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異界の悪魔が恋をして

バレンタインとバースデー

作者: 縁ゆうこ


 またまた廻ってきました、この季節。

 バレンタインデーと、一直さんのお誕生日が。


 今年のチョコは手作りじゃなくてもいい? と一直さんには了解を取ったので、私はいそいそと、バレンタインフェア真っ最中の超有名チョコレート店で、高級チョコの詰め合わせを買った。まあ、ほとんど私のお腹に入るんだけどね、へへ。

 というのも、お世話になったお礼やちょっとした贈り物をするときに、いつもなぜか目に入ってしまう、そのチョコレートのお店。

 普段はきっと自分には買わないものだから、っていう理由で、何度か人に贈っているうちに、どうしても私も食べたくなっちゃって、それならバレンタインに便乗して買っちゃおう、って事になりました。


 一直さんは、

「俺は恭と一緒に食べられればいいから、何でも好きなのを買って良いよ」

 などと、優しいことを言ってくれたので、そこは遠慮せずにね。でも、チョコと一緒に私も食べられてしまう? のはいつもの事だけど、また別の話。


 バレンタインはそんな感じで何の問題もなく過ぎたんだけど、問題はお誕生日の方だった。




「今年はバースデープレゼント、何がいい?」

 いつも頭を悩ませるプレゼント。サプライズでも良いんだけど、今年は聞いてみようかなーなんて思って軽々しく聞いたのが間違いだった。


「うーん、…じゃあ」

 しばらく思案顔でいた一直さんが、ちょっと可笑しそうに言ったものは。

「ネクタイがいいな」

「! ええっ?! イヤよ!」

 私は即答する。

 えっとね、別に意地悪してる訳じゃないのよ。

 実は、今までも何度かネクタイはプレゼントしているのだ。だってネクタイが1番手っ取り早いプレゼントだと思っていたから。

 それが甘い考えだったのよ。


 1本目。

「あら、あのネクタイは締めていってくれないの?」

「うーん。なんだか滑りが悪くてね」

「ふうん」


 で、2本目。今度はシュルッと滑りがいいのを選んで。

「…どう?」

「うーん。良いんだけど、ちょっと幅が広すぎるみたいなんだよね」


 3度目の正直!

「今度はどう?」

「なんか、厚みがありすぎて…」


 その後に贈ったのも、気に入ってくれたのはたった1本だけ。しかもそれはデパートで店員さんが熱心におすすめしてくれたものだった。

 わかるでしょ。私にとってはネクタイは鬼門なの!

 なのになんでまたネクタイ?

「もー、一直さんってば! 私が選んだネクタイは、ぜえったい気に入ってくれたためしがないんだもの。ネクタイだけはイヤですう」

「ずいぶんな言われ方だなあ」

「あたりまえです」

「もうそろそろ大丈夫じゃない? 俺の気に入るようなものを選ぶの」


 私はその後も抵抗していたんだけど、そこは惚れた弱み? 一直さんが本当に寂しそうな顔をするので、しぶしぶ頷いてしまったのだ。

「わかったわ…。じゃあ今度こそ頑張ってみる」

「本当? うれしいな。じゃあ今から先にお礼しておくよ」

「えっとあの、一直さん? 何で寝室に…」

 とまあ、その日はいつものごとく、お礼の先払いをされてしまったのだった。




 翌日。

 朝のお茶を配り終えて浮かない顔でデスクに戻った私を、そういうことには目ざとい甚大がすぐさま聞いていた。

「なーにさえない顔しちゃってるの? あ、一直とけんかでもした?」

 そんな風に言うから「ちがうわよ」と言って、ボソボソとネクタイの話をして聞かせた。

 その時は「ふうーん」とだけ言っていた甚大だったが、終業時間になると、

「今日はこのあとちょっと付き合って」

 などと言う。そして有無を言わせず早く着替えてこいとロッカーへ押しやられ…。

「奥さん借りるわよ、一直。ちょっと遅くなるから、今日は1人寂しく夕飯してらっしゃい」

 と、一直さんにたたみかけるように言った。


「なんだよ甚大、あいかわらず強引なヤツだな。まあでも…、わかったよ」

 一直さんは、苦笑いしながらも甚大の性格がわかっているので了承する。

 けれど私は、甚大に付き合っている暇はないので文句を言う。

「ええ? いきなり何よ、甚! 」

「いいからおとなしくついてらっしゃい!」

「ええー?!」

 と、引っ張られて行った1階には。


 なんと、那波とアスラ。パンダさんに手塚社長まで顔を揃えて待っていた。

「え? なに、どうしたの皆」

「アタシが頼んだのよ。アンタが一直に贈るネクタイでグダグダ言ってたから!」

「へ?」

「早く解決しないと、アンタすぐ仕事に影響するんだから。それで困るのはアタシたちなんだからね!」

「ちょっとそれはないでしょ」

 そんな風に言ってるけど、甚大が本気じゃないって事はすぐにわかった。私も甚大の性格はわかってるもんね。心配してくれてるのだ。


「ふふ、恭ちゃん。まだネクタイってトラウマなの?」

 事情をよく知る那波が聞くので、仕方なく答える。

「うーん、残念ながら。だって一直さんってば、ハードル高すぎるんだもの」

「何がハードル高すぎる、だ。たかがネクタイ1つ決められないのか、お前は」

 私が愚痴ったとたん、アスラがまた生意気な事を言うから、そこは受けて立つ。

「なーんですってー。那波が選んだものなら、何でも鼻の下伸ばして受け取るあんたとは、ちょっと違うのよ、一直さんは!」

「なんだと」

 ふたりのやり取りを、まあまあ、となだめる社長とパンダさん。


 そんなおふたりからは、忙しい合間に書いて下さったらしい、ネクタイの選び方を書いたメモを受け取る。

「え?! ありがとうございます! 」

「いいよー、蔵木ちゃんがちゃんと仕事してくれないと困っちゃうからねー」

「こんなオジサンのアドバイスじゃあ、参考にならないかもしれないがね。一直くんに良いのを選んでやってくれたまえよ」

 などと、2人とも大人の対応。でも、素直に嬉しいー。

 でね、さすがにおふたりをショッピングに付き合わせるわけにはいかないので、お店には那波とアスラ、そして甚大がつきあってくれることになった。



「いらっしゃいませ!」

 有名デパートの紳士服売り場。

 私たちがゾロゾロと足を踏み入れると、目をキラキラハートにさせて店員さんがやってくる。

「今日は何をお探しですか?」

「えっとあの、ネクタイを…」

「はい、それでしたら、こちらにございます!」

 と言いながら手で示すあたりに、色とりどり、素材もとりどりのネクタイが、ずらっと並んでいる。

 私はその光景を見ただけで、ダアーっと疲れと冷や汗が出てしまった。


「うわぁー、ずいぶんたくさん種類があるのねー」

 那波がなんだか嬉しそうに言う。すると、店員さんも負けずに嬉しそうに答えを返す。

「はい! ちょうどこの時期は、冬に出したものと、春物の新作も出る時期でございますので。その上! 今でしたら、バレンタインフェアとしまして、新作春物も、お得な価格で提供してございます!」

「本当? すてきねー」

 などと言いつつ、那波はアスラを横に立たせて、あれこれとアスラにネクタイを選びはじめてしまった。

「あら、これステキ。ちょっとアスラくんあててみて」

「はい…」

 那波はネクタイをアスラの首のあたりにあてて、ニッコリと微笑みながら言う。

「うーん、やっぱりアスラくんは何でも似合うわねー、ふふ」

「那波さんが選んでくれるものなら、どれでも似合いますよ…」

 と、顔を赤らめるアスラ。

 おーい、あんたたちはつきあい始めのカップルかー。私は違う意味でまたどっと疲れてしまい、ガックリと肩を落とした。


「はいはい、やっぱあの2人はセットで連れてくるんじゃなかったわねー。もういいわ、アタシが選んであげる」

 と、甚大も並んでいるネクタイの前に行ったのだが…。

「あらー、これ! ねえ、これアタシの彼に似合いそうじゃない? えーっと、あら! 思ったよりお安いじゃない!」

「はい。さすがお客様、お目が高い! そちらはこの春の最新バージョンでございます」

「まあ、ホント? さっすがだと思わないー、恭。恭ってば! あ、そうか、今日はアンタの一直のネクタイを選びに来たんだっけー。でも、こんだけ種類があるんだから、何とかなるでしょ。アンタも自分で選びなさい」

 と言いながら、甚大も彼氏へのプレゼント選びに躍起になってしまった。


 あーあ、結局こうなるか。

 と、ふと思い出して、社長とパンダさんが書いてくれたメモを見てみたのだが、やっぱり文字で書いたものだとピンとこないのよねー。


 で、その後、店員さんを捕まえて、あーでもない、こーでもない、と言いながら、本当に真剣に、ものすごく時間をかけて、なんとか一直さんのお眼鏡にかなうんじゃないかと思うものを選び出したのだった。


 どうか今回こそ、と手を合わせたくなるような思いで、綺麗にラッピングされたネクタイを受け取り、ふと回りを見ると…。

 那波と甚大は、なぜか両手に一杯の紙袋を持っている。アスラももちろんね。

「すごくオトクだったわねー、那波。今日お買い物に来て良かった!」

「そうですね。あ、恭ちゃん、ネクタイは選び終わった? あ、その袋。良いのがあったのね」

「もう! 選んでやるってついてきたくせに、結局私が自分で選ぶ事になっちゃったじゃない」


 ぷうっとふくれて言うと、2人は顔を見合わせてほほえみ、可笑しそうに言い出した。

「そりゃあそうでしょ。アタシたちが選んじゃったら、一直もガッカリよ」

「恭ちゃんがすごく一生懸命だったって、一直さんに言ってあげるわね」

 え? なあんだ、最初からそのつもりだったの? 

 だけど、まさかとは思ったけど、一応聞いてみる。

「でも、あたりまえだけど、一直さんに頼まれた訳じゃないわよね…」

「あたりまえでしょ!」

「私たちの、ただのおせっかい」

「…ありがとう」

 私は2人の友情に、ただただ感謝。

 私1人じゃ、結局グタグタ考えすぎ、前日あたりに焦りまくるのが自分でもわかっていたもの。

 皆のお陰で良いの選べたよー。あとは当日を待つばかりだわ…。




 で。

「お誕生日おめでとう、一直さん。これ、気に入ってもらえると良いんだけど」

 お誕生日当日、私は朝ごはんと一緒に、おそるおそるネクタイの包みを出す。

「ありがとう、恭。あけてもいい?」

「うん…」

 嬉しそうに包みを開ける一直さん。出て来たのは、赤を基調にしたシンプルなストライプ柄のネクタイだ。

「ああ、いいね。早速、今日使わせてもらうよ、いいよね?」

「はい」

 柄は気に入ってもらえたみたいだけど、問題は締め心地よね。


 一直さんは鏡の前で、シュルシュルとネクタイを結び終え、うーん、とうなる。

 え? やっぱりダメだった? ガックリ肩を落とそうとしたとき、一直さんはニッコリ笑って満足したように言った。

「うん。良い感じ。よく頑張ったね、恭。二重花マルをあげるよ」

「ホント?! よかったー」

 やったあー、あれだけ時間をかけた甲斐があった。

 何にしても報われるのは嬉しい事ね。

 すると、

「おいで…」

 と、後ろで不安げに見ていた私の手をとり、引き寄せてくれる一直さん。

 軽くかわしていたkissが、どんどん長くなり…。


 始業ギリギリに大慌てで出社した2人を見て、勘の良い甚大に、「今回のネクタイ、一直のお墨付きもらえたみたいね」と、からかわれたのは言うまでもなかった。







ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

去年はチョコ狂想曲。

今年はバレンタイン前日に控えている、一直さんのお誕生日プレゼントに苦戦する、恭ちゃんのお話しです。


実は、このお話、ネクタイのくだりは半分実話です。

うちの旦那もネクタイにはすごくこだわっていて、でも、プレゼントしてほしいらしく、今まで何本使えないネクタイを贈ったことか。

で、旦那のバースデーも今頃なのですが、今年も性懲りもなくネクタイが欲しいと言い出しまして。イヤダーと言いつつも、ショップで店員さんに愚痴言いながら、なんとか選びましたよ。まあ、おかげさまでこちらも花マル頂きました。


さて、そろそろ世間もバレンタイン。

彼氏に、ネクタイに限らず、趣味のものを贈るときは、念入りにリサーチして、出来れば一緒に買いに行く方が良いかもしれません。

その時に、彼氏のこだわりの一品に対する、熱い思いや語りを優しく聞いてあげると、貴女の株が上がること間違いなし!

きっと惚れ直して大切にしてくれますよー。なんちゃって。

そこで! 勝手に名言制作 【男のこだわりは、まるで小宇宙だ!】


異界シリーズ、今後もちょくちょくアップして行くつもりですので、どうぞごゆるりとお楽しみ下さい。

 

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