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その日の夕暮れ時である。礼御と紅子は二人で人気のない街路を歩いていた。
その少し前、礼御の部屋である。礼御と紅子は突発的な怒りによって眠らされた玉藻の起床を待ったものの、どうやら起きる気配がない。しかし紅子は「そろそろいとまかの」と、礼御にとっても楽しかった時間に終わりと告げた。
もう暗くなるし、今夜一晩でも泊まっていけばいい。そうしなくとも、せめて玉藻の目が覚めるまで、そして別れの言葉くらいかけていかないのかと礼御は紅子に尋ねたが、紅子は譲らなかった。これ以上居ては変に愛着が湧いてしまうと紅子は辛そうに言うのだった。
本当はここに居たいが、彼女の性質上そう簡単に居候するわけにはいかないのは、先の会話で結論が出ていたことだった。
そのため礼御は、少し先まで彼女を送ることにした。そのくらいは良いだろうという礼御の申し出に、紅子は困りながらも自然な笑顔でそれを受けた。
紅子は帰り支度をする。礼御のパソコンに入っていたゲームディスクを取り出し、持っていたもみじ柄の巾着袋にそれを仕舞う。
それはとても綺麗な巾着袋だった。礼御が尋ねると、それは紅子が家を出るとき元の家主から買い与えられたものだという。紅子はその人物に対して多くを語らなかったが、アダルトゲームは一つの口実に過ぎなかったのではないかと、礼御は勝手に想像した。ではなければ、そんな上等な物を追い出す相手に贈るはずもない。
そう思った礼御の瞳には、紅子が無性に可愛く映って仕方がなかった。大事そうにその巾着袋を握る紅子の頭を撫でようと、礼御が無意識に手を伸ばした時である。ひどく焦った様子で紅子はその手を払い除けた。
その反応に礼御は呆気に取られ、そして驚いた。礼御が口を開く前に紅子が「すまぬ。少々驚いただけじゃ」と謝罪した。礼御は何を今更と困惑したが、紅子は自身のある表情を隠そうと、その作られた笑顔から見て取れたため、礼御はそれ以上口を挟むのをやめた。「お主は、わりかし危険な人物だったのじゃな」と紅子はおどけて言ったつもりだったのだろうが、まったくそれは演じきれていなかった。
しかしそんな違和感も、部屋を出るときには全て消え去っており、元の紅子である。赤い下駄に、紅色の唐傘をもったその姿は非常に奥ゆかしい少女を描いていた。
そして黄昏時の今に至る。
礼御は紅子の歩調に合わせるように、ゆっくりと彼女の隣を歩いた。気ままに会話をできるよう、極力人気のない道を選ぶ。その甲斐あってか、紅子との会話は途切れることなく続けることができた。
「しかし、驚いたぞ」
紅子の言葉である。それが何に対してのことか、礼御はなんとなく予想ができた。
「それは俺の能力のことか? それともいきなり全裸にさせられたことか?」
礼御が苦みをこらえるように尋ねると、紅子は溢れんばかりの愉快さを押し殺すように「クックッ」と笑ってそれに答える。
「それもあるがの」
「はははっ――」
礼御は力なく笑い、その出来事を振り返る。




