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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
3 蛟、ファッションを語る
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-1

 徳間 礼御(とくま れみ)はカラオケ店で深夜アルバイトをしている。


 玉藻(たまも)の小粋なジョーク――だと思いたい――のせいで礼御は今夜、玉藻と共に寝るのを拒むはめになった。きっと明日以降は通常に戻るだろう。例えるならホラー映画を見たあとはトイレに行くのが怖くなるような感じだ。見終わった当初は怖いものの、次の日には意外と気にしなくなっている。そんなものである。と礼御は自分に言い聞かせ、現在バイト先の目の前まで来ていた。


 スタッフ用の入口から入ると、一人の女性が驚いた表情で近寄ってくる。


「どしたの、礼御さん。今日はシフト入ってないですよね。・・・というかバイトの格好じゃないですね」


 礼御は、「あはは」と乾いた笑いの後、家の鍵を失くしたから自宅に戻れない。そのため今日一晩、どこか空いている部屋で休ませてもらおうと思って来たと言った理由をこじつけて適当に誤魔化した。


 すると彼女は「そうなんですか」と心配そうに礼御を気遣うものだから、礼御は心の中で彼女に謝った。まさか本当のことは言えるはずがない。


「機材の不調でお客を入れられない部屋はあるし、そこを使ったらいいですよ」

「ごめんね、ありがと」

「おかまいなくー」


 彼女の名は姫菜(ひめな)という。約一年前、礼御と同時期にバイトを始め、勤務時間も同じである。年齢は礼御と同じ、また見ての通りの人懐っこさということも重なり、自然と礼御と姫菜は仲良くなったわけだ。女性が深夜帯に働くのはあまりよくない気がするが、その時間帯が一番給料が高くなるという理由で働いているらしい。


 また彼女も礼御と同じく大学生であった。姫菜は大学こそ違うものの、その大学が礼御の通っているところと近いせいなのか、ほぼ生活圏が礼御と変わりなく、また休日のバイト終わりに礼御は姫奈と二人で二十四時間営業のファミレスで朝食をとったりすることもあった。


 実に都合よく礼御の周りには食事を共にする女性がいるように思えるが、勤務終了時間が同じで帰宅方向も帰宅方法も一緒であると、当然一緒に帰ろうと提案する――その程度の甲斐性で人生勝ち組なんてひがむものではない――だろう。また勤務終わりというとお腹も減るものだ。こうなると流れで朝ごはんでも食べますかという方向へ進むわけである。


 礼御は暗い個室に入り電気をつけ、時刻を確認すると日付が変わろうとしていた。


 シャワーも浴びずに出てきたので体臭が気になった礼御である。おそらくそこまで臭っていないと自分に言い聞かせつつ、せめて衣服くらいは着替えて自宅を飛び出れば良かったと礼御が小さな後悔を抱いていると、個室の扉が開いた。


 顔を出したのは姫菜である。実ににこやかな表情だった。


「一人カラオケしちゃいます?」

「いやいや、そんな元気はないかな」

「機材の点検も兼ねてすればいいのに。メナは結構好きですよ」

「一人カラオケは寂しくて嫌だって。いつも言ってるでしょ」

「知ってまーす」


 それだけ言うと彼女は業務に戻った。


 姫菜は自分のことを『メナ』と呼んだ。彼女いわく、姫と名前についているのだから多少個性的でありたいのだそうだ。それでも自らを『姫』と呼ぶのは恥ずかしいらしい。なので後ろ二つをとって『メナ』になったという。


 聞きなれない、しかし『メナ』という音は可愛い。これは正解だろう。彼女の容姿も相まって、きっと姫菜は大学でモテているに違いないと礼御は感じている。


 そんな彼女と二人で朝食をとれるのはなんとも言えぬ優越感があった。


「まぁ、彼氏でもなんでもないんだけど」


 そう呟き礼御は部屋の明かりを落とした。


 特に彼女に対して特別な感情を抱いているわけではない。今後この感情が発展する可能性がなくはないが、それでも現状礼御にとって姫菜は仲の良いバイト仲間という括りを出ない。


 ソファは横幅が人一人分しかなく寝づらいが、個室で温度管理もできる部屋で寝られることは本当にありがたかった。少々うるさいのは我慢しよう。


 礼御は安っぽいクッションを枕に眠ることにした。

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