ちゃん、ストップストップ!」


あー、危ない。もうすぐで神谷さんを真っ二つにしてしまうところでした


「これ以上、神谷を見ていたら日本刀で真っ二つにしてしまいそうなので、帰らせてもらいますね」


「帰るのはいいけど、日本刀持って帰ると銃刀法違反で捕まるよ?」


「【消去】」


神谷さんに指摘され私は日本刀は綺麗さっぱり片付けました。本当、この能力は便利だね


日本刀を片付けた私は、部屋にいる相田さんと神谷さんに別れを告げ、家路に着きました。家に着くと目の前には壊れた玄関のドア。もちろん、自分の能力で何とかします。





* * *





ディナさん、さとりさん、メアリーちゃんとの乱闘の後は特に警戒する様な事件も無く穏やかに過ごしていると、時は流れ桜ヶ丘高校は夏休みに入りました


夏休みと言っても私はバイトと家の往復だけです。私がバイトしている喫茶店カルミアの常連さんである、西川さんに『それでも、花の高校生?』と鼻で笑われたので、手に持っていたお盆で頭を叩いてしまいました。それにしても、西川さんを見る度に異能科の神谷さんを思い出します


まぁ、神谷さんも西川さんも性格が似ているから、しょうがないか。と思いつつ、7月は終わり、早くも8月に入りました


本当に夏休みはバイトと夏休みの宿題と美術部で描いた絵画をコンクールに出品したりと、西川さんに言われたとおり花の高校生がすることじゃぁないな


ここの所、異能科が動く様な事件も無く、平和に過ごせていることに感謝する日々が続きます。今、テレビでは夏と言うことで海水浴場や川での遊びなど、とにかく水関係のニュースが流れるばかり、私にとって海や川は自分の両親を亡くした原因なので、テレビで水関係のニュースになると、速攻で他のチャンネルに変えます


そんな,ある日のこと。バイトが終わり家でのんびりくつろいでいると、突然、携帯から着信音が鳴りました。電話をかけて来たのは、さやちゃん


「もしもし?」


『あやのかしら?』


「私の他に誰がいるの」


『それもそうね。いきなりだけど、良いかしら?』


「どうしたの?」


『一週間後の8月23日、土曜日。その日、空いてる?』


「空いてるよ」


『実は、私の祖父がパーティーやるとか言い出して、私はそう言う派手な所は行きたくないけど、祖父がどうしても来いって言うから行かなくちゃならなくて』


「うん」


『私、一人で行ってもつまらないから、アヤノ一緒に来てくれるかしら?アヤノの他にも澤田と拓真を呼ぼうと考えているの』


「ちょっと良い?一体、さやちゃんのおじいちゃんは何をしているの?」


パーティーをやるって言ってるんだから、それなりの裕福な人だと思うけど。さやちゃんから返ってきたのは、驚きの一言


『主に宝石を扱う仕事をしているわ。と言うか、私の家は代々、宝石店を営んでいるのよ』


宝石店ですか。ついでに店名も聞くと、それはそれは、とても有名な店名で、しかもどんなに小さい宝石でも軽く奥を超える値段の品がたくさん並ぶ店であることが判明。そんな所に庶民の私が行って良いものなのか悩みます


「場所はどこでやるの?」


『確か、豪華客船でやるとか言ってたから、海の上ね』


「あっ…」


海はダメ。行けないや、もし仮に行ったとしても多分、私は足がすくんで動けなくなるか、あの時の記憶がフラッシュバックしてその場で立ちすくんでしまうかもしれない。どの道、私は行けません。さやちゃんには私には家族が亡くなっていることを話してはいるけど、どうして亡くなったのかは伝えていません


「さやちゃん、実はね」


あまり、自分でも嫌な記憶なので簡潔に話すと、電話越しのさやちゃんの声は気まずそうでした


『ごめんなさい、それなら無理に誘わないわ』


「さやちゃんが悪いわけじゃないの!ごめんね。私の分まで澤田君達と楽しんできてね」


そこで、会話は終了

海かぁ、さやちゃんや澤田君や江本君も来るんだ。きっと楽しそうなんだろうなぁ、でも、私が行ったら楽しむどころの話じゃなくなる。みんなが楽しんでいるのに一人で泣いているだなんて、それだけは絶対に避けたい


もう、寝るか



* * *




寝る直前にさやちゃんの海の話をしていたからでしょうか。今日の夢は、海に投げ出される自分でした。これが夢だと気付いたのは、私が海に投げ出される直前、船が大きく揺れてお父さんにしがみ付こうとした時です


そしてこの後、私は海に投げ出されます。いつもこの夢を見ると、必ず、夢はここで終わります。なぜなら、ここから先は記憶がないから。なのに、今日はいつもと違って、海に投げ出された後の夢を見ました


海に投げ出された私は泳げず、手足をバタバタとせわしなく動かしながらお父さんとお母さんの名前を呼びます。でも、私のか細い声は海の荒波に飲まれ、両親には届きません


「お母さん!お父さん!」


助けて!荒波によりお父さんとお母さんの姿は見えず、私は荒波に飲まれるだけ


「お母さん!お父さん!」


お願い!届いて!私の声が届いて!

そう強く願うも私は力尽き、気付いた時には海の中にいました。薄れゆく意識、もうダメかと思い目を閉じます。冷たい海が私の体温を奪い、私は海の底に沈んだかと思いました


意識が戻り目を開けると、そこは海でも無く地獄のような殺伐とした風景ではなく、花や蝶がひらひらと舞う花畑に座っていました。こんなに平和な場所にいるならここは天国⁉︎と思いながらも私は立ち上がり目の前にある長い道をただひたすらに歩き続けました


すると、辿り着いたのは神話に出て来る様な白を基調とした豪華な神殿。まるで私を招く様に立ち構えています。そんな場所に私は何のためらいもなく足を踏み入れ、静かで優雅で豪華な廊下を歩くと目の前に金色に光るドアを発見


このドアもまた、私を招く様にあります。そして、ドアを開け中に入ると


「わぁ〜!」


丸い筒を縦にしたような部屋でした。その真ん中には一本の太い大きな木があります。そして、その木の下には後ろを向いているウェーブが掛かった金髪の女の人がいました。服装はギリシャ神話に出てくるような白い布の服


私は、その女の人に近づき、声をかけました。すると女の人は優雅に半回転し、エメラルド色の瞳で私のことを見つめます


私が思ったのはただ一つ。綺麗な人だと言うことです。そして、女の人が何かを喋ろうと口を開いた時



* * *




「はぁ、ここで夢が覚めるか」


目が覚めてしまいました。せめて、あの女の人が喋る所で終わってほしくはなかった。それにしても、今回の夢は本当に私が海に投げ出された後の記憶なのでしょうか?なんだか、ファンタジーっぽいから、あれは本当の私の記憶ではないと思うんだけどね


まくらの隣に置いてある時計を見ると、朝の4時。起きるのが早過ぎたから、2度寝しよう。願わくは、海の夢じゃなくて、もっといい夢を見たいです。こうして、私はもう1度、深い眠りにつきました

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