*五
古びた建物から外に出た女魔術師は上空を見上げた。高く上がった月がまるで自身を祝福しているようではないか。
民家を見下ろすように存在するその建物は、鬱蒼とした木々に囲まれて建っている。人の訪れは少なく、いつも夜には風が木々を動かす音や、日とともに明度を変化させる闇があった。
ようやく手に入る。求め続けていたモノの力。
この出会いは僥倖といえるだろう。かねてより噂に聞いていたこの土地の異常性は、噂以上に異質なものだった。こんなこと人―――魔術師ができることではない。
この世を支配するモノがいったい何者であるのか、私はまだ知らない。けれど一般的な神や我々の言う龍を除けば、それは私たち魔術師に他ならないだろう。
では現代の最上位である魔術師が不可能なことを可能としているそのモノは一体何であるのか。……そんなこと、そいつの力を得れば分かることだ。
女魔術師は、ふと自身の手に握られた一枚の紙切れを見た。長方形に切られたその紙には、上端に『陽』、下端に逆様になった『陰』の字がかかれており、その間の空白にはその二つの文字を繋ぐように二巻の渦が、まるで雷紋のように描かれていた。
代を経て、才能のなかった我が一族の魔術はまた一歩前進するはずだ。我らの魔術をけなし、見下し、馬鹿にした者達よ、見ほれるがいい。そして正しい評価を下せ。私が会得し、考案した魔術はそれに値する。
女魔術師は不敵に、そして傲慢な笑みを浮かべる。
魔術師の目的へいかなる者より先に到達できるはずだ。・・・多少の犠牲は仕方のないこと。
そもそも―――貴重な、もしくは絶対的な能力を持ちながらそれらを自覚しない、それらを不要だとする者達が集まった、こんなくだらない楽園などへどが出る。この異常な土地に住まう者。それは私の一族に対する無自覚な侮蔑に他ならない。……じきに苦しみの声に満ち溢れるだろう。
私はそれらを御するモノの力を得て、その呑気で温和な生活による物語に終止符を打つことができるのだ。
封印は解かれつつある。もうすぐだ。
闇夜に漂う風が、女魔術師を煽ぎ、まるで彼女を鼓舞するかのようであった。




