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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
2 猫又、美を語る
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-10

 魔術師の住処へたどり着いたのは午後の日も暮れようかという時間となってしまった。


 礼御が、またこんな時間か、と思い常晴古本屋と看板を掲げた店内に入ると、少女が一人立っていた。古本にしては新しい漫画を手にしている。


 空子と呼ばれていた、魔術師の弟子である。


 礼御が「こんばんは」と声をかけると、少女はびくりと身体を緊張させた後、礼御を見た。途端、訝しげな視線を放つようになる。目を細め、観察するように、礼御がどんな者なのかを推し量っているように見えた。


 大人の対応としてしばらくはニッコリと笑いその少女を見つめたまま進んだ礼御であるが、変わらないその視線の冷たさに彼は耐えられなくなり、少女からゆっくりと視線を外して店の奥に進んだ。そこにはレジがあり、レジには一人の女性が座って書物を読んでいる。


 礼御がその店の主である女魔術師に近づくと、礼御が声をかける前にその存在に気づいた。そして壁にかけてあった時計を見た後、呆れた表情で言う。


「またこんな時間に現れるのだな、君は」


 葵は小休止を挟む。


「年下は嫌いではないのだがね。―――押しが弱い子は好みでないかな」


 礼御は呆気に取られたが、その言葉が何を意味するかに気づき、真っ向から否定する。


「偶然この時間帯になっただけですよ。僕だって年下の方が好きです」


 それを聞いた葵は小さい子をあやすように、「冗談だよ」と笑った。


 なんだか礼御が馬鹿にされた気分になっていると、葵はチラと礼御の後ろを確認した。それにつられて礼御も視線を後ろにやると、そこには先ほどのジト目少女が立っている。少女は何か言いたいのだろうか、小さく口を開いては閉じる行為を繰り返していた。


 すると葵は少し困った顔をして礼御を見た。礼御が状況をよく分からないでいると、葵は手招きして礼御を店の奥に誘った。


「とりあえず中で話そうか。店は終いかな」


 礼御が以前のように靴を脱ぎ、中に入ろうとした際に葵は振り返りながら少女に指令する。


「空子。閉店の札を外にかけといてくれるか。そのあとお前もおいで。この子を紹介しよう」


 空子は葵の指令に満足そうに従った。礼御はなんとなく、嫉妬されているのではないか、と感づき、どう接すべきか困り、迷った。


 そんな礼御の思いを葵は読み取ったのか、礼御に「気にするな」と告げる。


「前に言っていた私の弟子みたいなものだ。少々人見知りでね。君みたいな魔術師まがいの存在は特にさ。おそらく自分以外に私と仲良くされたくないのだろう。可愛いものだな」


 葵はくすぐったそうな面持ちだった。


 空子は十歳程度の年齢に見える。店の入口を閉め、外から見える位置に看板を下げると、小さな歩幅でてけてけと走りこちらに向かってくる。


「まさか……お子さんじゃあ、ないですよね」

「失敬だな、君は。まさかと思うなら口にするな。もちろん違うさ」


 それでも近所の子どもを勧誘したわけでもないだろう。師弟関係を除けば彼女らはどういった関係なのか礼御は気になったが、空子はもう会話が聞こえるほどに近づかれている。この話題はまた後日にしようと決めた。


 空子は葵から与えられた任務を完了したことを示すかのようにニッコリとしていた。が、礼御の存在が視界に入ると、途端にジト目に戻り、もはや睨みつけている。


 葵は空子に礼御のことを紹介する。


「徳間 礼御だ。訳あってしばらくうちに出入りすると思うが・・・そんな顔をしてやるな。弟子になったりはしないさ。仲良くしてやってくれ」


 葵は空子の頭を撫でている。仲良くしてやってという言葉を空子にかけたあたり、手馴れているな、と礼御は感じた。


「どうも」


 よろしくの意味を込め、そう言った礼御は空子に手を差し出すも、空子はそれに応じない。警戒心が薄まったのか先ほどより表情は和らいだが、ジト目には変わりなかった。


 そこで葵が空子の背中を押す。その加減は優しいものだったが、空子にとって葵のその行為はいわば命令なのだろう、すぐに手を出すも礼御の指先を少し握ったと思うとすぐに手を放した。


 この歳の子は可愛いな、なんて礼御は頭で考えたが、口に出すのはやめておいた。

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