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蓮武はパンツのポケットから何かを取り出した。それを見せびらかすように、手をのぼして掲げる。
手に握られた一本。それは釘のようなものだった。銀色で先が尖っている。太さは例えるなら万年筆くらいだろうか。長さも一般的なそれと同じほどである。
武器という観点から見ると、それは釘ではなく寸鉄と言ったほうが正しいように思えた。
蓮武はなお目的の場所を見据え、おもむろにその手にした寸鉄を自身の足元に投げ落とした。
金属が砂利を押しのける音。蓮武が取り出したその道具は地面に刺さっていた。
その場所はちょうど、結界の境界ギリギリである。
そして蓮武は口を開く。
「打たれた点は五つ。弧を描き共鳴し、直線を用いて呼応せよ」
詠唱なのだろうか。蓮武の言葉に反応するように、彼の足元の寸鉄は青白い光を帯びる。それが遠くの林にも現れた。
礼御もそれを確認する。
一つ、二つ――確かに五つだ。
「役割は陣。効果は拡張。目的は打開」
青白い光は地を這って寸鉄同士を結ぶ。円である。
そして寸鉄の覆う光は天に伸びた。しかし実際光が向かったのは天ではない。一つの寸鉄から上がった光は、隣にあるものではなく、一個飛ばしで別の寸鉄につながっていく。
「おのおの我が力の軸となり、意義を具現する」
ここで初めて礼御は結界というものを視覚で捉えた。繋がった光は、まるでテントの骨組みである。
雨無 葵が形成した結界はドーム状のようだ。そのドームを今、蓮武の作り出した青白い光が上から締め付けるように線を描いている。
地面に立っている礼御からは知れないが、上空からのそれは、円の内側にその頂点を接触させた五芒星であった。
「これをもって完成し、完遂せよ!」
途端、辺りの林は一斉に荒れ狂った。
多方からの、突風である。
すきま風が奏でる甲高い音。加えてビンの口に息を吹きかけたような重低音が林一体に反響する。それはまるで結界の悲鳴ではないだろうか。
雨無 葵が作ったドーム型の結界が歪むのがわかった。歪みの原因は五つの寸鉄だろう。寸鉄付近はそれが特に顕著である。ドームの壁の一方は内側に押しつぶされ、もう一方は外側に膨らんでいた。
とうとうその歪みが限界に達する。ドームはドームの形を保てず、その崩壊するさまは実にあっけなかった。
何かが弾けるような音がして、礼御と蓮武の行く手を遮っていた壁は激しい空気の流れとなって発散した。
蓮武は仁王立ちしている。礼御がゆっくりと彼の元に並ぶと、その表情は実に爽快で、満足そうであった。
横目で見下ろし、蓮武は言う。
「さあて、行くか」
また礼御もそれに答える。
「ぁ、ぁあ」




