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「それで? 何か珍しいことでもあったかい?」
葵はテーブルに肘をつき、礼御にそう尋ねた。本棚に挟まれた部屋である。恐らく売り物ではないのだろう図書の数々が並べられていた。
「いや、珍しいことは―――ありませんでした」
一瞬、蛟の水保のことやいきなり現れた男の魔術師のことが脳を過ったが、礼御はそれを葵に、とりあえずは伏せておくことにした。
それを聞いた葵は「そうかい」と実に興味のない返事をして続ける。
「また変な奴らと知り合いになっていないだろうね」
冗談半分、釘さし半分と言った口調だ。礼御はその鋭い指摘にドキリとしたものの、「な、何もなかったですよ?」とまったく自身が伏せた情報を隠しきれない返答をしてしまうのであった。
「……まぁ、君が誰と仲良くなろうと知ったことではないがね」
先日は礼御にキツイ注意をしたわりに、本日の葵は礼御の半端な行動を見逃すのであった。礼御だって十分大人を名乗れる年齢である。そのため一度は忠告のようなアドバイスをしたもののが、その忠告を強制的にきかせることはないのだろう。彼女はあくまで礼御には興味がないことを装った。
「それで今日は何の用だ?」
彼女はなんだか手持無沙汰なように礼御には見えた。単純に会話をするだけでは礼御では役不足であるに違いない。
「別に用はないのですけど」
では礼御が何の考えもなく葵の元を訪ねたのかというと、それは違う。礼御は雨無 葵と言う魔術師を、ありていに言えば見極めに来たのであった。けれどその目的を単純に本人に伝えるほど、礼御も愚かではない。
葵は「ま、そんな数日で用ができては困るがな」と呟くのだが、それには礼御は内心苦笑した。ここ数日で話題には事欠かないほど、多様な出会いをしているのだから。
「では、今日は少し私の興味を手伝ってもらおうかな」
「……興味を手伝う、ですか」
変な言い方だ、と礼御は感じ魔術師の言葉を復唱した。
「そ。君の力について私は興味がある、そう言ったろ?」
「えぇ、確かに」
「それで、だ……」
魔術師に表情が実に微笑ましくなった。礼御はそれに虚ろな恐怖を感じ、身体をこそこそと葵から離すのだが、それに待ったをかける様に礼御は背後から空気の流れを感じた。振り返ると、そこには片方の口元をこれ以上ないくらいに引き上げ、見下したような目で礼御を見上げる小さな姿がある。
前方の葵は悠然とした笑みで礼御を圧迫し、後方の空子が接近してくる。
勝手に追い詰められた、と感じた礼御の頭にはあの男の魔術師が言った言葉がいくつも浮上した。「実験動物」、「準備が整えば始まる」、「注意しろ」。思考が麻痺し、身体が硬直する。
「やれ」
冷徹な命令は葵から空子に向けられ、そして空子から礼御に実行される。
礼御は首筋に鋭い痛みを感じ、小さなうめき声を上げた。




