女の涙を力に変えて
目が覚めると牢屋に居た。そして俺は直ぐに動き出す。牢屋を出る為でもなく、喚き散らす為でもなく、同じ牢屋に入れられている少女の涙を見つけたから。
『男なら女子供を守ってみせろ』
『女の前で格好付けてこそ男』
祖父の教えが頭を過る。俺は生憎頭が良くない。完全に肉体派なのだ。策略を巡らせて牢屋を出る事は不可能。ならばどうするか等決まっているだろう。
「オラァッ!」
後ろ手に縛られて使えない両手の代わりに、オモリの着いた両足で鉄柵を蹴りつける。ガァァンと冷たい音が響くのを聞きながらもう一発。
「ヒッ……!」
俺の後ろで少女が息を呑んだ。頭の良い奴なら慰める事が出来るのだろうが、俺はどんな言葉を掛ければ良いのか分からない。だから────
「待ってろ、出してやる」
簡潔に、淡々と。背中越しに言い放つ。そして一歩踏み出し、ミドルキックを鉄柵に打ち付ける。当然痛みが走るが、力は抜かない。全力で気合いを込めて足の甲で鉄の棒に打撃を与える。
ガンガンガンガン鉄柵を蹴りながら、俺はさっきまで何をしていたのかと頭を捻る。そこまで馬鹿じゃない筈なのだが、祖父の言葉と祖父の説く男の在り方以外の事が思い出せない。とうとう脳まで筋肉になってしまったのかも知れない。
だが取り乱したりはしない。不安も困惑も1人になるまで封印だ。今はただ、少女の前で格好付けるだけ。この柵を───
「ぶっ壊す!」
痛みの詰まった足で地を踏みしめ、痛みと気合いを乗せた蹴撃を鉄の壁にぶつける。オモリの重さによって少しずつ曲がっていく牢屋の柵。
「も、もうやめて!血が………」
少女の言葉で自分の足に目をやる。脚は内出血でパンパンになり、所々から血が流れていた。
「痛みは無い。」
そう吐き捨てて再び鉄柵を蹴る。考え得る限りの蹴り方で、一つ一つ丁寧に気合いを込めて牢を蹴る。跳び蹴り、回し蹴り、膝蹴り、跳び回し蹴り、跳び膝蹴りの五つをランダムに使い回しながら蹴り続ける。
ガァァンが段々近く大きくなっていく。やがてガァァンはギャァンに変わり、蹴る度にギシギシと何かが軋む音が響く様になった。
「最後ッ!」
空中踏みしめ蹴り。たった今思い付いた蹴り方。跳躍して宙で鉄柵を蹴り飛ばし、後方に回転して着地。しかし何度も聞いた音はしない。
「ウソ………」
呆然と呟く少女の声に鉄柵を見ると、ゆっくり倒れる所だった。達成感が溢れそうになるが、我慢。ここは見せ場だろう。
「俺は嘘は吐かない」
そして立ち上がろうとして、直ぐ近くからラップ音。下半身が消えた様な感覚が俺を襲った。
「あッ!」
地面が迫り、激突。俺は暗闇に包まれた。