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19・研修3日目 ~お疲れ様~

3日目の朝、今日も朝からがっつりと朝ごはんを食べました。どうやら私が大食いだということは、給仕の優しいおばちゃん達の間で暗黙の了解らしく、朝ごはんを取りにきたら


「彩乃ちゃんの分、ちゃんと残しとるからな」

「若いから、たんとお食べんさい」

「成長期やろ?」

「見てて清々しいわぁ」


次々に言われて恥ずかしいというか、何と言うか、隣にいたさやちゃんにも優しいおばちゃん達は


「ほら、そんな細っこい体すぐに折れてまうやろ?」

「出る所も出ぇへんけ」

「若いんやから、食わな、な?」


そう言って、さやちゃんのお皿に揚げたての春巻きを2コとビーフンを多めに追加した。いいなぁ、春巻き。さやちゃんは少食だから後で少し貰おうかな







朝ごはんを食べ終えたら午前は学校と同じ勉強。教科は現代文、科学、日本史。各授業の終わりにはその教科のテストをして80点以下の人は研修明けの初日の放課後、追試らしい

追試と来れば、60点以上取らなければならない。1日目の時にはこんなテストはなかったから、後から決まったことなのかな。それにしても本当に英語がなくて助かった。英語だけはダメなんだよ

私のテスト結果はと言うと現代文が76点、科学が73点、日本史が71点と追試は免れた。思ったんだけど何気にこの学校、頭良い子が多いよね。他のクラスでも90点代を軽く超えてる子が沢山いたし。その事をさやちゃんと話していたらお決まりで江本君が色々と教えてくれた


「桜ヶ丘って、何気に偏差値高いよ。国内までとは言えないけど、県内なら神5に入るかな」


そう言えば、ここを受験する時に中学の担任から、そんなことを言われたような気がする


「とりあえず、追試は免れたから良かったね」




* * * * *




午後は体育館で球技大会、本当は外で活動をする予定だったけど、明け方くらいからまた大粒の雨が降り出してきた。そのため急遽、体育館で球技大会という話になった。

どうやら、球技大会の種目は男女混合のバレーらしい。各クラスの代表がじゃんけんをして決まった組み合わせがこれだ


Aグループ・2組vs3組

Bグループ・1組vs4組

Cグループ・5組vs教師チーム


よりにもよって私達のクラスは教師チームかぁ、こういう時の大人は大概、大人気(おとなげ)ないよね。そして、今、15分間与えられた作戦会議を各クラスが行っている。私達1ー5は、使われてない部屋で会議中、千夏ちゃんは体育館で待機中のため不在


「それでは今後について話そうではないか」


赤色のメガネのフレームを軽く上げながら、無駄にキリっとした顔で教壇の上に上がっているのは、クラスの代表として行き、じゃんけんをして、運悪く教師チームと試合する羽目になった元凶の江本君が立っていた


「1試合に出れるのは6人まで、男子3に女子3ね。でも、この試合は本格的なものじゃなくて、体を動かす事が目的だから、ルールは全く無視して、新たなルールをさっきの代表達の間で追加したんだ。それが途中で選手を交代してもいいって話ね」


もし仮に、Cグループの私達5組が教師チームに勝ったとして、次に5組と試合するのはA・B・Cからの敗者復活戦で勝ったとクラスと一試合、それに勝ったらA・Bで勝ったクラスと試合する。計3回、勝たないと優勝は頂けない


「交代できるなら、全員参加しようぜ」


あおっきーの意見にクラスの全員が賛成。普通なら、体育が苦手な子は参加したがらないのに、体育が苦手な田中さんと三村さんまでもがあおっきーの意見に賛成している。しかも楽しそう


「というか、何点取ったら勝ちなの?」


田中さんの質問に江本君が答える


「相手よりも先に25点取ったほうが勝ち」


25点か


「さやちゃん、優勝したら何か賞品はあるのかな?」


「あっても、そう大したものじゃないわよ」


「私は文化祭でクラスの出し物の予算が多くなるとかって聞いたよ」


私の左隣に座っていた三村さんが話に加わった。文化祭って後期にある行事のことだよね。前に千夏ちゃんの事を教えてもらった時に江本から聞いたのを覚えてるよ


「それは、勝たなくちゃいけないわね」


「予算かぁ、あった方がいいよね」


「だから、他のクラスも勝とうとして躍起になってるみたい」


「随分と詳しいわね?」


「さっき、1組の友達に聞いたんだ」


「なるほど」


そう話している間に決まったみたい

最初の教師チームと戦う戦士たちはこうなった


《男子》

バレー部男子の中村君

弓道部の西川君

テニス部の古田君

《女子》

バレー部女子の神城さん

陸上部の奥原さん

バスケ部の三津木さん


どうやら教師チームと一試合するので運動部系で固めたらしい。交代はありだから、試合に出ている子達が本当にダメだと言ったら交代するみたい。それまでは粘るとの事


「よしっ!行きますか」


江本君を先頭に5組は体育館へと向かった



* * * * *



1回戦目、Aグループの2組vs3組の試合を体育館の端に座って見た。うーん、どちらのクラスにもバレー部の子が必ず1人はいるな。それに応援する側も熱を帯びていてライブ会場みたい

審判は食堂のおばちゃん達、話によると趣味でママさんバレーならぬ、おばちゃんバレーを結託してやってるとのこと

試合の結果は25点と18点で3組の勝ち。その時の歓喜する声が凄い、ここはどこですか!と叫びたくなるような歓喜に包まれていた。うわぁ、耳が痛いよ

続いてのBグループ・1組vs4組は接戦だった。この試合を見てると某バレーアニメを思い出して、その主人公のキャラクターの名前をさやちゃんと同時に呟いてしまう


「被ったわね」


「本当だ!」


ピピー!審判の笛の音でコートを見ると、勝負が決まったみたい。25点と24点で1組の勝ち

お次は5組vs教師チームです。コートに並ぶクラスの子と教師はお互いに睨み合いバチバチと火花が散ってるように見えるのは私だけでしょうか⁉︎


『さて、始まりました。5組vs教師チーム、実況を務めますのは(わたくし)、江本 拓真。まずは、教師チームからのサーブッ!打つのは5組の副担任であり、最近、娘の反抗期に手を焼いている槙原 秀二!あだ名はまっきーちゃん!』


「江本、黙れ!お前に向かって打つぞっ!」


マイクを片手に実況する江本君に向かって本当にサーブを打った。しかもジャンプサーブ

打たれた球は野球選手の豪速球並みに速く、誰もが避けられないと予想しただろう。でも江本君はマイクを持ったままアンダーハンドパスでその球を教師チームへと返した


『はーい!先生、反則ぅー。5組に1ポイント、それに顔面狙ったからもう1ポイント追加!&次のサーブは5組からね』


審判のおばちゃんが5組の得点板に2ポイント入れる。それにしても、あの球をよく取れたね。打つ方も凄いけど取った江本君も凄いよ。というか何気に江本君、運動神経良くない?うーん、少し江本君の見方が変わるかも


「江本君、凄いね」


「なんか、負けた気がする」


「澤田君、どうしたの?」


思わず言ってしまった言葉に、右隣に座っていた澤田君がしょぼくれていた。どうしたんだろう?澤田君はまだコートに出て試合をしてないのに負けただなんて

左隣に座っているさやちゃんに目を向けたら、スースーと気持ち良さそうに寝ていた。あらら、昨日の疲れがまだ残ってるのかな


「さやちゃんの寝顔ってかわいいね」


「二ノ宮の方が可愛いと思うけど?」


澤田君に話しかけたら、さらりと首を傾げて言われた。あれ、なんだか顔に熱が溜まってきたような。どうしてだろ、他の人から可愛いとか言われても、なんとも思わないけど、なんで澤田君が言うとこうなるのかな⁉︎


「危なっ!」


澤田君の目線が急に私から外れる。その視線の先を見るとバレーボールが勢い良くこっちに飛んで来るのが分かった。今から避けるのは難しい

能力を使って止めようとしたけど指輪を外さない限り能力は使えないし、今は外す時間もない、当たるのを覚悟して目をつぶる。うわー、これはダメなパターンだな

その時、誰かに前から押されて私は後ろに倒れた。軽く後頭部に痛みが走るけど、本当にコツンッ程度。目を開けると何故か顔の真上に澤田君の顔があって、とにかく近かった。

あれ?この感じ、昨日、あおっきーにもされたような気がする


『おおーとっ!学年1のイケメンが白昼堂々と女子生徒を押し倒しているではないか!この事件は許されるものではない!イケメンだからと言って何をしてもいいという(ことわり)はないぞっ!』


「なっ、違うって。ボールが来たからだっ!」


『言い訳をするイケメン!みなさん、ご覧下さい、これこそが我々の敵、人類の敵です!』


澤田君の抵抗は虚しくも江本君の茶化しによって大きくなり澤田君は他のクラスの男子によって何処かへ連れて行かれてしまった

こういう時って、周りの女子からの視線が怖いんだよね。嫉妬とかその、色々と。恐る恐る顔をあげてみると、その様な視線はなくて代わりに「大丈夫?」だとか「頭打ってない」「脳震盪かもよ!」と心配してくれる声がたくさん聞こえた。しかも他のクラスからも


「みんな、心配してくれてありがとう」


「私はあやのの下敷きになったけど」


ボソリとさやちゃんが言った。こめかみに青筋が見えるよ。おぉ、さやちゃんのお怒りが一番恐ろしい









試合も中盤戦に入った所で得点板を見ると37対34で、5組の方が負けていた。ここで遂にチームを交代することになった。しかも6人全員


《男子》

青木君(あおっきー)

澤田君

写真部の浅野君

《女子》

さやちゃん

書道部の羽島さん

三村さん


「かーおーりー!ミスするなよー!!」


「さやちゃんがんばってー!」


三村さんの友達の田中さんがさやちゃんの座っていた所に座って声援を送っている。もちろん私もさやちゃんを応援中


「あおっきーと澤田かぁ」


「田中さん、どうしたの?」


コートを見て不気味に笑う田中さん、一体何を考えてるのかな?


「あの2人を見てると面白いから観察してるの。それと、田中さんじゃなくて(みお)でいいよ。あっ、松永さんみたいにちゃん付けでもいいし、なんなら『みおりん』でも『みーちゃん』でもOK

うーん、でもやっぱり、私的には上目遣いでメイド服着て『ご主人様ぁ〜』って言って欲しいな。ハァ、ハァ、しかも恥ずかしがりながらね!ここポイントだよ」


「えーと、みおちゃんでいいかな」


「了解!じゃぁ、私は彩ちゃん呼ぶね。」


「うん、いいよ」


「そうだ、この際だからコスプレとかしてみない?まずは巫女さんとか婦人警官の服とか軽いやつからでいいからさ!

それに彩ちゃんはスタイル良いから『ケモミミ王国』のアルフェッチェのコスプレが似合ってると思うんだよね。もちろんピンクのウィッグにうさ耳とバーテンの服は定番として、9話で出てきたセーラー服姿も中々の物だったし、あとは、あとは」


『ケモミミ王国』とは、今、深夜で放送されているアニメの事で、もちろん私も見ている。その中にアルフェッチェという、うさ耳でバーテン服を着たサブヒロインがいる。

その子の服はなんとも露出が多い物ばかりで、みおちゃんはさっきセーラー服って言ったけど、実際はセーラー服じゃなくて大きく胸元が空いたノースリーブとギリギリまで短くしたスカート

とてもじゃないけど、そんな服は恥ずかしくて着れないです


「コスプレはみてる方が楽しいから、私は遠慮するね」


「なーんのっ!逃げてもムダムダムダムダッ!もう私の中では彩ちゃんがあのセーラー服とバーテン服を着て恥じらう姿が目に浮かんでいるのだ。それは誰にも邪魔させない例え世界が滅びようとも私は絶対に彩ちゃんに着させるからね」


だーれーかー!みおちゃんの手がどんどん私に近付いてくるよ。あっそうだ、能力使って止めてしまえば、ってそんな考えはダメダメ


「澪、なにしてるの?」


その声に驚いて後ろを振り返ると三村さんとさやちゃんが立っていた


「彩ちゃんにコスプレをさせようと検…討……中」


「澪は親父女子と変態女子が合わさってるから、正直、話してるとめんどくさいでしょ?」


素敵な笑顔で言ってますけど、みおちゃんの顔がだんだん強張って青ざめてる


「えーと、暴走するのはいいんだけど、私がついて行けなくて」


「「ついて行かなくていいの(わ)よ」」


さやちゃんと三村さんが同時に言った。おぉ、見事なシンクロ、一緒にバレーをやって何かが通じたのかな

さやちゃんに名前を呼ばれて指を指している方を見ると、得点板には23対22、あと1ポイントで教師チームに追いつく場面だった

どうやら、交代したのはさやちゃんと三村さんだけで、コートには澤田君とあおっきーがまだ残ってる


「せっかく、澤田(・・)が頑張ってるからちゃんと見てあげなさいよ」


「うん!」


クラスのために頑張ってるから私も応援しなきゃ


「澤田君っ!ファイトー!」


多分、私の声なんて他のクラスの子の、応援の声で消えちゃうかもしれないけど、それでも大きな声で叫ぶ

その時、澤田君の見事なアタックが決まり、クラスに1ポイント入った


『ここで、我がクラスのエース澤田の見事なアタックがきまったぁぁああぁ!さぁ、試合もそろそろ終盤戦!25点まで残り2ポイント、先にポイントを奪うのは教師チームか、それとも5組か、どっちだっ!』


江本君の実況を聞きながら私はひたすらに応援をした。教師チームは交代なしで試合をしているから疲れは溜まってるはず。ここで頑張れば勝てる


「澤田君、がんばれー!」


澤田君がこちらを向いて爽やかスマイルで返事を返してくれた。その表情を見た女子達が次々と倒れてく、澤田君の爽やかスマイル効果は凄いです。あっ!審判のおばちゃんが1ポイント追加してくれました。流石、澤田君

そして、試合は進み結果は担任の千夏ちゃんの華麗なアタックによって負けてしまった


『なんと、最後は千夏ちゃんの手によって勝負が決まったぁ!しかし、まだチャンスは残っている。次は敗者復活戦で5組は必ず勝つ!』


江本君は大胆な宣言をしてマイクを置いた。澤田君が試合を終えてこちらに向かってくるけど、その前にたくさんの女子に囲まれ、どこかへ行ってしまった


「あやの、確か食堂に飲み物があったはずよ」


「と、言いますと」


「持ってきてくれないかしら?」


「私はパシリですか?」


「試合に出たのは誰?あやのは一度でも試合に出たのかしら?応援しかやってなかったわよね?しかも中盤は試合を無視して田中さんとコスプレの話ばかりで」


「持ってきます!」


私は体育館を出て食堂に向かった。ちょうど食堂には冷たいお茶や水の入ったペットボトルがあった


「よしっ」


お茶のペットボトルを持って食堂を出て右に曲がると澤田君の後ろ姿が見えた。周りにはたくさんの女子がいないところを見ると、どうやら別れたようだ


「澤っ…」


私は声を掛けるのをやめた

そして、澤田君の後ろにそっと近付いて……


「えいっ!」


「うわっ!」


冷たいペットボトル首筋に軽く当てた。これ、前からやってみたかったんだよね


「驚いた?」


後ろで手を組んで尋ねてみると、まだ火照ってるのかな、赤い顔で驚いていた。よしっ、ドッキリ大成功だね

それから、私は何故か澤田君に連れられて食堂の外にあるバルコニーで話をした


「試合、お疲れ様」


「負けたけどね」


自嘲気味に笑う澤田君にお茶のペットボトルを渡した


「でも、かっこ良かったよ!アタック打ってる時なんて、こう、ビシッとね。私なんて応援しか出来なくてさ」


澤田君のアタックを真似しながら話した


「二ノ宮の応援、ちゃんと聞こえたよ」


「えー、あの大きな声援の中で私の声なんて聞こえないでしょ?」


「聞こえたからアタックが打てたんだ」


いやいや、聞こえたからってそんな理由でアタックが決まる物なのかな


「でも、勝ちたかったな。やっぱ悔しいかも」


「じゃぁ、次の敗者復活戦で勝ってくるよ!」


澤田君やクラスのみんなが頑張れたんだから、次の敗者復活戦は私も頑張らなきゃ


「勝つってことは、敗者復活戦に出るってこと?」


「うん!でも、バレーってチーム戦だからみんなの力を借りなきゃダメだけどね。それでも、敗者復活戦で勝って優勝するよ!」


そうと決まれば、江本君に頼んで試合に参加しよう


「私もアタック、打つからね。ほら、早く体育館に戻ろう!」


私は澤田君の手を引いて体育館へと向かった








敗者復活戦のメンバーを決めていた澤田君とその周りにいたクラスの子に出たいと伝えると、一言でOKしてくれた

今、敗者復活戦で2組と4組が試合をしていて、その勝ったほうと戦うらしい

結果は4組の圧勝、さてここからは5組の出番


《男子》

西川君

浅野君

江本君

《女子》

神城さん

さやちゃん


コートに立つとなんだか、緊張してきた。うわぁー、失敗したらどうしよ。次々に不安が出てくるよ


「二ノ宮っ!ファイトっ!」


澤田君が手を振ってくれて応援してくれた。本当だ、よく聞こえる。すると、小走りでみおちゃんが私の元に駆けてきた。そして、私の耳元である重要事項を囁いた。

それは…


「試合に負けたら、アルフェッチェのコスプレとその他、色々なコスプレもしてもらうからね!」


どうやら、この試合はある意味負けられないかも

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