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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
5 二人の魔術師
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-5

 まさか、とは思わなかった。行くというのなら、ここではないか。


 蓮武に連れられて礼御が向かったのは、見覚えのある森の中だった。


 獣道のような細い山道をただ歩く。礼御と蓮武に会話はなかった。


 まだ日は暮れていない。蓮武がある場所で歩みを止める。なぜだか礼御はそこが遠い過去に訪れた場所のように思え、礼御も入口と呼べるその場所で立ち止まった。


「さて」


 ようやく口を開いたのは蓮武である。


「お前はここに見覚えがあるはずだが?」


 蓮武はわかりきったことをわざわざ礼御に尋ねた。礼御は愚直にもその魔術師の問いに答える。


「あぁ、知ってるよ。俺が初めて会った魔術師の住む家だ」


 蓮武はそれを聞くと「そうだな」と呟いた。そして続ける。


「俺の目の前に結界が貼ってあるのがわかるか?」


 そんなモノ、礼御にわかるはずもない。目には見えないし、感覚でわかるものでもなかった。そのため礼御首を横に振る。


 それを見越していたのだろう。蓮武はすぐに説明を始める。


「風の結界だ。なかなか厄介だぞ。一般人は意識せずままこの場から遠ざかり、魔術師はこの結界の術師の許可なしには侵入できない」

「俺なら通れますよ」


 礼御は蓮武の口調があまりに優しげであったため、少しイラついていた。蓮武はそんな礼御を楽しんでいるように礼御からは見えた。


「それは知っているさ。お前がこの風の結界を通り抜けて、結界の核を潰してきてくれたら、俺も準備なしで訪れることができたのだがな」


 蓮武はそう言って自分のパンツのポケットに手をいれ、なにやら弄っている。金属が擦り合うようながそこから漏れた。


「じゃあ、壊してきてあげますよ。そのくらい造作無いですから」


 礼御はいつものように、何も気にすることなく女魔術師に会いにいくように、蓮武を横切り進もうとした。しかし蓮武はそれを許さない。大きな手は礼御の肩をつかみ、行く手を遮る。


「……なんですか?」


 蓮武は呆れた様子であった。「少しくらい説明してくれててもいいんじゃないですかねぇ」と小声でぼやくのを礼御は耳にする。


「あんまり自分の力――というと間違いなく語弊があるが、まあいい――自分の力を過信しすぎるな。お前はその力をよく知らんのだろう」


 蓮武の言うことはもっともであった。礼御は自分の能力をよく知らない。けれど知らないなりに、使い方は多少心得ている。


「あんただって知らないだろ」


 礼御は自分の肩を掴んでいた蓮武の手を振り払いつつ言い放つ。それに蓮武は溜息で返答した。頭を掻きつつ、困った顔で言う。


「……俺の態度が偉そうなのは知っている。魔術師というのはな、案外そういう連中が多い。だからってそう邪険にするな。一応俺はお前の味方だぞ」

「……」

「それにお前の力について、お前よりは知識がある」


 それは魔術師なりの不格好な謝罪であった。この字深 蓮武という男が悪い奴ではないことを礼御はとっくに理解していたのだが、ここでようやくその理解を受け止められた気がした。


 しかし一転して口調を穏やかなものに戻すのも、礼御にとって簡単にできることではなかった。そのため心境の変化とは裏腹に、礼御は今までの口調通りに蓮武に話しかける。


「それってどう言う意味だ」

「言葉通りさ」


 沈黙が生じる。一吹きした風が木々を揺らし、木の葉をざわめかす。そして次の樹木が奏でる音響の前に蓮武が口を開く。


「どうせ向こうから仕掛けては来ないだろう。……徳間の性格を考えると、少し話しておく方がいいか」


 そう言って蓮武は礼御に与えられた力について、簡潔に、必要最低限の説明をする。

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