表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

女の涙を力に変えて

目が覚めると牢屋に居た。そして俺は直ぐに動き出す。牢屋を出る為でもなく、喚き散らす為でもなく、同じ牢屋に入れられている少女の涙を見つけたから。


『男なら女子供を守ってみせろ』

『女の前で格好付けてこそ男』


祖父の教えが頭を過る。俺は生憎頭が良くない。完全に肉体派なのだ。策略を巡らせて牢屋を出る事は不可能。ならばどうするか等決まっているだろう。


「オラァッ!」


後ろ手に縛られて使えない両手の代わりに、オモリの着いた両足で鉄柵を蹴りつける。ガァァンと冷たい音が響くのを聞きながらもう一発。


「ヒッ……!」


俺の後ろで少女が息を呑んだ。頭の良い奴なら慰める事が出来るのだろうが、俺はどんな言葉を掛ければ良いのか分からない。だから────


「待ってろ、出してやる」


簡潔に、淡々と。背中越しに言い放つ。そして一歩踏み出し、ミドルキックを鉄柵に打ち付ける。当然痛みが走るが、力は抜かない。全力で気合いを込めて足の甲で鉄の棒に打撃を与える。


ガンガンガンガン鉄柵を蹴りながら、俺はさっきまで何をしていたのかと頭を捻る。そこまで馬鹿じゃない筈なのだが、祖父の言葉と祖父の説く男の在り方以外の事が思い出せない。とうとう脳まで筋肉になってしまったのかも知れない。


だが取り乱したりはしない。不安も困惑も1人になるまで封印だ。今はただ、少女の前で格好付けるだけ。この柵を───


「ぶっ壊す!」


痛みの詰まった足で地を踏みしめ、痛みと気合いを乗せた蹴撃を鉄の壁にぶつける。オモリの重さによって少しずつ曲がっていく牢屋の柵。


「も、もうやめて!血が………」


少女の言葉で自分の足に目をやる。脚は内出血でパンパンになり、所々から血が流れていた。


「痛みは無い。」


そう吐き捨てて再び鉄柵を蹴る。考え得る限りの蹴り方で、一つ一つ丁寧に気合いを込めて牢を蹴る。跳び蹴り、回し蹴り、膝蹴り、跳び回し蹴り、跳び膝蹴りの五つをランダムに使い回しながら蹴り続ける。


ガァァンが段々近く大きくなっていく。やがてガァァンはギャァンに変わり、蹴る度にギシギシと何かが軋む音が響く様になった。


「最後ッ!」


空中踏みしめ蹴り。たった今思い付いた蹴り方。跳躍して宙で鉄柵を蹴り飛ばし、後方に回転して着地。しかし何度も聞いた音はしない。


「ウソ………」


呆然と呟く少女の声に鉄柵を見ると、ゆっくり倒れる所だった。達成感が溢れそうになるが、我慢。ここは見せ場だろう。


「俺は嘘は吐かない」


そして立ち上がろうとして、直ぐ近くからラップ音。下半身が消えた様な感覚が俺を襲った。


「あッ!」


地面が迫り、激突。俺は暗闇に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ