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その後、礼御は真夕と別れた。
異性との外出といっても真夕と礼御は恋人同士というわけではない。そのため目的を終えるとそれ以上の付き合いはなかった。礼御自身はそのあと何かしらのイベントに真夕を誘ってみたいと思いつつも、雨無 葵という魔術師の言葉が引っかかり、本日の真夕との付き合いはこれで終わる他なかった。
真夕さんが自分の魔術的価値を求めいているなんて思えないよな。
礼御はそんなことを思いつつ一人自転車に乗った。そこで真夕の以前の発言について思い出す。
真夕は礼御にこう言った。「幽霊ならいると思うよ。だって私霊感あるから」。
魔術師や妖怪に出会った今、礼御にはその発言がやけに現実的に思えて仕方がなかった。
名称なんてたぶんどうだっていい。魔術師だろうと、霊能力者だろうと、超能力者だろうと、きっと根本的には同じなのだ。普段神秘的に微笑んで自分を迎えてくれる真夕に実は裏があり、礼御に内蔵する価値を望んだ結果、あの真夕を演じていた。
そんなことを思うと、礼御は複雑な気分を感じずにはいられなかった。
脳内で真夕の真の姿について考えてながら、彼がぼんやりと自転車をこいで家に向かっているときである。視界にはなんともみっともない人物の姿が写りこんできた。
なんの変哲もないドリンクの自販機。その前で少女が一人這いつくばっている。顔をほとんど地面に押し付け、自販機の下にわずかに開いた空間を覗き込んでいた。
礼御も幼少のころはよく同じ行動をとっていたものである。あの小さな暗闇には、意外に小銭が落ちている。たとえそれが十円玉でもどんなに嬉しかったことだろう。
しかしそれはあくまでも小学生低学年のころの話であった。この少女、見た目はすでに高校生くらいである。この年になって、しかも人通りが少なくもない道でよくもこんな恥ずかしい事ができるものだ。そんなことを考えながら、礼御が彼女の横を通り去ろうとしたときである。
「ないないない、全然足りない!」
少女はいきなり怒号を上げて飛び上がった。明るい茶色の短髪がぶわと浮き、女性らしい身体のライン――腰のくびれは美しいが、胸は控えめ小尻である。つまりは華奢なのだ――が顕わになって、そして―――。礼御は彼女に目を奪われ、そして仰天のあまりブレーキを切ってしまう。
「あぁ?」
猫のように鋭い目をした少女はそんな礼御を睨みつける。
「……」
礼御は沈黙のままであった。仰天したのはいきなり飛び出た叫び声のせいだけではない。そう、少女から飛び出したのが声だけではなかったのである。興奮しきった少女は、大声と共に頭部から猫耳、尻から二本の尾が飛び出していた。
礼御は硬直した身体のまま思った。これは妖怪の類だ。
「なんだ、お前。僕が見えているのか」
猫耳少女は僕っ娘であった。二本の尻尾をピンと立て、ネコナデ声でそう言いつつ、少女は礼御に近づいてくる。
礼御はとっさに無視して逃げようとも考えたが、そのとき玉藻前と名乗った素晴らしい性格の妖怪を思い出した。目の前の猫耳僕っ娘はどうやら困っているらしい。そして自分を助けてくれそうな存在である礼御を見つけ、にんまり笑って近寄ってくる。
こいつは逃げても追ってくるに違いない。そう思って礼御は覚悟を決めた、というより諦めた。
「何かお困りですか? 猫耳ボクっ娘のお嬢さん」
目の前の少女は猫独特の意地の悪そうな声で小さく笑い、要望に応えるかのように「ニャオン」とわざとらしく鳴くのだった。




