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「私は蛟の水保といいます。以後お見知りおきを」
「俺は徳間 礼御といいます。こちらこそよろしくお願いします」
目の前の女性は案の定妖怪の類であった。これまた随分と礼儀正しい雰囲気である。しかし下半身は露出したままである。
初対面のあいさつを交わしたものの、どうしたものかと礼御は悩んだ。つい昨日、魔術師に自分は安易であると苦言を呈されたところだ。蛟の水保と名乗った妖怪が無害である確証はない。
礼御はとりあえずすぐにでも玉藻に報告したほうがいいのではないかと思った。しかしどうにも有害であるように見えない。警戒心が薄すぎるかもしれないが、下半身を露出したままで微笑んでいるこの妖怪が礼御には恐ろしいものには見えないのだから仕方がない。
ところで蛟とはどんな妖怪だろう。
礼御はその名に聞き覚えはなかった。もしかしたら魔物とか精霊といった、妖怪とは少し違うジャンルなのかもしれないとも思っていた。
「なんだかあなたは――変わった匂いをまとっていますね」
その水保の発言に、礼御の心臓は思い出したように一度大きくなった。
そういえば昨日からシャワーを浴びてもいないし、服も着替えていない。そんな状態で女性――といってもいいのだろうか――と対面するのは精神的にきついものがあった。
「懐かしいような……。憎たらしいような……」
そう水保は呟いて「ふふふっ」と笑った。
汗の匂いが懐かしいなんてどういった生き物なのだ、と礼御は目の前の存在にわずかな嫌悪感を持つ。
汗の匂いを好みそうといえば――。
「蛟っていうのは垢舐めに近い妖怪ですか?」
「……?」
その礼御の質問に水保は首をかしげて、またも裏を感じさせる魔的な笑を零す。どうやら垢舐めではないらしい。単に匂いフェチの可能性もある。ここ数日の経験上、こういったモノ達は何かしらの変態性を含んでいる可能性が高い。
礼御はそれ以上匂い云々について追求することをやめた。
「ところで――」
そう切り出した礼御はチラと視線を僅かに下げて、また元の位置まで戻す。
「なんでしょう?」
「下、何か着ませんか?」
それでも水保は「ふふふっ」と笑うのだが、そこでその反応は違うだろ、と礼御は先ほどの可能性はほぼ確定ではないかと不安になった。




