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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
2 猫又、美を語る
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-13

「例えば、肖像画。人物を絵にすることだ。さて、そこから君はどんな魔術的効果を見いだせる?」


 葵は案外この話に乗り気なようだ。楽しそうに礼御にそう尋ねる。礼御は必要以上に真剣になってその問題に頭を回転させた。


 肖像画。つまり人を絵として写すわけである。しかし今の時代、自分の顔・姿を残したいからといって、肖像画を描かせたりするだろうか。それはない。大体の場合、写真で済むからである。それでは肖像画の良さとはなんだろう、と礼御は考えた。


 写真にはない絵の具の温かみ。写真以上に描くものの個性が発揮させること。元の姿から少々かけ離れたものとしても残すことができる。


 そのとき礼御に一つの魔術師に問答に相応しかろう解答を得る。


「―――自己暗示、っていうのはどうですかね?」

「ふむ。詳しく」


「肖像画ってその描かれる実際の人より、格好よく描かれることがありますよね。それってつまり、自分をより大きく見せようだとかいう考えだと思うんです。仮に鏡がなかったら、描かれた自身の姿が本物だと思うわけですよ。『私はこれほど格好良い』。本当は違っても、そう思っちゃうわけです。だから自己暗示。自己暗示と言うより、自身に対する勘違いって言った方があってる気がしますが」


 葵は「ほう」と頷いた。予想以上に礼御の解答は良い線を行っていたようだ。


「悪くない。多少は絵を描くだけはあるな。しかし私はおしいと評価しよう」

「おしい……ですか」

「そう。君の言い方だと、肖像画とは人に描かせたものということになる。その描き方に注文をつけれたとしても、それが他人から与えられたものである以上、自己暗示というよりはただの暗示だ。描き手からモデルに向けての暗示だね」

「確かに……そうですね」


 空子がまた欠伸をした。目が虚ろである。


「自身を絵に写すのではなく、絵を自身に写す。言わば、自己の逆輸入だな。簡単に言うと、催眠術だと思ってもらえばいいのかな。究極的には、絵画魔術を会得したものは、描いた人物を操れるということだ」

「催眠術……。それだけ聞くとなんだか怖いですね」

「そうか? 人なんて少なからず何かに影響されているんだ。あまり大きな違いはないさ。それに究極的にと言ったろ? 他人を――いや、他人に限らず他のモノを意のままに操るなんて、そんなことができる魔術師はそうそういない。そんなやつ、魔術師の中でも常軌を逸している」


 葵さんはできるのですか、とは間違っても聞けない礼御であった。もし仮に葵がその稀有な存在の一人だとしても、反応に困るだけである。知らない方がより良い人間関係を築けるはずだ。

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