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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
4 赤しゃぐま、愛を語る
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-3

 里愛は自身の嫌いなタイプを語る。それは外見に関することではまったくなく、内面に関することであった。しかし内面というとその人の性格に関したことになるだろう。里愛がここで挙げる要素は人の性格とも少し違っていた。


 簡潔に述べるなら、自己分析力とでも言おうか。里愛はそれに重きを置いているらしい。


「徳間さんはわたしのこと可愛いと思いますか?」


 こんなことを堂々と、そして真剣に問われた経験は礼御にはまったくなかった。それは実に答えにくい質問である。安易に「可愛い」「不細工」「普通」と答えるのが正解ではないことを含ませた質問だ。


 礼御がその真意に頭を悩ませ、解答を渋っていると里愛が助け舟――本人はそのつもりであるだろう――を出す。


「そんな悩まなくていいですよ。ていうか悩まないでください。ほら、わたしの顔を見て。可愛い? 可愛くない?」


 早急に悩んだ末、礼御は素直に思ったことを言う。


「そこそこ、可愛い顔をしているんじゃないか?」


 その答えに里愛は真面目な顔をして頷いていた。しかしどこか嬉しそうな表情を隠しきれていない。


 そして里愛自身も同じ質問に答えるのである。


「わたしもそう思います。わたしも自分のことはそこそこ可愛いと思っています」


 礼御は呆気に取られた。自分で言いやがった、とここは皮肉るべきなのか礼御にはわからないが、あまり直面しない状況である。果たしてこの質問の意味することはなんなのだ、と礼御が混乱していると、里愛は問題なさそうに続ける。


「世の中可愛い子と不細工な子がいるじゃないですか。それらの顔を全部足して平均した顔を出すとしますよ。ではその顔と比べて自分の顔が劣っているのか、(まさ)っているのかという話です」


 礼御はとりあえず里愛の話を全て聞くことにした。


「わたしの顔はその平均よりも上だと思います。別にナルシストなんかじゃないんですよ。単に――何も考えずに――見比べたとしたら、誰でもそう感じると思うんです。平均以上、だからわたしは自分で自分の顔がそこそこ可愛いのではないかと思っています」


 里愛は決して自分のことを美少女だと思っているわけではなかった。客観的に自分を見て、当然の自己評価を下している、そう言っているのだ。


「では徳間さん。」


 そこで名を呼ばれて礼御は少し厄介に思った。


「徳間さんは自分で自分の顔がかっこいいと思いますか?」


 予想通り、非常に答えにくい質問であった。しかし答えないわけにもいかないだろう。


 一瞬ためらったあと、礼御は自身の顔に自己評価を下す。


「俺も……、かっこいい方だと思うかな」


 すると里愛はうんうんと頷き、満足そうであった。


「わたしもそう思いますよ。徳間さん、わりとイケメンです」

「……そりゃ、どうも」


 礼御は普通に恥ずかしくなった。「俺ってイケメンだろ?」と半ば自暴自棄に言い放って、「そうですね」と真顔で返答された、と礼御は思う。


「つまり、どういった意味があるんだ?」


 この質問は、礼御が里愛の嫌いなタイプではないだろう、という話から発展したものだった。その後どうその話とつながるのか、礼御には検討がつかなかった。


「つまりわたしの嫌いなタイプっていうのがですね、明らかに可愛い子っているじゃないですか? なのに自分のことを『全然可愛くないですよ』なんて言っちゃう人いるでしょ? それがめちゃくちゃ気に食わないんですよね。いやいや、十分可愛いですから。お前が可愛くないなら、人類の九割は不細工ですからって奴です。そういう人が、わたし嫌いなんですよ。もちろん男性にも同じことが言えます。まぁ、明らかにイケメンって自覚して、それをためらいなく武器にしてくる男性なんて、むろんお断りですけどね」

「でも、それって社交辞令みたいなもんだろ。あんまり自分のことをかっこいいだの、可愛いだの言って過ごしてられないぞ」


 そう言った礼御に対して、里愛は「少し前提が変わってますね」と言って、さらに持論を礼御に披露する。


「今の話は友達とか、恋愛対象に対するやりとりの話ですよ。だからこそ、自身の評価を臆さず誇張なしに伝えて欲しいんですよね。だってそれが不細工に対する、イケメンもしくは美女の礼儀だと思うんです。もっと言えば義務です」


 義務だなんて言われても、礼御には義務と言われるほどの重要性を先の話で見いだせなかった。そのため礼御はその義務についての説明を、里愛に求める。


「だってですよ、Aという美女とBという不細工女がいたとして、『Aって可愛いよねー』っていう話になるとします。そこでAが『私なんて全然可愛くないよ』なんてBのいるところで言ってみてくださいよ。『え? あんたが可愛くなかったら、私はなんなの』ってBはなりませんか。なるでしょ! つまりはそういうことです。人より優れた部分がるのなら――もちろん時と場合にはよりますが――それをきちんと自覚しないといけないと思うのです。じゃないと持たざる者にとって最悪な侮辱ですよ」


 礼御は里愛の持論に納得はするものの、それは人それぞれだよな、と心の中で否定した。


 もちろん里愛の言うこととには一理ある。しかし不細工女の前で美女が「私って可愛いよね」なんていっても、不細工女にとっては侮辱だろう。ではどちらが不細工女にとってより侮辱的であると考えるのか。やはりそれが人それぞれである。里愛にとっては、美女の謙遜こそが侮辱と感じるのだろう。


 しかし実際は里愛のように感じる者の方が特殊なのではないか、と礼御は考える。イケメンが自分のことを「カッコイイ」と吹聴する方が、よっぽど頭にくるように感じる。まだ自身を謙遜してくれた方が好感を持てそうなものだ。


 それでも里愛にとっては前者の方が、気分がいいのだろう。事実をあるがままに伝えてくれた方が快いとは、なかなかどうして格好良い。里愛は自身も肯定したように、可愛い顔立ちをしているが、それ以上に内面が真っ直ぐで、ハッキリとしている。それが礼御にとって見ていて、聞いていて心地よかった。


 きっと里愛は大学に行ったら、わりと早い時期に良い恋人を見つけるだろう。


 そう礼御は思った。こんな時代で、この年代で、こうも格好良い性格の主はそうもいない。今時の学生なんて平気でカンニングや代筆を行っている。きっと里愛はそういった当たり前に行われている行為も許せないのだろう。


 だからこそこの性格を嫌う人は多いに違いない。それでも好感を持たずにはいられない性格。まっすぐすぎて逆に危うくも感じられる。そう感じる男性が悪い男だとは思えないし、里愛も変な男に引っかかったりはしなさそうだ。


 礼御は里愛のことをぼうっと見ているのに気づき、取り繕うようにアイスコーヒーを口にした


「なんだか、かっこいいな」


 里愛の披露に対して、礼御は思ったとおりのことを口に出した。すると里愛は「そうですか?」となんだか自分が格好いいという意味をよくわからずにいる。


「なんで大学受験に失敗したのか、なんだかわかった気がする」


 そう呟いた礼御の一言に里愛は女の子らしく反応した。


「えぇー、なんですかそれ。ちょっとひどくないですか」


 お互い静かに笑ったあと、里愛は他の客に呼ばれ、その会話は終えることとなる。

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