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その後の話題は礼御にとっては悲しいもので、またもアダルトゲームの話となった。紅子が熱く語るのである。
そうなったきっかけは次の礼御の一言であった。
「別にエロゲじゃなくて、ギャルゲをすればよくない?」
どっちも恋愛をするのなら、青少年に悪影響を――少なくともアダルトゲームよりは――与えない方をすればいいと、礼御は単に思ったからである。
それが紅子の気に障ったらしい。紅子は「まったくわかっておらん」と、半分見下し、半分激昂して語り始めた。
「いいか。そもそもギャルゲというものはエロゲの劣化版なのじゃ。下らん横槍を入れられるのは面倒じゃから補足を入れておくと、今言っておるエロゲというのは純正統派のものだぞ。下手にゲーム性を取り入れていない、選択肢でヒロインを落とせるそういうゲームじゃ」
あまりにその口調に熱がこもっているせいか、少々礼御は引いてしまった。逆に玉藻は興味津々といった様子である。なんで妖怪と呼ばれるモノ達はこうも語りたがるのか、と礼御はここ数日で慣れてしまった展開に従った。
「わしがエロゲをするのはなぜか。それは可愛い娘達と本気の恋愛がしたいからじゃ。本気の恋愛。これがえらく大事なのじゃ。エロゲをやるならギャルゲでもよくね、なんて抜かす阿呆にはその理由がわかるまい。そしてお前のような生息子にはあの崇高なゲームが、ただの性欲自己処理の道具にしか見えておらんだろ。あぁ、気色悪い。気色悪すぎて肌が黄色色じゃ」
その語りの要所要所に、どうにも突っ込みをいれたくなるのを礼御は必死で我慢をし、とりあえず彼女の熱弁を拝聴する。
「人間というものは二種類に分けられる。エロゲを非難する者か、エロゲを愛する者かじゃ」
「いやいや、人をそんなもので二分化すんなよ!」
とりあえず聞いていられなかった礼御である。
「にわかは黙っておれ!」
「え、……はい」
ちょっとした口出しすら、紅子は過剰に反応した。その凄みに礼御は恐縮してしまい、彼は彼女の言うとおり黙って話を聞くことにする。そこで玉藻が「ぷっ」と小さく吹き出したので、礼御は玉藻に一発入れようと身体を動かそうとするのだが、紅子の威圧感に物怖じし、断念した。またも玉藻は「ぷぷっ」と嘲笑する。
「非難する者の大体は現状に満足した者じゃ。つまりモテる奴か、そもそもモテるという概念を失った奴かの。
モテる奴はモテる故に次元違いの異性を求めたりはしない。しかしこれはどうかの? それは性欲がそれまでということじゃ。性欲とはつまり自身の遺伝子を後世に残す意思じゃろうて。そんな輩は生物的には劣っておる。生きているものとして現状手に入れている異性に満足しない者こそ優れた遺伝子の持ち主じゃ。
では後者はどうか。これもひどい輩であると断言できよう。前者よりひどい。現状に満足してはいけないのに、してしまっておる。そういう奴はゲームだ、現実だと抜かしておる間に遺伝子を残せんだろうな」
礼御は、次元違いでは遺伝子を残す相手ではないだろうに、というツッコミは黙っておいた。
「逆に愛する者とは現状に満足していない者じゃ。これはモテる奴と、モテない奴が当てはまる。
モテない奴は遺伝子を残したくても残せない、しかし努力を惜しまない者じゃ。モテないので生物的には劣った部分があるのだが、それでも先のモテる概念を失ったようなモノよりましじゃ。その意思はきっと唯一の存在につながるだろうの」
二分化した存在は、結局四分化されてしまった。
「そしてエロゲを愛し、なおかつ同生物にもモテてる存在がある。これほど優れた遺伝子もなかろうて。
まずモテる奴が一番やってはいけないことは何か。それは浮気じゃ。性欲の発散場所として真に愛する異性以外にも求めるというのは言語道断。生物として有能であっても、人であることを忘れた愚人である。
ならばここで矛盾が出てくるわな。モテる者は真に愛する存在が当然おるじゃろう。もちろんそれでは満足できんというのは、優れた遺伝子を持つそやつなら当然行き着く苦悩よの。ではどうするか。正解は別次元で発散すれば良いだろう。
これは浮気でなく、有能の具現じゃ。真に愛する者への姿勢を変えず、自身の限界を決めない者。それが真のエロゲユーザーじゃ!」
礼御は反応に困った。語り終わった紅子は、実にやりきった表情をしている。隣で聞いていた玉藻はパチパチと手を打ち、それで自身の評価を紅子に伝えていた。
しかし礼御がつまるところある疑問に行き着く。肌で感じることができない熱気で部屋は充満していた。それにうなされるように礼御は、その疑問を口にする。
「で、結局エロゲとギャルゲの違いってなんなのさ」
その質問を受けて紅子も困った様子を見せた。そしてみるみると呆れた表情を顕にする。
「ここまで言ってわからんのか?」
「いや、まったく。逆にどうすれば察せたのか、それすら不明だ」
紅子は「やれやれ」とため息交じりに口に出し。追加の説明を始める。
「初めにエロゲは本気の恋愛をする場じゃと言ったろ?」
礼御は、そういえばそんなことも言っていたな、と首を縦に振った。
「エロゲとギャルゲの違いなんて一つだろう。本気で人を愛するのならば、その者達は情交するだろうに」
それを聞き、礼御は嫌な予感がしたため、急いで自分の手を玉藻に向かわせた。
「つまりセッ――ふぐっ」
礼御の手は玉藻の口を塞いでいた。やはり少女がそのような言葉を躊躇いなく口に出すのは間違っている。
紅子はそんな二人のやり取りを気にすることなく話を再開する。
「エロゲでは本気で人を愛することができても、ギャルゲにはできん。つまりギャルゲなんて、恋愛のままごとじゃな。わしにはギャルゲをやる意味が一つとして理解できん。何が目的なのか教えて欲しいわ」
紅子の主張を要約するとこうだろうと礼御は思う。エロゲをするのは生物学上頷けるが、ギャルゲはそれに反している。よってエロゲとギャルゲを区別できないことは、愛することに対して不理解である。決してギャルゲの存在を否定しているわけではない。
そうまとめながらも、本当にそんなこと言ってたかな、と礼御は少々混乱した。そしてよくよく考えた礼御はたどり着いた。
「紅子、お前って女だよな?」
「愚問じゃ」
「女のお前が男性向けのエロゲをする意味って、また違ってくるよな?」
紅子は礼御の意見にしばらく沈黙したあと、口を開いた。そこから出たものは、今まで揚々と飛び出すのではなく、弱々しく床に溢れるようだった。
「……まあの」




