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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
2 猫又、美を語る
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-8

 それで笑いは取れなかったが、礼御の首がとれるところだった。


 あの後ミネリは不敵に笑い始め、礼御に飛びかかって来た。周囲の人から見ると、礼御は一人で慌てて転んで、空に向かって交渉している図になっていたことだろう。交渉というよりは懇願しているに近かったかもしれない。礼御は自分を殺せば原画展に入れないことをカードに自分の命を救ったのである。なんとも安い。


 なんにせよ、今までの礼御の人生で一番の汚点となった。


 ミネリは礼御から少し離れ警戒を如実に表に出していたが、何の問題もなく――今回はお金を払っているので当然だ――二人で展示室に入ることができた。


 入った途端、ミネリの機嫌は並々ならぬものとなる。また礼御もその展示室の完成度に驚きを隠せなかった。


 まず心を奪われたのは幻想的な空の絵。暗く、けれど光を含んで離さない夜空である。そこに星々は微小な真の輝きとして散りばめられていた。そして各原色で底知れず鮮やかに描かれた巨大な惑星。それを地に足をつけた少年と少女の背中が見上げている。決して地球では見ることのできない空の絵画なのだが、それはまるで宇宙の一部を切り取った最美なる夜空の完成図のように思えた。


 ミネリは感嘆の声をわずかに漏らしながら揚々と鑑賞し回っている。目を大きく開けて仰天するように眺めるそんな姿は、礼御に落ち着いた満足感を与えた。


 礼御もゆっくりと展示室を回る。今回のイラスト展は、とあるアニメ映画監督の作品を様々に展示しているらしい。礼御がその作品たちに共通して見出したものは、光の甘美的さである。一般に絵画と呼ばれる作品でこれほど光が生き生きとした作品を礼御は今まで見たことがなかった。実際の生活の中にこれほどまで光の主張が強い場合というのはほとんど存在しないだろう。けれどその鮮やかさには心惹かれてならないものがある。この人の描く絵というのは、実物を模してしるようで、実際はアニメーションの一枚の絵として実物を飲み込んでいる。礼御はそのように感じてならなかった。


 一部の者からは嫌悪や皮肉の目で見られる、パソコンのツールで描かれた絵。しかしこれが美術としての価値がないわけがなかった。


 どんな偉人の絵画だって、見る人によっては子供の落書きでしかない。しかしそういう人間こそアニメを馬鹿にする者なのではないだろうか。


 アニメ好きの者がある最高傑作の絵画を見て、その価値を理解できないことはあるだろう。それでも逆に、ある最高傑作の絵画を見てそれを理解できる者がアニメを馬鹿にするはずがない。礼御は今回このイラスト展に訪れてそう思った。


 最高傑作と呼ばれる作品は絵画の中でもひとにぎりだろう。そして残念だが、まだその域に達したアニメやいわゆる二次元と呼ばれるイラストはないのだろう。だけどそれらの頂点の作品は、確実に最高傑作の周りを固める高傑作の一部に君臨していると言っていいはずだ。


 礼御は思う。


 自分がアニメを馬鹿にしていなくよかった。もし否定する立場の人間だったら、それはイコール美術を鑑賞する能力がないに等しい。これは言いすぎかもしれないが、少なくとも良いとされる作品に対し、その理由を読み取れる豊かさを持ち合わせていない、心の粗末な人間だと言ってもいいだろう。


 そんな新たな発見をした礼御を察してか、ミネリは嬉しそうに近寄り言った。


「話題の一つとして『アニメは好きか』って平然と尋ねれるくらいの人間にならなきゃダメだぜ? アニメは人の感性のあるなしや、強い弱いをぶちまけさすいい物差しなんだからな」


 その言葉に礼御は頷かずにいられなかった。もしも美術部員でアニメを偏見で嫌っているものがいるのなら、それは美術を愛するものとしてあるまじき態度である。


 礼御が堂々とニヤついて返事をすると、それにつられミネリも満足そうに「にゃおん」と鳴くのだった。

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