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礼御が緑の薫る広場に出ると、二人の魔術師が争った跡が確かにそこにあった。地は所々抉れ、林に茂る木々も数か所その生を奪われている。
礼御は蓮武の後に続き帰宅する。広場を抜けて、月明りを遮る小道に入ったところで、蓮武が口を開いた。
「あの場では流れ上言えなかったが――」
礼御から蓮武の表情は見えなかったが、その口調から今らか話す内容が大事な事柄であることを礼御は察した。
「お前に与えられた魔術について――お前の親がかけた方だ――『防御の魔術』なのだがな、あれをお前はどう思う」
「えっと……つまりどういうことですか?」
「……つまり、お前から見て、あの『防御の魔術』はどのような魔術だと思う?」
それで礼御は改めて親がかけてくれたという魔術について考える。
それは魔術・異能の力を受け付けないだけではなく、妖怪・幽鬼と言った異形のモノ事態さえも受け付けない力である。現に葵の風の魔術―――地を裂き、木々を切り倒す魔術を受けても効果がなかった。また妖弧の吐く火炎も、幽鬼の触手・本体すらも礼御の肉体が振れると消え去ってしまう。
まるで異能に対する全能の守りだ。
礼御がそのことを蓮武に告げると、やんわりとそれを否定して、その魔術について正しい知識を礼御に与える。
「あれはすべての異能に対して万能ではない」
「そう……なんですか?」
そう言われても礼御は、ではどういったものなのか見当もつかない。
「あれはすべて、お前の母親の博識ゆえの、実に効率が悪い魔術なのだよ。そのため誰もそれを真似しようとしないし、しかし真似しようと思ってもできるものではない」
蓮武は自分の師である礼御の両親に対し、まるで嫉妬から生まれた軽蔑を吐きだしたような口ぶりである。
「魔術と言ってもその種類は半端ではない。例えば炎を操る魔術。例えば風を操る魔術。そんな膨大で限りない範囲を持った魔術に対して、しかしそれを逐一打ち消すような魔術を組み立て目標を守る、そんな魔術だ」
礼御はその蓮武の説明から、間違った認識を正そうと少しずつ整理する。蓮武は説明を続けた。
「炎には水を、風には真空を、そういった感じだ。『魔術・異能ならなんでも消す魔術』なんて便利なものではないのだよ。そういった便利なものの代用、模倣として作られた『実に人間臭い魔術』だ」
「……」
「またいくらでも際限なく迎撃しつつげる魔術なんてものはない。魔術もその発動にエネルギーが必要だ。お前の母親は多少の大事なら対処できるように魔術に必要なエネルギーもお前に与えたが、いつかそれも尽き、魔術の効力は失われる。そうなればお前は魔術・異形に対して丸裸だ。またそのエネルギーがいつ切れるかなどさすがにわからない。お前もそうだろ?」
「……そうですね。僕も――よくわからないです」
「だから自分が盾になればいいなどと思い、むやみに魔術・異形に立ち向かうな。お前は魔術師ではないのだから」
礼御は黙った。母が言う大事とは一体どれほどの事なのか。礼御は自分にいきなり宿ったあまりにも不明瞭な魔術を安易に頼り過ぎていたのは事実だ。
しかし――。
「加えて打ち消せるのはお前の母親の知識に在る魔術・異形だけだ。それ以外の、あまりにもマイナーなものには対策が打てないのも弱点だ」
例えば紅子。それを知っていたとしても俺は――。
「無限に魔術を無効化できるわけではなく、万能に魔術を無効化できるわけではない。今までのお前は言ってしまえば運が良かった。受けた魔術で限界に達することもなく、特異な魔術も受けてこなかった。しかし忘れるな。そして頼るな。極力その親の魔術に頼るのはよした方がいい」
蓮武の話はよくわかった。礼御は自分がどれほど浅はかだったかをよく自覚させられた。
――だけど、
蓮武は小さく首をひねり後方の礼御をちらと見た。その表情である。
きっと俺は――そうと分かっていても――紅子を助けるに決まっていた。
蓮武はそんな彼を見て思った。それもまた、徳間の血筋だな。
蓮武は前を向くと、微かに頬を緩ませた。




