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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
1 妖狐と魔術師
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-7

 目覚めは快調というわけにはいかなかった。途中、暑さのせいで何度か目が覚めたこともあるだろうし、何より礼御(れみ)は嫌なことがあっても寝れば忘れるなんて都合の良い頭の持ち主でもなかった。


 礼御は真っ暗な部屋の中で目を覚ましたのである。おそらく日が暮れて数時間は経っている。もしかしたらすでに日が変わっているかもしれない。


 礼御は闇の中、手を伸ばしてテーブルがあるはずの空間をまさぐった。


 目的の物はすぐに見つかった。テレビのリモコンである。礼御は薄目を開けてボタンを見るも、暗闇に慣れていない今の目では対象を確認できない。そのため礼御は適当にテレビの電源を入れるボタンがあるあたりを押していった。


 わずかに灯っていた赤いランプが緑色に変わる。徐々に明かりを強めるテレビ画面を細めで見た礼御はとりあえず現時刻を確認するのだった。


 二十二時か。よく寝たな。


 礼御はのろのろと上半身を起こすと、項垂れたまま身体を伸ばした。縮こまっていた筋肉がほどけ、ほのかな熱とともにはっきりとした血液の循環が身体の目覚めを実感させる。


 部屋の明かりを点け、彼の目が光に慣れてきた。そうして嫌でも目に入ってしまう、例の絵ハガキである。


 礼御はそこで小さな溜息を漏らした。このハガキを見てから何度目になるかわからないそれは、すればするだけ気分が落ち込む要因となる他ない。


 礼御は汗でべたつく身体と一緒に、その思考も流し落とすことに決めた。


 全裸になってバスルームに入った礼御は、お湯は出さず水を頭から浴び、身体が流水で冷やされていく中、考える。


 いくら後悔しても落とした単位は取り戻さないし、親に言い訳したってみっともないだけだ。そもそも単位を一つも落とさない学生の方が少ないだろう。自分を大勢の一部分と容易に割り切ることは得策ではないが、それでも無二の思考・実力を持つ特別製だと考えることは不適切だ。


 礼御はシャワーを止めると、シャンプーボトルのポンプディスペンサーを二度押し、出てきた液体を両手の平で擦り合わせ、自身の頭部に持っていく。頭皮に染み付いた寝汗と油が分解されていく感覚が心地よい。


 礼御は気持ちの切り替えというものを意識的にできるほど精神が鍛えられているわけではない。それでも彼はこの負の感情に囚われることは避けねばならなかった。


 何か切り替わるきっかけでもあれば・・・。そういえば今度真夕(まゆう)さんとデートじゃないか。それはいい息抜きというか、切り替えるポイントかもしれないな。


 礼御はそんなことを考えながら、シャワーの水にくっついて落ちる白い泡を細目で観察していた。その後、顔や身体、歯磨きもついでに行ってから、蛇口を捻ってシャワーを止め、礼御は行水を終えた。


 礼御の明日の予定は何もなかった。身体をバスタオルで拭いていた彼はそのため思い至る。気分転換の一つとして、夜のサイクリングにでも出かけよう、と。


 また少し汗をかいて、ほどよく疲れたらまたシャワーを浴びて、寝ればいい。


 礼御はそのように決めると、冷蔵庫から紙パックのお茶を取り出し、そのまま口をつけて飲んだ。水分を失った身体に染み渡るようである。


 礼御は簡単な衣服を身につけると、すぐさまアパートの部屋を出るのであった。

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