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礼御は積極的に尻尾の元を探す必要はないそうだ。
手に入れるのはまったくの運。努力するに越したことはないが、そんな努力をするくらいならグラフィックボードを買う努力をしろとのことだった。
玉藻との会話も一段落し、礼御は紅茶を入れて一息ついていた。玉藻は未だパソコンの画面に向かっている。今度は別のゲームをしているようだ。ゲームの趣味が実に幅広い。
いい加減やめたらどうだといったことを礼御が玉藻に言うと、玉藻は「もう少しでこのステージが終わるから、それが終わって次のステージの最初のセーブポイントまでだから」。そんなことを言っていた。「それなら今やっているステージが終わるまででいいじゃないか」と礼御が言うと「すぐ終わるから、先っちょだけだから!」なんて玉藻が言うので、もはや項垂れるほかなく、許可を出してしまった。
そんな楽しそうな玉藻の後ろ姿を見つつ、礼御は紅茶をすする。この光景も見慣れて――目に焼き付けられてしまった。
そして手持ち無沙汰な礼御はなんとなく玉藻に質問する。
「尻尾の元を手に入れたら、それをどう使って自分の尻尾にするんだ?」
玉藻はゲーム中に話しかけられるのを嫌がるが、今日は実に機嫌が良いのだろう。文句を言わず端的に答えてくれた。
「もちろんそれを取り入れるだけさ」
「取り入れるって、食べるということか?」
「そう、食うのさ」
一応少女の格好をしているのだから言葉遣いには気を付けてもらいだいものである。しかしそんなことを言っても玉藻は正したりしないだろう。
「……なんだかまどろっこしいな」
礼御はふいに呟いた。玉藻はそんな礼御の独り言にわざわざ反応したりしない。
なんだか妖怪にしては順序が人間的すぎる気がしてならない。名人と呼ばれる人間なんてごまんといる。妖怪がそんな人たちにお願いして道具を譲ってもらう必要があるだろうか。勝手に飲み込んで食えばいい。それが手っ取り早い。
「なあ、玉藻」
「――なんだぁ」
礼御は思ったことを玉藻に尋ねることにした。
「お前は妖怪なんだしさ、手順を踏まずとも勝手に道具を食べて回ったらいいんじゃないか?その方が楽だし、早いだろ」
すると玉藻は手を止めて画面を見つめたまま言う。
「いや、それはダメだ。いろんな意味でダメだ」
玉藻はやけに真剣である。
「……考えてもみろ。愛用してたコントローラーがいきなりなくなったら嫌だろ。ダメだろ。泣くだろ。だからそんな下衆な真似はしないと決めているのだ」
礼御には理解できない例えであったが、盗みがいけないことだと玉藻も思えることを知れて何よりである。
「……じゃあさ、本人を食べれば? 愛用していた道具が力を濃縮しているなら、本人だって十分すごい力の塊だろ」
礼御は冗談交じりにそう言った。
「あぁ――、それは何かと面倒だし、いいや」
「…………?」
「もちろん可能さ。でも人が一人いなくなるのは大事だからな。有名人ともなるとなおさらだ。それで昔やらかしたときは大変だったよ」
そう言って玉藻は気持ちよく笑った。礼御は反対に蒼白であった。冗談で尋ねたことは、知るべきことではなかった。玉藻も少しは遠慮してそれは黙っていて欲しかった。
玉藻は人を食ったのか。
尾は現在三本。その内一本ははじめからあったものだろう。人一人で尾が一本だとすると、玉藻は少なくとも人一人を食らっているのかもしれない。そう思うと途端に目の前に座っている尻部が気になった。
それで黙った礼御を不審に思ったのか、玉藻が礼御に問いかける。
「ん? なんだ。もしかして自分も食われるなんて思ってないだろうな? そんな無粋なことはしないさ」
雨無 葵という魔術師も同様の内容で礼御に注意を促したことを思い出してしまう。人の心臓を食うことで魔術師の能力を得る。内容が合致した今、冗談ではなかった。純粋な恐怖が目の前に座っている。
しかしなぜだろう。礼御はビビリながらも、途端に逃げ出し葵の元に向かうようなことにはならなかった。玉藻がはっきりと口にした言葉が、ブラックジョークに聞こえて仕方がない。
「ほ、本当だろうな」
「本当だよ」
玉藻の口から出たのはただの言葉である。なんの保証もない、ただの言葉である。しかし信用に値してしまうのは、礼御が玉藻に無警戒すぎるのだろうか。出会って数日程度である異形の同居人。そんな彼女の真の目的は何なのだろうか。
礼御は本人が話した通りの目的を彼女に感じられなかった。つまり根拠のない、直感である。
「でもお前はうまそうだな、礼御」
もちろん冗談なのだろうが、礼御は玉藻の言葉に笑えていなかった。
とりあえず今日は彼女に自分の寝顔を見られたくないと思った礼御は、「そういえば今日はバイトだった」と夜に部屋を開ける口実を作った。すると玉藻は大層嬉しそうに言う。
「そうか、大変だな。留守番は任せろ!」
玉藻は一瞬親指を立てて礼御の方に突き立てた。
「おう、任せた」
いつになく礼御は玉藻に便乗し、単に元気よく自宅を出るように見せかけ、実際は慌てて自宅を後にするのだった。




