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玉藻前の尾探し譚  作者: 歌多琴
2 猫又、美を語る
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-1

 玉藻前(たまものまえ)と名乗った三尾の妖狐は徳間 礼御(とくま れみ)に助けを求めた。


 礼御はまだその詳しい話を聞いていないものの、この妖怪が人間である自分に何を求めていたのか、一日寝食を共にすることでなんとなく察することができていた。いや、実際は食は共にしたが、寝は共にしていない。


 それはなぜか。玉藻は女性ということらしい。そしてほぼ常に礼御の部屋では十代半ばの女性に化けている。しかしそれで『恥ずかしいから一緒に寝ない』なんて可愛い理由ではないのだ。


 では何が理由かというと、この妖怪、ひどいネット中毒者であった。


 ずっとパソコンに向かって何かしている。音楽を聴いたり、動画を見たり、挙げ句の果てはネットゲームまでし始めた。人間に化けているのはこのためだろう。


 その際のやりとりが次のような感じである。


「このパソコンじゃスペック不足だ」


 玉藻は画面を見たまま文句を垂れた。


「俺はゲームなんてしないからな。とくに困らない。ていうかなんでネットゲームのアカウントもってんだよ?」


 ハンっと息を吐き捨て玉藻は言う。


「乙女の嗜みだろう」


 嗜みではあるのだろうが、絶対に乙女のものというわけではない、と礼御には確信がもてた。


「とにかくグラフィックボードくらい買ってよね」

「なんだよそれ」

「はぁ?そのくらいググってくれ」


 なんて現代的な妖怪なんだろうか、と礼御は呆れた。検索しようにも、パソコンは玉藻が占領しているではないか。


「あとコントローラーも買ってほしいな。キーボードじゃあ、やりづらいゲームも多いし」

「なんでそんなもの買わないといけないんだよ」


 礼御にとっては心底必要のないものである。


「ちゃんと守るから」

「・・・?」

「何か礼御の身にあったとき、ちゃんと守るから」


 なんとなく白々しく「約束通りね」と付け加えた玉藻だった。


 その言葉に不安になる。今のところこの目の前でネットゲームをやりこむ妖怪にしか危害を加えられていない。しかし聞く限りいいセリフなのだから、ちゃんと面と向かって、真摯な表情で言って欲しかった。真摯な視線は画面の向こうとはなんとも悲しい。


「・・・お前強いの?」

「まぁね。そこらへんの妖怪なんて比べ――って、ちょっと黙っててな。今いいところ、で、ねー!」

「・・・はいはい」


 以上のようなことが続いた。それがほぼ一晩中続き、日が明けても続き、現在日は暮れている。礼御が寝ていてもお構いなしで、玉藻はパソコンに向かっていた。度々、「久しぶり」とか「訛ってる」とかつぶやくのを礼御は耳にしていた。


 この妖怪が、妖怪のくせに屋根のあるところで生活したがった理由がよくわかる。いくらパソコンが普及して、またネットがどこでも使えつつある時代だと言っても、妖怪が野外でネットをできる時代ではさすがにないのだろう。


 ずっとパソコンを占領されるというは、あまり気分のいいものではない。しかしあまりにも玉藻が楽しそうに使うものだから、礼御は文句を言わずパソコンの占領を許していた。


 明日は真夕(まゆう)と美術館へ行く日である。そのため今日の夜は早めにゲームを切り上げて、暗い部屋で寝させて欲しいことを礼御が玉藻に伝えると、あっさりと承諾された。そのうち使用時間も落ち着いてくるだろうと思っていた礼御は、それが案外近い未来でありそうだと感じた。


 時刻は二十三時を回ったところである。礼御はベッドに横になると、慣らされつつあった画面を見ながら、玉藻に話しかける。


「玉藻、今は話しかけてもいい感じ?」

「んんー、別に大丈夫だけどー」


 出会って数十時間、礼御をほとんど相手にしなかった、この新しい同居妖怪とようやくまともに向かいあえた。

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