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雰囲気的に魔女の住処みたいだな。
そんなことを思いつつ、礼御は少女と、また少女に葵と呼ばれていた女性に促され、はじめ彼が不気味だと表現したその家に近づいた。
浮かんでいた二つの影も、今や礼御とほとんど同じ高さの目線となっている。月夜に浮かぶその二つの影は人型であるものの化物のように思えてならなかった礼御であるが、はっきりとその姿を視界に捉えると二人はただの女性と少女に違いなかった。
その建物は店のようだ。入口の扉の上に『常晴古本屋』という看板が掲げてある。
じょうせい――古本屋かな。
礼御が詳細不明な二方から目を背けそのように考えていたところ、その件の二人は何事もなかったように短い会話を始める。
「空子。今日はもう帰りな」
「……気になる」
空子と呼ばれた少女は礼御を指差し言った。礼御はチラとだけそれを確認したが、何も反応を示していないよう心がけた。
「また後日、話してやるよ」
「……そう」
空子はどうにも納得していないようであったが、おそらく葵という女性の言うことに逆らえないのだろう。「一人の夜道は危険」なんてポツリと言いながらも、礼御と葵に背を向け歩き始めた。そんな空子に葵はひらひらと手を振って、無言のさよならをしつつ言う。
「さあ、入って」
「え…………、えぇ」
礼御はそんな彼女の勧めに身体に緊張を覚えた。それでも葵はそんな礼御に構わず、古本屋の中に入っている。
今なら逃げることも可能だろう。しかし逃げたところでどうなるというのだ。
礼御は、葵の「何モノだ」という質問には答えられなかった。単純に恐怖というものが口を開けなかった原因ではあるかもしれない。しかし、黙ったきりの礼御に葵が地に降りて言った「・・・まぁ、夜も遅いし、中で話を聞こうか」という誘いを受けたとき、彼は頷いてしまったのである。
礼御は恐る恐る、葵と呼ばれた女性が支配しているのであろう建物の中に足を踏み入れる。半ば食われる覚悟で、いっそ特攻覚悟でという、自分の中で浮かんできては沈まない探究心を飲み込む恐怖心が礼御をそうさせたのである。怖いという想いが、知りたいと思う気持ちを飲み込んで消化してくれればいいのに、卑怯にも礼御の中の探究心は、恐怖心を隠れ蓑にしているのであった。
古本屋に相応しい、時代を経た紙の匂い。それに埃が混じっている。しかしまったく嫌な匂いでなく、こんな不自然な場所に立っていることを忘れさせるくらい、まるで普通の古本屋である。
店内には入るとすぐに本棚で仕切られた通路があった。人一人が通れるくらいの幅で、その先にレジらしき机が見える。すでに礼御を適当に導いた本人の姿はない。
本を並べられると嫌でもそのタイトルと確認したくなるというのが人の性である。礼御はこそこそと行動しつつ、葵の姿を探した。
見たことのない漢字で書かれた本。そのどれもが薄茶色に色あせているかを思うと、中には先日発売したばかりの漫画の単行本が置いてあったりする。ジャンルも様々でそれが特に整理されているでもなく、無作為に棚に並んでいる。
そんな中、一冊の本が目に止まった。いや、一冊だけではない。
「これは……」
『魔術』『妖怪』『占い』『精霊』『陰陽道』『天使』などなど。怠慢につまれ、並べられた書籍のタイトルの殆どにそのような、つまりはファンタジー的なものを連想する文字が含まれているのである。
「何をしている」
呆気に、というよりは圧巻にとらわれていた礼御はその声で我に帰った。振り向き、その声の主を探すも姿はない。どうやら店の奥から、呼びかけているようだった。
「早くこっちに来な」
礼御はここでまた生唾を飲み込んだ。
死を覚悟―――なんてしたくもない。腕の一本くらい―――持っていかれるのはできれば遠慮したい。しかし血の一滴―――献血で抜かれるくらいなら奪われてもいい、なんて礼御は彼にできる精一杯の覚悟で、それに応じるのだった。




