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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
3 蛟、ファッションを語る
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-7

 防犯ゲートから出ると左側に階段、正面にエレベーターがあり、玉藻が指差した右方向にはもう一部屋に続いている短い通路があった。そこにはガチャガチャが並んでいる。


 懐かしさのあまり、礼御はゆっくりとその種類を確認していると、一回まわすのに四百円かかるものがよく目に入る。ガチャガチャを楽しんでまわしていた頃は二百円するものですら豪華に思えたのに、今では二百円のものが安いものとして置かれている。


 しかし子供にとって四百円といえばやはり高額だろう。それとも最近の子供はこのくらいの値段のものをさっと回したりするのだろうか。礼御は時代の流れなのか、とほんのりと寂しい気分になっていた。


 しかし感傷にふける時間はなく、後ろから女性の声がこちらに向かって来た。複数人らしい。なにやら興奮気味で礼御のとなりを通り抜けると、一台のガチャガチャに群がるのを見て、礼御は唖然とする。見たところ礼御と同年代である。その人たちが意気揚々とガチャガチャを回し続ける光景は、これはこれで悲しい気分にさせるものがあった。


 やはりこの場は自分のいる世界ではないな、とあくまで無関心を装って彼女らの先にあるスペースを目指す。


 そこには長机と椅子が置かれていた。確かにここなら休憩もできるだろう、と礼御は誰もいないその場で一息ついた。


 大きなテレビが置かれており、胸の大きな女性が騎士の格好をしたアニメのコマーシャルが流されていた。どうやらブルーレイボックスが発売されるらしい。


 また、あたりを見回すと様々な色のペンや、デッサン人形が並べられていた。このスペースは休憩兼、作業スペースとして設けられているのだろう。


 そして礼御は気づいた。この部屋は一枚の仕切りで二分割されている。その仕切りの一部分に黒いカーテンがかかっており、そこから仕切りの向こう側にいけるようだ。一見しただけではその先はスタッフ以外立ち入り禁止と判断してしまいそうだが、どうもそういった表記は見当たらない。


 礼御は席を立ち、その黒いカーテンに近づいた。床には矢印と『コスプレルーム』と書かれている。


 ならば客も入っていいのだろう。礼御はそう思い、そのカーテンを超えることにした。深い興味があったわけではない。ただどんなところなのか、他意も願望もないまま覗いてみたかっただけだ。


 礼御は黒いカーテンを抜ける。


 そして視覚が捉えたものは礼御の身体を硬直させた。


 下半身裸の女性がそこにいるではないか。


 礼御は驚きのあまり動けなかった。やはり勝手に入ってはならない場所だったのか、と焦る一方、その女性のさらに奥には簡易的な更衣室が設置されている。ならばそこで着替えるのが常識的だろう。ついでに確認したが、下半身裸といっても下着は身につけていた。ただ長い丈の服を着ているせいで下着は股間あたりのわずかな部分しか見えていない。


 決して覗きではない。しかし見てしまった以上、現行犯である。


 こんなことで警察沙汰になるなんて御免だ、と礼御は再度黒いカーテンをそっと抜けようとしたが、唐突に女性は振り返り、彼女も礼御の存在を把握した。礼御より数歳年上に見える。綺麗な女性だった。


 空気が固まった。静寂である。ちなみに会話途中でこのように――別に会話途中ではなかったが――空気が固まることをフランス的に表現すると、『天使が通った』というらしい。なんともフランスらしいおしゃれな表現である。


 口を開いたのは下半身丸出しの女性の方からだった。


「あら? もしかしてあなたは私が見えているのでしょうか?」


 ここ数日でこういったフレーズの言葉何度耳にしたっけな、と礼御の硬直はわずかにゆるくなるのだった。

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