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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
3 蛟、ファッションを語る
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-13

 店を出て自転車置き場までの数十メートル。礼御と玉藻はちょっとした会話をした。


「礼御さ、誰かにあったか?」


 玉藻は礼御にそう尋ねた。「なんだか懐かしいような、憎たらしい匂いがする」と玉藻は付け加えた。


 それは先ほども聞いた表現である。一応異形のモノと接触してしまったのだ。玉藻に報告するくらいはしなければならないだろう。そうして礼御が蛟の水保のことを玉藻に話すと、彼女は心底嫌そうな面持ちになって言う。


「蛟の水保!」

「なんだ、知り合いか?」


 そういえば水保は最後に「お連れの方によろしく」と言った。よく考えれば、意味が分からない申し出である。見ず知らずの者に「よろしく」なんて伝えられても、伝えられた方は反応に困るだろう。


 だから礼御は玉藻の反応に納得した。


「まぁ、あたしも結構な年月生きているからな。それに水保もね。だから妖怪の知り合いもいるのだけれど、まあ、腐れ縁だ」

「へぇ。仲は良いのか?」

「あぁ? 腐れ縁だって言ったろ! 全然良くないさ」


 腐れ縁っていうものは大概なんだかんだ言って良い仲であると思うのだけど、と礼御は頭に浮かんだが口に出すのはやめておいた。


「あいつ嫌な奴だったろ。よく喧嘩したぞ。陸に住まうあたしと水に住まうあいつ。相容れないのさ」

「そんなものか……。そういや蛟ってどういう妖怪なんだ?」


 礼御は疑問に思っていた解答を玉藻に求めた。それに対して玉藻は快く思わないものの、それに答える。


「妖怪と言うには語弊があるかもしれないね。海神の配下にして、大河の主。ここらの水生妖怪や精霊のボスってことさ。この街の近くに大きな川が流れているだろう」


 そう言われて礼御は玉藻と出会った川を思い出した。その流れはこの場所から離れているものの、その支流にあたるであろう小さな水路のような水の流れがこの付近にはあるのだ。


「つまりはそこの主様だよ」

「……なんだか偉いやつと知り合いになっちゃったな」

「気をつけなよ。礼御が見た姿は小綺麗な人間女性を模していただろうけど、実際のあいつはけったいな姿だぜ」


 礼御は聞きたくないとも思ったが、興味深くもあった。


「胴体の長いワニみたいな感じだな。逆にあたしは金色の体毛に包まれた、清楚なる狐だぞ。どっちが勝つかなんてわかるだろ、礼御?」


 勝ち負けはよくわからんよ、と礼御は心の中で突っ込んだ。そもそも玉藻が『清楚』な狐と言うのは訂正したい。しかし水保が大層な存在だとは驚いた。中身で判断したらダメである。


 逆に礼御が「それより――」と玉藻に尋ねる。


「お前さ、俺がお金出さなかったらどうするつもりだったんだ?」

「どうするも何も、千円分買ったさ。それだけ。……でも礼御ならちょっとはお金出してくれるって思ってたし」

「……なんでだよ」

「だって礼御から連れてってやるって言ったんじゃん? それなら多少のわがままは聞いてくれるかなって。それに姫菜って子を適当に欺いてあげたし、そのお礼とか期待しちゃったし」


 そう言われて礼御は、そうだった、と玉藻の機転を思い出した。またそれを無下にしなくてよかった、と偶然ではるが先ほどの自分の行いとオスの習性を褒めた。


 当然だろ、とさも自分が義理堅い人間だと演じようと礼御が口を開こうとすると、先に玉藻が割って入った。


「しかしねぇ。美少女に貢ぐ快感がわかったんじゃないのか?」


 あくまでからかう風であった。しかし礼御には図星。姫菜の話が少し出たこともあり、脳内を読まれたのではないかと礼御は咄嗟に手で頭に触れる。


 それを見た玉藻は小さな驚きを見せ、そしていじらしく笑い言う。


「くくっ。ありがとっ、れーみ」


 最後に投げキスを礼御に与えた。それで礼御はいろんな意味で赤くなり、自分の浅はかさを呪った。


「う、うるさい。こんなの金輪際だ!」

「えぇー、あたしは優しい礼御が好きなのにな」

「うっせ!」


 玉藻はそんな礼御を「あははっ」と陽気に笑い、礼御の周りをひょこひょことうろついた。


「さてと、あたしは先に帰りますわ」

「乗って帰らないのか?」


 二人は駐輪場の目の前まで来ている。


「自転車では遅い。あたしはすぐにでもこの中身を拝見せねばならないのだ!」


 そう言って玉藻は購入した物品の袋を指差した。


「……ならないので?」

「無論!」


 興奮する玉藻を礼御は止めようとは思わず、「そうですか」と呟く。玉藻は礼御が止めようが止めまいが関係なく、もう一人帰宅を開始していた。


「そっけないぞ!」

「――邪魔されるのは嫌だろう? ゆっくりでいいからな!」

「おいおい……」


 なかなかの速度で玉藻は駆け出した。邪魔なんてするかよ、と礼御は思う。


 これが愚かな男の末路か。礼御は玉藻の後ろ姿を見送って自分の自転車の鍵を外し、自らも帰路についた。


 しかし礼御は何事もなく帰宅することはできなかった。


 礼御はこの後一人の男に呼び止められることになる。


 その男は字深 蓮武(あざみ れんぶ)と名乗り、そして自身を魔術師と称した。

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