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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
4 赤しゃぐま、愛を語る
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-7

 数時間後のことである。ぼやけた瞳の女の子が二人、床の上で正座した姿がそこにはあった。


 二人は十八禁のゲームをしていたそうだ。それで初の男女の絡みシーンが流れ、興奮のあまり、大音量ヘッドフォンなしのプレイを行ってしまったらしい。


 礼御はそんな風にはしゃぐ二人の元に怒鳴り込み、拳を平等に振り下げた。が、そこで礼御の怒りやら焦りやらをまっさらにしてくれる出来事が起こったのである。玉藻も見知らぬ女の子も気を失ってしまったのである。まるで礼御に土下座しているような格好で気絶した二人の姿がどうにも滑稽で可笑しかった。まったく妖怪という生き物は案外脆弱であるから困ったものだ。


 その後目が覚めたときには怒りらしい感情が再浮上してこなかったものの、礼御は二人を正座させると、被った害の文句を二人に一応浴びせ、今に至る。


「ごめんなさい」


 今度ばかりは玉藻も反省したらしい。おとなしく正座して謝罪する。


「すまなかったのじゃ」


 そして見知らぬ少女も同様に反省の色を示していた。


 すんでしまったことは仕方がない。礼御は落ち込みながらも、いつまでも怒っていられないと、二人に正座をとくように促す。


「で、その子は誰?」


 礼御はそう玉藻にきいた。見知らぬ少女。少女と言うには不適切かもしれない。赤い着物を身に付け、白い足袋を履いている。日本人形のような純和風な顔立ちに、綺麗な黒髪が肩に当たらない程度に生え揃っている。そこに一層美しい赤色の、尾のようなまとめ髪が一本くっついていた。見た目の年齢は小学校低学年といった感じである。ついでにベッドに腰掛けていた礼御の隣には紅い巾着袋があった。浴衣を着た女性が手にしているような、あれだ。礼御はそれを手に持つと正座する見知らぬ少女に手渡した。中には何か球体のものが入っているらしい。無論中身を見たわけではないが、さわり心地でわかったのである。見知らぬ少女はおずおずとしながらも、その巾着袋をさっと奪うように受け取ると、己が手の内に大事そうに抱え込むのであった。


 ある程度予測はできている。まさか本物の童子ではあるまい。きっとまた妖怪の類に違いない。


 そこで礼御は思い至った。童子の姿をした妖怪――玉藻のように変化している可能性はあるが――といえば、思いつく存在がある。


「この子は紅子。妖怪さ」


 玉藻がそう答えた。


 紅子。そういえば先ほどドアの前で聞こえてきた会話の中でもそう言っていたことを礼御は思いだす。


「この子は変化していたりするのか。それともその姿が素?」

「いや、変化はしていないと思うな」


 その玉藻の言葉に隣の童子も頷いて肯定する。


 それならば、と礼御はその童子の正体を推測した。


「じゃあ、もしかして座敷童子とかなのか?」


 礼御の言葉に二人の少女が反応する。玉藻は「あっ・・・」といった感じである。なんだかマズイといった様子だ。


 その玉藻の反応がなぜなのか、礼御は考える前にわかった。


「わしを座敷童子なんぞと一緒にすんな!」


 一変。紅子と紹介された妖怪は瞬時に立ち上がり、礼御を睨んでそう言った。しかし見た目のせいで全然怖くない。むしろ駄々をこねているようで、礼御にはそんな紅子が可愛らしかった。


「わしは赤しゃぐまの紅子。座敷童子なんぞといった低級妖怪とは一線を画す、高貴な妖怪じゃ」

「……へ、へぇ」


 礼御は反応に困った。まず座敷童子が低級妖怪であったことに驚いた。座敷童子というと、人を幸せにする妖怪の代表みたいな存在だ。それが低級だったとは。そして赤しゃぐまという聞きなれない妖怪を名乗られても、その凄さは分からない。それがいかに一線を画しているのか、理解できない。


「なんじゃ、その反応の薄さは? 普通の者なら両手を上げて裸踊りするくらいしてもいいのだぞ。低級妖など、大口開けて向かってくるくらい、わしはレアで強力な妖怪なのじゃ」


 訳がわからないと行った様子で、紅子は叫んでいた。それでも礼御にとって、そうなんだ、くらいの把握しかできない。


「どういう表現なんだよ。大口開けてって。お前食われるのか?」

「食われてたまるかぁ、たわけ!」


 紅子は礼御の無知に憤慨する。そこで玉藻が礼御の理解に助け舟を出し、それから紅子をフォローする。


「つまり赤しゃぐまとは座敷童子の上位互換みたいなもんさ。言ってることもあながち嘘じゃない。


 紅子。済まないが、礼御の知識はまだまだ浅くてな。あまり妖怪に関する知識も豊富でない。許してやってくれ」


 紅子は少し黙ると「ならば仕様がないかの」と納得する。


 一方礼御は、玉藻の説明での紅子の価値を理解できたが、どうにも目の前の少女からは胡散臭さを感じていた。


 理由は一つ。彼女らの後ろで点灯しているパソコン画面に表示された画像のせいに違いない。裸で異様に胸の大きな女性がそこには写っていた。


 玉藻がいくらゲーマーだと言っても、いわゆるエロゲをしていた様子はなかった。それにドアの前で聞こえたやりとりからも予想できるように、このいかがわしいゲームの保有者は紅子なのだろう。


 上級妖怪がエロゲって……。嘘だろ。


「む、お主の視線はなんなのじゃ。もしや疑っておるのか?」

「……玉藻。この子は本当に赤しゃぐまって妖怪で、本当にその赤しゃぐまは凄い妖怪なのか?」


 礼御はとりあえず紅子を無視して、玉藻に再確認した。紅子は「なぜ無視?」と騒いでいた。


「本当、本当。あまり粗末に扱うと、幸せを逃すぞ、礼御」


 エロゲをする子供から得る幸せってなんだよ。


 そう思うと礼御は呆れた。しかし玉藻の様子から察するに、彼女の存在は本物らしい。


「すまんな。凄い存在に唐突に出会うっていうのは、なかなか調子が狂うものなんだよ」


 礼御は適当にそれらしい言い訳を紅子にすると、なんともあっさりと紅子は機嫌を直した。


「そうじゃろうの。いや、分かっておるぞ、人の子よ。人の子の頭の容量では、その反応がやっとなのだろうな。なに、お主のような反応を示した者はお主だけではない。気にするな」


 むしろ上機嫌になっていた。


 まったく変なやつばかりだな、妖怪というものは。


 礼御はそう思いつつ、なぜその上級妖怪が自分の家でエロゲをやっていたのか、その経緯を聞くことにした。

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