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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
2 猫又、美を語る
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-4

 展示室を出ておよそ十分後、礼御は真夕と再開した。お互い昼食がまだということで、感想会は昼食の席で行うことになる。


 二人は館内の喫茶店に入り席に着くと、アイスコーヒーを二つ、礼御はオムライス、真夕はホットサンドを注文した。


「それでどの絵が好きだった?」


 真夕はアイスコーヒーが届いた時点で感想会を開始した。まずは宿題であった最も好きな作品についてである。


「えっと――」


 礼御が一番好きだった、とういうより一番気になった作品は、やはり大蛇と女性を描いていた作品だった。それを真夕に伝えようとしたとき、その作品の題名を見忘れていたことに気がつく。


「あの、題名は見忘れちゃったんですけど、大きな蛇と女の人が対峙している絵が気になりました」


 そう礼御が真夕に伝えると、真夕は気品を失わず驚きの表情を見せる。


「あれね。私もあれが一番気になったよ。ただし一番好きというわけではないけどね」


 今回のように多少お題から外れても、要は何かしらの作品を一つ上げることが重要であった。そして二人はその大蛇と女性の絵について話をする。


「礼御くんは題名を見落としたと言ったけど、それは間違っていないね」

「どういうことですか?」


 礼御は真夕の言葉の意味することがわからず尋ねると、真夕は不思議そうな口調で続ける。


「あの絵に題名らしきものはなかったよ。描かれた年代や簡単な作品の説明もね」


 それを聞き、礼御も不思議に思った。今まで作品名が書かれていなかった作品があっただろうかと思い返してみるも、それに当たる経験は今までになかったように思う。


「普通、題名って書かれていますよね」

「普通はね。だから私も気になったんだよ」


 真夕はストローでアイスコーヒーを飲んだ。意外にも、というと彼女のイメージの押しつけかもしれないが、彼女はコーヒーをブラックで飲んでいる。


「あの絵を見て、礼御くんはどんな作品だと思った?」


 そう尋ねられ、礼御はあの作品を見て感じたことをそのまま真夕に伝えた。すると真夕は「やはり礼御くんは面白いね」と呟き言う。


「残念ながら、私はあの絵を見てそこまで深い鑑賞はできなかったよ。ただただ大きな蛇が女の人を見下ろしているし、女の人も大きな蛇を見上げているな、としか思わなかったかな。気になったのは題名がなかったというもの一つだけど、一番の理由はあの作者がいつも描いている画風とは一見して異なっているなと感じたからだよ」


 真夕は「まるであれだけ別世界を描いたようだったね」と付け加えて締めくくった。


 そう言われて、よくわからない不自然さはそのためか、とこのとき礼御はなんとなく思う。


 今回の特別展ではとあるスペイン人アーティストの作品を集めたものだった。その人の作風は抽象された風景画をシックな色使いで情緒的に仕上げている。特に山吹色や茶色といった黄色系統の色合いが印象的である。はっきりした風景でないため、一目見るだけではその作品の真意はわかりづらいが、じっくり鑑賞するとどれも何かしらのストーリーありきで描かれていることがわかるような気がしてくるのだ。


 それに対し礼御が最も気になったあの作品はやけにハッキリとしたショートストーリーを確認することができた。人物と生物を中央に堂々と対峙させたあの構図から、風景画を名乗るには少々おこがましく思える。


 もしかすると現在礼御と真夕が話題にしているあの作品は、作者の唯一の異作であったのかもしれない。


「まぁ、抽象画なんて描く画家は変わり者も多いだろさ。もしかしたらあの画家の特別展をする際には奇をてらったことをする慣わしなのかもね」


 真夕は柔らかに笑い、ストローに口をつけた。それに礼御も賛同し、二人の会話の話題は、真夕が最も好ましく思った作品へと移り変わった。

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