16・研修2日目 ~妄想女子の夜~
澤田とペアになった
田中 澪からの視点です
田中 澪についてのキャラクター説明は
12・研修1日目 ~お昼ご飯~
に書いてあります
はいはいはい!クジを引きましたよ。15番でした。まさかそれが学校で噂されているイケメンの澤田だとは、思いもしなかったよ。本当、こんな近くで顔を拝めるだなんて神様ありがとうございます。これで妄想の幅がかなり広がりますよ!
「よろしくね」
「こちらこそ」
基本私は傍観主義なので澤田に対して恋だとか愛だとかいう感情はございません。ただ私が勝手に澤田の周りにいる子達を脳内でくっつけて妄想に浸るのが毎日の日課なのです。例えばBLだと『澤田×江本』・『澤田×あおっきー』とか百合だと『二ノ宮×松永』などなど妄想は無限大、お金もいらない自由なのです!
「研修委員のチョイス良いと思うよ。こんな楽しいイベントなんて研修でなかなかで出来ないでしょ?」
「うん」
森に入ると奥の方からはたくさんの悲鳴が聞こえた。キャーキャー叫んでる、そんなに怖いのかな
「確か千夏先生がお化け役が増えるって言ってたよね」
「うん」
「私はホラー系は大丈夫だけど、澤田はどうかな?」
「うん」
「うん、じゃなくて、大丈夫かって聞いてるのに」
「うん」
「うわっ!ゾンビだ、ゾンビが出てきたよ。あっ、ナースのゾンビだ。可愛いーじゃなくて後ろからも追ってくるよ」
「うん」
話し掛けても上の空、生返事しか返ってこない。何か考え事してるな。絶体に二ノ宮さんの事だろうけど、しかもゾンビが出てきたというのに歩調はそのままだし、前見えてないだろ
「うぁあぁ…」
「グッ…」
「おぉおおお」
ゾンビの方が一生懸命に怖がらせようとしてくるけど、私は怖いのは大丈夫だし、澤田は上の空だし、なんか驚かなくてごめんなさい
「お化け役の方々、すいません。驚かすなら次に来るペアを思いっきりおどかして下さい。私たちはおどろかないと思うので」
大量に集まってきたゾンビになぜか謝る。だってせっかくおどろかせようとしてくれてるのに、おどろかないなんておばけ役にとっては地獄でしょ?でも、私の性格から言って、嘘でも驚くだなんてそんな芸道は出来ないからさ。そして歩きながら謝って私と澤田は長い道のりを会話しながら歩いた
「澤田はバカですか?」
「うん」
「澤田はナルシですか?」
「うん」
「澤田は宇宙人ですか?」
「うん」
「澤田は悪の組織に所属する冷血にして冷徹で極悪非道な一匹狼を貫く孤高のスナイパー『マキシム』か⁉︎」
「うん」
なんでも、肯定しかしない。面白いな
「青木のやつ…」
ぞわっと澤田から背筋が凍るような負のオーラを強烈に感じた。それにさっきから青木、青木ってブツブツなんか言ってるし、怖いよ。うわぁ、多分あれだな、二ノ宮さんとあおっきーがペアになったことがきっかけになってるんだね。あの時の顔はなんと言うか、怒りと悲しみと困惑と色々な感情が詰まってて複雑な表情だったな。あんな表情は滅多に見られなくて逆に新鮮だったよ
「青木め」
更に黒いオーラを濃くさせていく、恐ろしっ、もう嫌だ。そうだこんな時こそ何かのために家から持ってきた道具を使おう、どうせ手錠を外しても澤田は気付かないだろうし。私はポケットから長い筒を取り出して、その中からピッキングツールを出した
ガチャガチャガチャ
「よしっ外れた」
元より手は繋いでないので澤田と少し距離を開ける
「今度は坂道だよ。気を付けないと転ぶよ?って言っても聞いてないだろうけど」
「うん」
おいおい、いつまで考え事してるんだよ。いい加減、反応したらどうだ?お化け役も私達が怖がらなくて萎れてるし、可哀想だよ。というかこのまま、こんな感じで終わるのか?いやせっかくなら聞いてみようか。
色々と、ね
「澤田って二ノ宮さんのこと好きだよね」
「うん、好きだよ」
「ほぉ〜」
今まで、生返事しかしなかったのに、今、はっきりと返事したな。二ノ宮という単語は効果抜群だった!ポケ○ン風に言ってみたよ
「って、ええ!と、なっなにを聞くんだよ」
「ふふっ」
「というかここどこ?いつの間にか手錠外れてるし」
ほら、やっぱり気付いてなかったね。『というかここどこ?』って、無意識に歩いていたってことかな。澤田、ある意味すごいな
「私の家は鍵屋だから、これくらいの鍵穴だったら簡単に壊せれるよ」
なるほど、と納得したみたい。それと私はさっきから、ふつふつと湧いていた感情を澤田にぶつけた
「というか澤田、さっきから考え事してたでしょ?私が話しかけても生返事だったし、スルーされたし」
「えっ、話し掛けてたの?ごめん気づかなかった」
でしょうね。流石の私もあんなにスルーされたりしたら、傷つくよ。でもそんな不安そうな表情をされたら、許してしまう。あっそうか、これが澤田の武器か、ちっ、不意打ちでこう来るとは思ってみなかった。しょうがない、ここは大目に見るとして、二ノ宮さんの事を根掘り葉掘り聞き出して、チャラにするか
「まぁそれは良いとして、その考え事って二ノ宮さんのことでしょ?最近露骨になってきたよね。クラスの中では江本と松中さんと私ぐらいしか気付いてないけど、というか、いつも澤田にくっついてる奴らも気づけよな。私から見れば露骨過ぎて笑えてくるよ?本当にさっきも昨日も、その前だって」
「そんなにわかりやすい?」
「わっかりやすいよ〜!で、いつ頃かな。意識し始めたのは?この際だから言っちゃいなよ」
言え、言ってしまえ、そして私の妄想心を掻き立てておくれ、さぁこい!ばっちこい!おおっ、こんなところにちょうどいい木の枝があるではないか、これをマイク代わりにしてみよ。ふぇっふぇっ、どんな言葉が出てくるかな?楽しみじゃ楽しみじゃ、シャーハッハッハッ
「最初は、桜ヶ丘の入試の時だったんだ」
「おっ、そこからなの⁉︎」
てっきり、私は高校1年に入って一緒のクラスになって一目惚れしたのかなって思ってたからね。まさか、入試の時からだったとは、ちょっと驚きかも
「試験の昼休みに松永が誰かと一緒に昼ごはんを食べるのを見て驚いたんだよ。松永って見た目はつり目で文学少女、少し近づき難いだろ?それにあの頃は尖ってて、オレでも近づかなかったくらいでさ」
松永さんって尖ってたの?中学は違うからわからないけど、澤田が近づかないってことはよっぽどのことなのかな、今から見てみると、とてもそんな様子なんて思いもつかない
「それで、偶然、拓真と一緒に見たのが松永が笑ってるところだったんだ、あの時は尖ってる松永が笑ったことなんてなくて、一体誰と話してるんだと思って松永の隣を見たら」
「二ノ宮さんだったんだね」
「うん、その時の笑った顔が可愛くて覚えてたんだ。それから入学して同じクラスになったけど、話す機会がなくてさ。拓真は同じ部活で色々と話してたみたいだけど、でもやっぱり一番はみんなで出かけた時かな」
確かに二ノ宮さんの笑った顔は女の私でも、鼻血が出そうなくらいの破壊力だよ。本当、松永さんってすごいよね。あんな可愛い子と一緒にいて、よくLIFEが保てられるよ。私だったら、一気にLIFEが0になる自信がある。これは断言しよう
いかんいかん、話がそれた。澤田の話を聞く限り、どうやらみんなと出かけた時がきっかけになったらしい。みんなとは多分、江本と松永さん辺りかな、それにしても澤田から二ノ宮さんへの思いがビシバシ伝わってくるよ
でもさ、そんなに思ってれば
「へぇ、そんなに思ってれば告れば良いのに」
そうすれば、恋人の関係になれるし、きっと澤田と二ノ宮さんなら上手く行けるのと思うな。だから澤田は私の問いに即答で『する』と言うと思っていた
「告白はまだしない。多分、告白すると二ノ宮には必ず困ると思う、それに二ノ宮を困らせたくはないし、今の関係を壊したくはない」
まだしない、予想とは微妙にずれてた。『まだ』、『まだ』ですか、はぁ『まだ』ですか。と言うことはいずれかは言うんだね。いや告白はきちんと言わないといけないよ。でもってその理由が二ノ宮さんを困られたくない、と来ますか。成る程ね。多分、私が観察してきた感じだと二ノ宮さんって今までに誰からも告られたことはないと思うよ。うん、確かに告白されたことがない人は突然、告白されてもどうしたら良いのかわかんないよね、それと二ノ宮さんの性格からしたらさ
「困らせたくないのは分かったよ。でもさ、もし仮に澤田とAさんが同時に告って、二ノ宮さんがAさんの方にOKしたら澤田はどうするの?」
「今の時点で二ノ宮はOKしない」
即答で断言したな。よほどの自信をお持ちですね〜
「だから、仮にだよ仮に」
「その時は二ノ宮を応援する。二ノ宮が自分で決めたことだからオレは何も言えないし、多分、見守ることしか出来ないと思う」
応援でいいの?それはそれで澤田らしいけど、一歩引いてどうするっ!略奪愛とか考えないのかよ?好きなんだろ、なら奪っちゃえばいいのにさ。もしかして諦めの悪い男って思われるのが嫌なのかな?でも、二ノ宮さんって周りが言わないだけか本人知らないだけで澤田と同じくらい人気なんだよ。(江本の情報)それを澤田は把握してるの?
「いきなり話が変わるけど、二ノ宮さんって可愛いよね。女子力高いし、男子の中で密かに人気あるよ。本人は自覚してないけどさ。でも、等の本人はリアルに恋愛に疎いでしょ?あれ危ないよね。いつか絶体に襲われちゃうよ」
「本当にいきなりだね。確かに二ノ宮は可愛いよ。コロコロ変わる表情とか話してると楽しくて、って簡単に襲うとか言うなよ」
前半はのろけたな。だってあの、にやけた顔、ご馳走様です。やっぱりイケメンはどんな表情をしてイケメンだな。って、ヤバイヤバイ思考がまたどこかに行ってた
「ゴメンゴメン、でも、あれは本当に危ないと思うな」
「大丈夫、二ノ宮に手を出す奴はシメるから」
シメますか、澤田のシメるは予想がつかなくて、怖いな。しかも笑顔で言われるとなぜか迫力がある。あははは、あれ〜笑顔の裏に何かありそうな気がするのは私の気のせいかな?
「ふふっー、言うわね。でも、ミイラ取りがミイラにならないように気をつけなよ」
「どういう意味だ?」
手を出すのは他の奴らだけじゃないよ
その中には澤田も入ってるかもね。っていう意味さ
「さぁね。とりあえず私が言いたのは、二ノ宮さんに告白するのは早めの方が良いよってこと。現にあおっきーは気があるみたいだし、親密度で言うとあおっきーの方が勝ってるかな」
「青木…」
しまった!澤田がドス黒いオーラ放っている。私は90のダメージを受けた、残りのHP10。どうやら澤田にあおっきーという単語は禁句だ。と、とにかくこのドス黒いオーラをいち早く引っ込めて欲しい。おっ!ちょうどいいタイミングで分かれ道があった
「澤田っ!澤田っ!元に戻れ。ほら分かれ道だぞ、どうするどの道を行く、さぁ考えろ」
よしっ、戻に戻った。ゴメンゴメンって言いながら笑ってるけど、こっちはかなり怖かったんだよ。イケメンだからって笑って済むと思ってるのか!その考えは甘いぞ、でもこの爽やかスマイルで言われると許すというか、呆れるというか、まぁ簡単に言うと怒る気は失せるかな
「とりあえず、女の勘で左にいこうか、ほら澤田、私を二ノ宮だと思ってエスコートしなさい」
「それは無理あるだろ!」
* * *
「おかえりー」
「おっつー」
左の道は全くお化けが出てこなかった。となると、左の道にいない分が右の道に集中してるのかな。次の江本と松永さんペアはどっちを選ぶかな?あの2人もなかなかの見どころがあるんだよね。しかも幼馴染だし、松永さんはツンデレ要素ありありだし。気になるんだ
「二ノ宮っ!」
「澤田君、おつかれ、田中さんも怖くなかった?」
「私は楽しかったよ。色々とご馳走様な感じだったし」
そうですとも、澤田から二ノ宮さんの事を色々と聞けたからね。まだ足りない部分はあるけど今日のところは充分です
「にのっちも楽しんでたよな」
あーらあら、また始まりましたよ。澤田とあおっきーの静かなる戦が、色々と妄想か膨らむなぁ
「澪、おかえり。楽しかった?」
「香織、ただいま。うん最初の方はあれだったけど後半からは楽しかったよ。いやむしろご馳走様ですの方が多かったな」
「その発言からすると、色々と、楽しめたんだね」
色々と、のところを強調して言うあたり。よく私のことを理解していらっしゃる。それとなぜか呆られた顔で見られた
「んっ、冷た」
ポツリ
鼻先に水が当たった。ふと空を見上げるといつの間にか月明かりが綺麗だった空が曇っていて冷たい雨が降り始めていた
読んでいただきありがとうございました




