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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
2 猫又、美を語る
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-12

 話題の移り変わりに、礼御は抵抗することなく答える。魔術師と別れた後、人との関わりと言えば真夕と美術館に行ったことしかない。しかしそこには魔術師でしかわからない真実が、もしかしたら隠れているのかもしれない。


「その……仲の良い異性の先輩と美術館に行ってきました」


 礼御は多少の恥ずかしさと多大な緊張を持って、そこであったことを葵に伝えた。絵画を鑑賞したこと、真夕と昼食を共にしたこと。また真夕との会話の内容も思い出せる限り葵に伝えると、葵は明らかに興味の色があせていくことがわかった。


 その興味を取り戻すべく礼御は葵にあることを伝える。真夕が言った言葉である。


「その……真夕さんは霊が見えるのだそうです」

「へぇ、霊ね……。君は見えるのかい?」


 葵は礼御の期待したような反応ではなく――逆に期待した通りだと困るわけだが――逆に礼御にそう尋ねてきた。質問の意図が分かり兼ねる。


「……いえ、見えませんが?」

「だろうね」


 女魔術師はさも当然のように真夕の言葉を切り捨てた。葵と真夕。少なからず礼御にとっては年上の女性で、かつ不思議な雰囲気をまとわせている人だ。何か、二人に一致するものを感じてならない。と言っても、葵がまとっているものは現実で、真夕のまとっているものはほとんど礼御の幻想のようなものだろう。


「空子も見えない」


 礼御との会話を頑なに拒んでいた空子までも、真夕の言葉を否定した。それが会話と呼べるかは怪しいが、礼御の話に乗ってきたことに変わりはないだろう。しかしそれも礼御の有する交友を馬鹿にしたかっただけに違いない。その後者の意思が前者の意思を超えただけなのである。


 礼御はそんな空子に文句の一つでも言いたくなったが、所詮は子供の嫉妬だと感情を閉じ、葵との会話を続ける。


「ということは、つまり霊はいないということですか?」

「いない、というと嘘になる」


 葵も空子の心情を理解したのか、彼女は空子の方を向き、頭を軽く撫で、横目で礼御に話しをする。


「しかし特例―――というよりは特製とでも言えばいいのかな。それを除けば、霊なんてモノは存在しないと言ってもいい」

「……よく意味がわかりません」


 葵はなおも横目である。少し顎を上げ、言い方は悪いが見下すような視線を礼御に送り、口元を緩める。


「つまりね、霊の存在なんて言わば人間の完全体なのさ。魔術師が到達を目指して止まない一つの終点。―――死んでいるのに、意志があり、思考でき、現世に何かを体現できるなんて、それは不死の人であるだろう。不老にして不死の存在だ。それは人の枠を超えているのだよ。人の枠からはみ出しているのではないし、人の枠の残りカスでもない。文字通り超えているんだ。そんなモノがこの世に溢れ返っているならば、私は魔術師なんて名乗らないさ」


 礼御は葵の言いたいことがよくわかった。しかしわかった上で、真夕の発言をそのように言われるのには腹が立つのを隠しきれずにいた。礼御にとって真夕は、今までにあった先輩というカテゴリーの中でトップに位置すると言っても過言ではなかったためである。ゆえに礼御は真夕の肩を持たずにはいられなかった。


「それじゃあ、真夕さんが嘘を吐いているとでも言うんですか?」


 言った後、言葉に怒りが混じってしまったことに対して、礼御はドキリとしてしまった。しかしそんな礼御の抑揚ある感性に気を散らすことなく、葵は冷静に真夕という人物を判断する。


「君の言う彼女からはそういう気概を見受けられないことは確かだな。……その先輩は美術家だと言ったか」

「……美術家って言うほど、仰々しい人ではないですけど」


 礼御はのれんを腕押す気分であった。


「どちらでもいいさ。美術の腕は確かなのだろう? だとしたら彼女の言葉に頷けなくもない」

「どういう意味です?」

「それはね、一部の魔術は美術から派生したとも考えられていたりするからだよ。名のある確かなセンスを持つ美術家が、後天的に魔術の才まで到達することも聞かない例ではない。……この話、詳しく聞きたいか?」


 葵は、それ以上は現時点で蛇足だと思ったのだろう。詳しい話をだらだらと続ける気はなかったようだ。しかし礼御は、一人の美術を創作する端くれとして、その話題に魅力を感じてならなかった。


 その旨を葵に伝えると、葵は溜息交じりに「知りたいというのなら」と礼御の希望に乗ってくれた。


 空子が大きな欠伸をする。細目で礼御を睨むのは、単に憎たらしいだけだからではないようだ。

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