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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
4 赤しゃぐま、愛を語る
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-14

「冗談はさておき、実際はなんで恋人がいないんだろうな」


 玉藻はケロッとしてそう言った。果たして本当に冗談だったのか、礼御には判断しかねたが、とりあえず礼御の性癖云々の話題から離れたことに礼御は安堵した。


「サラリと、なんの努力もなくそういえば恋人ができました風に彼女が出来るタイプに見えるけどな」

「顔も悪くないしの」


 また顔の話か、と礼御は苦笑する。悪くないと言われ続けるのに対して、礼御はなかなかに辛いものを感じていた。不細工と言われ続けるのももちろん落ち込むし、イケメンと言われ続けるもの気が引ける。要は顔に関して格好良い悪いとそんなに話題にして欲しいことではないのである。


「やはり性格に難有りなんじゃね?」


 勝手に乗り込んできた見ず知らずの妖怪を居候させてやってるのに、その言い草か。


 礼御は気ままな同居人を心の中で軽く呪った。


「と言うかだな、なんでお前らは俺の恋愛に対してそんなに積極的なんだ? お前らこそ、俺に惚れてんじゃないか?」


 少しは言い返すつもりで礼御がそう言った。が、彼女らの方が上手であった。二人は小馬鹿にしたように笑い言う。


「それはねーよ」

「ペド疑惑続行じゃの」


 それを聞き、礼御は特に落ち込むことなく「そうですか」と話を流した。いちいち間に受けて感情を浮き沈みさせていたのでは、疲れてしまうだけである。


「それでなんでお前らは俺の恋愛に興味津々なんだ?」


 彼女らがどういった理由でこの話題に食いついているのか、本音を言うと礼御はそんなに興味を持っていなかった。そこまで彼女らが固執するのは単なる暇つぶしの一環なのか、それとも見た目の姿から想像できるように、他意はなく恋愛話をしたいだけなのか。


 その礼御の疑問にまずは玉藻が少しためらう様子を見せつつ答える。


「……だって恋バナって、いいじゃん?」


 それに釣られるように紅子も口を開く。


「やはり時代は変わっても、人の子の恋する気持ちは変わらんからの。甘酸っぱく、ときに苦い蜜の味はそうそう無視できるものではない」


 悲しいがその感覚は礼御にも理解できた。紅子の様子から本当にただ恋愛話をして話に花を咲かせたかっただけなのかもしれない。


 エロゲ好きはもしかしたらこういうところから来ているのかもな、と礼御はぼんやりと感じた。


「だから聞かせてくれ! 若人と知り合うことなど、わしにとって稀なのじゃ。貴重なのじゃ。リアル恋バナを聞いて、わしは悶えたいのじゃ」


 その紅子の告白に、玉藻が便乗する。


「あたしもそんな感じだ。恋バナは乙女の嗜みだからな」


 紅子は赤しゃぐまという家を守る妖怪だと言った。だとすると、彼女の悲痛な叫びも頷ける。若い子に出会う機会なんて、ほとんどないだろう。精々家主の子供が友人を連れてきたりしたときくらいしか、それはないはずだ。そして機会があったとしてもそれをものにできるわけでもないのだろう。なにせ紅子は妖怪である。そのため一般人に積極的に絡んで行くわけにもいかないに決まっている。


 礼御はそこまで紅子の心情を読み取り、やっぱりそれでか、となんとなく腑に落ちていた。


 そして玉藻に関してもおそらく同じような事が言えるのだろう。まして気の合う妖怪と共に、青春を謳歌する若者について談議する機会は恐らく多くない。


 そして紅子もそう長くはこの部屋にとどまらないのだろう。ならばこのくだらない会話の終わりも遠くない。


 そう考えた礼御は、二人の妖怪の興奮具合を無理に納得した。仕様がないか、とその話題について礼御も自分も悪乗りすることにする。


 これが言葉通り悪かった。もともとブレーキをかける気がなかった二人を抑える役がいなくなり、礼御の恋愛話は急激に熱を帯びた。


 そして上がりきった熱は礼御の服を燃やし、結局その出来事が終止符となって、紅子の家出再開の合図となるのである。

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