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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
4 赤しゃぐま、愛を語る
80/152

*十一

 葵は一人、仄暗い地下室で採取したそれを分析していた。


 古びた書店の地上部は、ほとんどが一般的な様式に対し、地下にこそ彼女の魔術師たる存在を呑みこんだ場所がある。


 偶然にも出会ったその青年から採取した赤い液体。彼はおおよそ異常とも思える能力をその身に宿していた。魔術師にとって喉から手が出るほど欲する事象の一つだ。


 魔術師のその目的は様々なれど、向かう方向は同じと言ってもいいだろう。『空前の風使い』である雨無 葵が目指す境地。それは神との存在交代である。簡単に言うと、現在魔術師が神と崇め、追う存在に成り変わることを目的としている。


 そう聞くと傲慢な研究目的なように思えるかもしれないが、魔術師にとって神とは天上の、決して手の届かない存在と言う認識ではない。人ではない、人より高能力な生物。そのような認識だ。


 人を傲慢だと言うのであれば、人がその生物の存在に手が届くと思っていることなのかもしれない。もしも本当に魔術師が言うところの(かみ)が存在し、一人の魔術師がその地位を狙っているとするならば、それはつまり犬や猿、魚や虫が人という存在を狙っていることと同じなのかもしれない。


 それでも追い求める多くの魔術師達。雨無 葵もその一人である。


 そうして舞い込んだ幸運な出会い。彼は人の身でありながら、龍の能力の一つとされる『破壊』をその身に宿していた。あらゆるモノを無効化し、なかったことにする、その力。


 葵はあらゆる面からから彼の血を検証した。これがようやく掴めた、己の研究が進む一歩だと言わんばかりに。


 しかし辿り着いたのは、驚愕すべきではあるものの、期待外れな結果であった。


「こんなモノを作り出せるとは……。こんな魔術を―――」


 必要とあらば彼を解体し、いかなる手段を用いてもその仕組みを全て手中に収めようとしていた彼女にとってはまさに期待外れであった。彼の身体は解剖するに値しない。


 葵は項垂れながらも、その龍の能力を形式だけでも模倣できていた魔術に無言の称賛を贈ったのである。

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