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どうしてこんなことになっているのか。
礼御は水保に丸め込まれて、結果、簡易的な更衣室に押し込まれていた。手にはコスプレ衣装である。
カーテンの前に水保が待機しており、逃げ出すわけにもいかない。
なんだか変わった衣装だ。コスプレなんて普段着る衣服の原型をおおよそ保っていないものなのだから、それも当然ではある。夏とはいえ、押し付けられた衣服は通常より布の面積が四割減であった。ズボンはどうみても短パンである。それも太ももがとんでもなくみえることだろう。
狭い空間に閉じ込められて約一分。礼御はそれらを睨みつけ、しかし結局のところ、溜息混じりに服を脱ぎ始めた。
こうなった結果は、もちろん礼御が水保に言った「下、何か着ませんか?」からの展開であった。
その後の会話の一部始終である。
礼御の気遣いに、水保は意味深な笑を零したあと、事務的に「そうですね」と言ってスカートを身につけていた。
これで安心だと礼御が一息つこうとしたとき、水保は言う。
「ずいぶんな対応ですが、あなたは魔術師なのでしょうか」
礼御はそう尋ねられて、えっ、と少々狼狽した。たぶん自分は魔術師を名乗るべきでないことはわかっているが、では何なのだと問われれば、妖怪が見えるただの人である。
「いえ、……ただ見えるだけですよ」
他にも変なところはあるが、説明を求められてもできないので省くことにした。
「そうですか。なんだか変わった人ですね」
あんたも十分な、と礼御は水保に対して内心そう突っ込んだ。
「ところであなたもコスプレをしに来たので?」
それで礼御は思い出した。そういえばここはコスプレブースだった。
「ただの興味本位で覗いてみただけです」
「それは、まあ!」
そして有無を言わさずコスプレ衣装を手に持たされ、「いきましょう!」といきなり興奮した水保に衣服を剥がされかけ、慌てた礼御が「ちょっ、こんなところで脱いだら露出狂ですよ!」と論点のズレた返答をした結果、「そうでしたね!」と更衣室に突っ込まれた。
今ここである。
礼御は何度も抗議したが、水保はどうやら聞く耳持たぬらしい。
礼御はとりあえず上半身裸になった。そして渡された代わりの衣服を改めて見る。
「うわぁぁ……」
こんな服を着て野外を闊歩するような者は通報されかねん、と礼御は衣装に引いた。それを喜んで押し付けてきた水保にも引いた。
「もうちょっと筋肉をつけた方が、私好みですね」
「へっ?」
そう聞こえてきた言葉で、礼御は正面に設置された姿見に視線をあわせる。カーテンの隙間から水保が覗いていた。なんだかその目が輝いているように見えた。
「ちょっ、覗くなよ!」
「いいじゃないですか、減るものじゃないし」
「そういう問題じゃないだろ!」
「下半身スッポンポンのときに覗かなかっただけ、感謝して欲しいものです」
「いやいや、意味わからんぞ? だいたい下着まで脱がないから」
「えぇ、そんな! 生殺しですか!」
一体こいつは何を言っているのだ。
礼御は急いでカーテンを締めようとするが、さすが布である。どこからでも覗かれてしまう。
「おい、やめろって。もう着ないぞ」
「すいませんでした」
礼御の無意識に出したその言葉は、あっさりと水保を退けた。が、退く前の行動はやはり意味不明であった。一瞬力を緩ませた礼御の隙をついて、水保は一気にカーテンを開け、そして礼御の気が変わるのを防ぐように瞬時に閉めた後、更衣室から離れた。
「……なんなんだ、こいつ」
礼御の思考力では、この生き物の行動を推し量れなかった。礼御はまたもため息をついて、コスプレ衣装を身につけ始めた。




