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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
2 猫又、美を語る
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-18

 あれ? でもこいつ本当に困ってるのか?


 礼御が今の玉藻を見る限り、玉藻は急激にレベルアップを求めているようには見えなかった。現にこんな大事な話の途中でもゲームを止める様子はない。次から次に敵を倒しまくっている。


 そんな礼御をよそに玉藻は説明を再開する。


「尻尾を探せと言ったけども、尻尾がそのまま落ちてたりするわけじゃないんだ。そんなのホラーだよね。本当に探してもらいたいのは、簡単に言うと尻尾の元になる力の塊だ」


 礼御は黙って玉藻の話をきく。


「力の塊。つまりは魔力や霊力、妖力の濃縮物がそれにあたる。それを探して欲しいんだ。塊と言うだけでは探し用がないと思う。だから具体的にどんなものに力が溜まっているかと言うと、長寿の大木に絡んだ宿り木の杖だったり、その地を守るとされる神様の御神体だったり、代々伝わる名刀だったりする」


 なおも玉藻はパソコンの前に座ってゲームを進めている。


「礼御にわかりやすく言うならば、古来の魔術師が使っていたモノ、大勢の願いを一身に受けたモノ、歴史的に価値のあるモノといったところだ。他にも様々ある。今あげたものは長い時を経て力を深めていったモノ達さ。でも短期間でそれらに相当するモノだってある」


 ひと呼吸を置いて、玉藻は礼御に尋ねた。


「なぜ人の子の、それも魔術師でもない自分にそんなことを手伝えと願うのか不思議ではないか?」


 その質問に礼御は確かに、と納得する。自分には今玉藻が挙げたものに心当たりがあるわけではないし、捜索して見つけられるほど人脈も経験も知識もなかった。そんな自分を頼るより、他の人を頼ったほうが効率がよい。名のある魔術師を頼った方が現実的に思える。そもそも人に頼る必要があるのだろうか、とも礼御は疑問に思った。


 玉藻は今しがた礼御が心に抱いた内容を察しているようだった。そのため彼女が、なぜ人に頼るのかを説明する。


「短期間に力を濃縮させるモノ。これは神格化した生物にまつわるモノであり、その起源たる存在は、現在人間がもっとも多い。まず人に頼るのはこのためだ」


 礼御は何も感想を持てぬまま、玉藻の説明を聞く。


「人には偉業を達成する者が大勢いるだろ? どんな職業だっていい。野球選手、文豪、パティシエ、ゲーマー。それらは時代を経るまでもなく多くの感心をその身に宿す。一種の多勢による新興だ。だからそれらが使用する道具にはあたしの求める力が濃縮したりしなかったりする」


 ネトゲ界の神と呼ばれる人物が愛用するコントローラーが力の塊になるという話であった。なんともありがたみがないといえば、多くの人を敵に回すだろうか。


 しかし玉藻が人に頼る理由としては頷けた。コントローラーを手に入れる可能性があるのは、もちろん同族である人間だろう。


「だけどそれなら俺なんかより、その本人に出向けばいいじゃないか。中にはお前が見える人だっているだろうし」


 玉藻は「まあね」なんて言って礼御の提案に同意して、彼の一般性を否定しなかった。しかし現状、玉藻のそばにいるのはその礼御であるのだ。


「尻尾を一つ見つけるのならそれでもいいさ。それを繰り返せば天狐にもなるだろうね」


 天狐。その名に礼御は聞き覚えがない。妖狐として一番有名なのはやはり九尾の狐ではないだろうか。目の前でネットゲームに勤しむ少女は玉藻前と名乗った妖狐である。玉藻前と言えば九尾の狐の代名詞でもある。


「天狐っていうのは妖狐の最上位形態みたいなもんだよ」


 礼御の疑問を読み取ってか、玉藻はそう付け加えたあと、そんなことはどうでもいいさと話を続ける。


「でもそれをしないのは、それが無理だからだ。あいつらが自分の愛用具を差し出すことはまずないね。売れば金になる代物だ。それを見ず知らずの善悪分からぬ妖怪狐が訪ねてきて渡すと思うか? 断じてないさ」


 見ず知らずの善悪分からぬ妖怪狐を家に住まわしているなんて、口が裂けても言えないな!


 礼御は自虐しつつも尋ねる。


「……断じてか?」

「断じてだ!」


 礼御は「そうかと」呟き思った。何度か挑戦はしたんだな。


 経験談なら仕方がない。礼御は苦笑し玉藻の話の続きを待った。


「それで、なんで魔術師としても未熟なお前に頼ったかという話だったな」


 そもそも魔術師ではない、と礼御は心の中で小さく否定する。


「魔術師だとか、それが未熟だとか、そんなことは選んだ理由に関係ない」

「……ん?」

「お前を選んだ理由に大した理由はないと言ったのだ。だいたい優秀な魔術師だからといって尻尾の元を入手できるなんてことはないからな。人だったら誰でもいいのだ。あとはあたしとの相性だね。やっぱり人とつるむ限り、ネットゲームはしたいし、優しくして欲しいし、ご飯も美味しい方がいいし、ベッドで寝たいし、あたしの尻尾に櫛を当ててくれたりするともっといい!」


 礼御はなんだか溜息を出さずにはいられなかった。


「要するにあたしは礼御が気に入ったのだ。一目見た時に『こいつだ』って思ったんだよね。人風に言うなら一目惚れさ」


 絶対に今の玉藻の心内では汚い笑をもらしているに違いない。礼御は壮大に騙されたのだと気がついた。


「出会いも実に都合よく事が運んだしな」


 思えば玉藻との出会いは玉藻に仕組まれたことだった。ここまで素直に白状されるといっそ怒りが湧いてこない。激昂して出て行けなんて言える気分には到底なれなかった。


 すると玉藻はゲームをする手を止めてこちらを見た。礼御の想像通りの表情で口を開く。


「やっぱり礼御を選んでよかった」


 再度礼御は口から空気を吐き出し、玉藻の頭を小突く。玉藻は避けることはせず、礼御の握りこぶしを頭で受け止めるのだった。

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