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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
2 猫又、美を語る
30/152

*六

 青年の様子は明らかに常軌を逸していた。いや、『彼』の目から見たそれは逸してなどいないのである。青年は猫妖怪と話しをしているにすぎない。つまり逸しているのは、魔術など妖怪などとは関わりを持てない、一般人からの常軌である。


 ビルの屋上に立った『彼』は、そのやり取りを見て呆れ返っていた。


 見るからに素人だ。それは仕方のないことかもしれないが、それでも無用心にもほどがあるだろう。今の彼を一般人が目にしたら、虚空に向かって独り言を叫び、拳を振り下ろしているようにしか見えない。いくら異能・異端・異形が飛び交う世界に足を突っ込んだといっても、一般人の常識と見境がつかない歳ではないはずだ。


 そもそも彼の行動は軽率である。何に信頼を置き、何を疑うべきか、それを思案することは今の彼にとってひどく困難だろう。しかしだからこそ困難にぶつかるべきなのである。考え、読み取り、結論を出すべきなのである。こうも易々と、出会うモノすべてと丁重に知り合うなど無邪気すぎる。


 彼の安否を確かめた数日前。少なからず自分が信頼するモノと出会えており、それが彼の身を第一に守るから良いものの、それでも危惧すべき出会いを彼はしているのだ。


 まったく……徳間の血は、あれだからいけない。


 少なからず青年が突如異能に目覚めただけなら、ほんの数日で一般人の目に余る行動をしたりはしなかっただろう。


 『彼』は胸糞悪い気分になると、さらにそこで依頼人とのやり取りを思い出してしまう。


 「―――だからこそ、目的は達しやすい」というのは、確かなのかもしれない。


 『彼』は溜息交じりに青年から視線を外し、自分の目的に帰っていった。

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