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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
4 赤しゃぐま、愛を語る
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 そこから同性愛について紅子は激しく主張したがったが、さすがに礼御も疲れたためそれは上手いこと拒絶した。玉藻がその話題に食付き気味だったことで、余計話を逸らすのが困難であったことは深く語ることでもない。


 礼御としては、最終的に紅子は今度どうするつもりなのかを尋ねたかったが、そうはいけなかった。同性愛の話題から遠ざかったものの、では礼御は男としてどうなのかという、礼御にとってはおせっかいこの上ない話題に突入してしまう。


「礼御って意外と有能な雄に見えないか?」


 玉藻はそう紅子に尋ねた。そんな内容を本人の前でするのは普通気が引けそうなものだが、彼女はそうでもないようだ。礼御も当然「俺がいないところで話せよ、そんなこと」と小さくぼやいたものの、妖狐と赤しゃぐまの会話に歯止めをかけるはできなかった。


「おう、そうじゃの。相応の甲斐性はもっとりそうじゃ」

「でも恋人の一人もいないようだしな」

「ふむ。今時の学生というとしょっちゅう情交の相手を代えてそうなものなのにのぉ。逆に愛に貪欲なのやもしれん。良いことじゃ」

「どうだかな。単に高望みが過ぎるだけなのかもしれない」


 玉藻は「だって女友達のような存在は割といるみたいだぜ」と意地悪く付け加えた。それを聞き紅子は感心したような、それでいて軽蔑するような表情になる。


「ほう。では性欲は外出とともに発散しておるのか」

「そういや、今日も外出したと思ったら、意外と早く帰ってきたな」

「恋人はいらぬが、セフレはおるのか」


 自身のことを噂するかのように話す彼女らに、礼御はどうも割って入りにくかったのだが、紅子の発言にとうとう口出しをする。


「ものすごく名誉棄損だぞ。あとセフレなんて下品な言葉を、その見た目で使うなよ」


 礼御の意見虚しく、紅子はどうでもよさそうであった。そもそも見た目は幼いが、礼御の何倍も生きている存在に違いないのだから、それも頷ける。いや、頷いて良いことでないはずだ。


「じゃあ、なんと言えばよい。わしはセフレ以外の言葉を知らん」


 そう問われると礼御も困った。確かにセフレ、つまりセックスフレンドと同様の意味を成す言葉を知らなかった。


「ちなみにファックボディとも言うらしいぞ」


 助け舟なのか、泥船なのかよくわからないが、玉藻が自分の知識を披露した。


「じゃあ、ファクボでいいんじゃね?」


 そう発言したのは紅子である。実に適当な物言いである。


「いや、別にそんな議論しなくてもいいけどさ。・・・でもお前らって純和風って感じだろ。もっと日本語的な言葉の方が似合うだろと思っただけさ」


 よく考えると追求して話し合うべきお題ではなかった、と礼御はそれでこの話題を切り上げたつもりだったが、どうやらあとの二人はそう捉えなかったようだ。


「確かにの」


 一番に納得の意を示したのは紅子であった。


「キャラって大事だもんな」


 次に玉藻もしみじみと賛成した。


 それから二人の言葉作りが始まった。当然礼御は参加しない。


「セフレ。つまり日本語訳すると情交するだけの友達って意味だよな」

「それを約したら情友か。・・・しかしこれでは既存性がありそうじゃ。在り来たりかの?」

「確かにもう少しひねっても良さそうだよな。漢字だけ見ると情友って、メル友の日本語版みたいだし」


 二人の妖怪は「んーー」と思考中を口から漏らした。その後紅子が新案を出す。


「では『閨』という言葉を使ってはどうじゃ?」

「『閨』?ちょっと一般的に使う言葉ではないように思うけど?」

「しかしこの『閨』という漢字を書いてみよ」


 その紅子の勧めに従い、玉藻は紙に『閨』という漢字を書いた。そして二人はそれをじっくりとみつめる。門構えに土・土で『閨』それを見た二人の感想はこれまたひどいものであった。


「門構え。門の中の二つの土。これはつまり・・・」


 明らかに玉藻の声は興奮していた。続く紅子も息が荒い。


「門の中。それが意味するのは家の中と言っても良いかの。家の中で重なる二つの土」

「土が表すのは、どう見ても人だろう。それが二つ縦に重なっている。突起した土の上に乗っている。それはまるで・・・騎じょ――」

「皆まで、皆まで言うな!」


 呼吸音が激しさを増していた。


「『閨』。この字に決定だな!」

「この字に決定じゃ!」


 二人の到着点はどうやら一緒だったようだ。その話を嫌でも耳にしていた礼御は、もう好きにすればいい、と注意をする気にもならなかった。しかしこれだけは二人に言いたくてしょうがなかった。


「それだと、その土はどっちも男だろ」


 その事実に玉藻も紅子も気づいていたようである。


「その意味でも、これからの時代は大丈夫だろ」

「その意味でも、これまでの時代は大丈夫じゃったろ」


 礼御は、嫌な時代に生まれてきたな、と変わりようのない事実を恨むのだった。

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