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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
2 猫又、美を語る
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-6

「僕は猫又のミネリだ。以後よろしくな」


 猫耳ボクっ娘の妖怪少女はそう名乗った。それに渋々答えるかたちで礼御も自己紹介をする。


「俺は礼御っていうよ。人間だ」


 場所は先ほどの歩道から脇道に逸れた人通りの少ない小道である。あのまま妖怪と話すところを一般人に見られたら、どう考えても礼御は独り言で盛り上がる痛い人物であった。それを考慮して、礼御が今の場所まで猫妖怪を引っ張り込んだのである。


「突然で悪いがちょっとお金をくれないか。時間がないのだ」


 見ず知らずの人間にお金をくれと頼まれてやる者がいるだろうか。それがたとえ人でなくとも話は変わらない。つまり礼御の答えはノーであった。


「嫌だよ。なんであげなきゃいけないのさ」


 理由を答えられてもお金をあげる気にはならないだろうが、礼御はそう言い切った。するとミネリは残念そうに言う。


「えー。……わかった」


 ミネリがあっさりと引き下がったものだから、これには少なからず驚いた礼御であった。礼御は目の前の妖怪はどんな手を使ってでも絶対自分から金を巻き上げようとするに違いないと考えていたからである。


 ミネリは俯いている。頭部の猫耳とその背後に垂れた二本の尾がなんとも儚げに感じられた。それが礼御の良心を刺す。自身が冷酷な人物であるように思えて仕方がなかった。


「あ、あのさ――」


 黙ったミネリに不必要な罪悪感を沸き立てられ、せめて話だけでも聞いてやろう、もしも本当に困った事態に陥っているのなら多少の看破は仕方ないかもしれない、そんなことを思い、礼御がミネリの言葉を促そうとしたときである。


 ミネリはパッと顔を上げた。その表情に礼御の身体は緊張する。彼女はなんとも小馬鹿にしたような目で笑っているではないか。


 何か嫌なことが起こるのではないか、と礼御が心を構えたとき、ミネリの服装が変化していることに気がついた。


 ミネリはもともとデニムの短パンにぴったりと肌についたシャツを身につけていた。そのどちらもだんだんと面積が小さくなっていっている。まるで誰がに破られていくように。そして慎ましげな胸の先がもう少しで顕になりそうだというところで、ミネリは大声をあげる。


「いやぁー、助けて! あ、やだやだ、やめて!」


 停止していた礼御の脳が急激に活動を再開した。


「うぉい!? 待て待て、黙れ!」


 彼女が妖怪だろうと関係はなかった。いきなり強姦扱いをされるという、かつてない経験に礼御は戸惑う。


「ぁあっ。ダメー。助けて!」


 しかしミネリは叫ぶのをやめなかった。とっさに礼御はミネリを黙らすためその口を塞ごうとしたが、それはこの場に相応しすぎる絵になると思い留まった。


 それにも関わらず、ミネリはいきなり礼御の手を掴んだ。まさに礼御がミネリを触ろうとするのをか弱くも抗おうとする図そのものである。


「なにしてんだ、離せよ!」


 訳がわからん! と礼御はミネリの手を振りほどこうとするも、しっかりと掴んで離れない。


「離してよ! やだ、触らないで!」

「いや、お前が離せって!」


 もう何がなんやらわからない。


「っ――!」


 妖怪が見えない者から見たら、礼御は一人で騒いで暴れている変人である。逆に妖怪が見える者から見たら、礼御は猫耳少女に性的乱暴を加えようとする変態であった。


「誰か助けてー。あぁん! 僕、犯されちゃうよ!」


 ミネリに黙る様子はなかった。


「――わかった!」


 礼御はミネリの要求を飲む他なかった。ピクリと目の前の猫耳が反応した。


「わかったから。―――お金……出すから」


 その一言でミネリは黙った。ニヤリと笑い、クルリと回ると、破れていた服が元に戻る。


「ざまぁー」


 そう言ってミネリは礼御を指差し、下品に笑った。


 そんなミネリの態度に礼御はしばし沈黙する。


 こんな被害にあったのだ。絶対に許される。そう確信し、礼御はミネリの頭にゲンコツを落とすと、ミネリは地に伏せ、気を失ってしまった。

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