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幽霊はいるのだろうか。
礼御は美術部の部室をあとにすると、自転車に跨りある場所へ向かった。
その短い道中で考える。
まさか真夕が「幽霊はいる」なんて言うと思わなかった。それどころか自分は見えるとまで言い出したのである。
それを聞いたとき礼御は呆気にとられてしまった。そのせいで真夕の頬が紅くなるのを見えたのは、怪我の功名であったが、このとき明らかに怪我の方を重視しなければならなかった。折角、真夕は礼御だからと話してくれた内容だ。それ対して無反応は頂けない。
考えた礼御はそれでも思ったことを口にすることにした。「真夕さんだったら幽霊が見えていても変でないのかもしれないですね。だって絵を一心不乱に描く人ですもん。ちょっとくらい変わっている方がいいと思います」と困りながらも、真夕のイメージが変わるきっかけとして礼御本人が素直に思った感想だった。それに対して真夕は短く吹き出すと、わかり易い不満を作り「信じていないんだ?」と言った。が、そのあと「だからこそ、礼御くんには話しやすいな」と口にすると、ひらひらと手を振って礼御の退室を見送ってくれた。
礼御は幽霊というモノについて、いるともいないとも言えないというのが持論であった。しかし悪霊というモノの存在は否定的である。
もっと具体的に言うと、ホラー映画などでよく見る、悪霊が人を呪い殺したり、不幸にすることは、絶対にないと礼御は思っていた。理由は簡単。もし悪霊がいてその負の念が強いことにより生者に影響を及ばせるのなら、その対となる存在もまたいるはずだからである。例えば先祖である。子孫が悪霊に侵されているというのなら、彼ら子孫を守って当然だろう。少なくとも礼御は自分が死んだあと、霊になるというのならそのように行動すると考えていた。
そんなことをぼんやりと考えている間に、礼御は目的地についた。
大学からそう遠くない、小ぢんまりとした喫茶店である。店の横の狭いスペースに自転車を置くと、店の前に向かう。
するとちょうど女性店員が『開店』という札を扉にかけているところであった。
礼御がその店員に近づくと、向こうも礼御に気がついたようである。小さくお辞儀をすると、礼御の接客時の表情とは比べ物にならないくらい素の笑顔で彼を迎えた。
「おはようございます。徳間さん。今日は早いですね」