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元人間で元男で元勇者で現魔王の恋人?

元人間で元男で元勇者で現魔王の恋人?

作者:

急に思いついた短編を投稿させて頂きます。

拙い文章ですが、最後まで読んで頂けたら幸いです。




 魔の森。

 それは、魔物と呼ばれる異形の者が数多く生息し、魔物の頂点に君臨する魔王が住む城がある広大な森のことである。そこは、昼でも薄暗い闇に包まれ、獣と血の匂いがあたり一面に立ち込めている。




 間違っても人が足を踏み入れようとは思わないそんな森の中に、一軒のログハウスが建っていた。

奇妙なことに、家が建っている周りの空気だけが澄んでいる。さらには、辺りには色とりどりの花が咲き乱れ、家の前にある泉と共に朝の陽ざしを浴びて煌めいている。



 この光景だけを見れば誰もここが魔の森だとは思いもしないだろう。いや、楽園と言いだす人がいても誰も馬鹿にしないはずだ。



 魔の森にある楽園。

そんな、みょうちくりんな場所に暮らす者の朝は早い。








 「うーん、今日もいい天気だね」




 木々の間から降り注ぐ朝日が眩しくて、ボクは目を細めた。



よし、この朝の澄んだ空気を満喫するために深呼吸でもしてみようじゃないか。




 「すぅ――――、はぁ―――――――――」




 うん、やっぱり森の朝の空気はおいしいね。最近は仕事が忙しかったのかアイツもあまり来なかったし、晴れの日は続いているし、いいことずくめだなぁ。これだけいいことが続くとそろそろ嫌な予感がするけど、とりあえずは――




 「今日もお仕事がんばりますか!」




 まあ、ボクの仕事は花の水やりと結界の維持くらいなんだけどね。はい、今ひきこもりとか思った人は正直に手を挙げなさい。今なら九割殺しで許してあげるよ。


ボクも好きでこんな生活をしているわけじゃないんだよ。アイツがこれ以上のことはさせてくれないんだよ。本当ならボクだって、あんなことやこんなことを―――――――――。




 <少々お待ちください>












 徒歩二十秒にある泉の水面には、手に水差しを持っているボクの姿が映っている。




 まず目を引くのが腰まで伸ばしている枝毛一つない綺麗な銀髪である。本当は肩くらいで切り揃えたいのだが、一度そのことをアイツに言ったら凍りつくような笑顔を向けられたので、それ以来断念している。

体型はすらっとしており、肌は透けるように白い。頬は薄い桃色に染まっており、瞳は森の色を写し取ったかのような深い緑に染まっている。


 陳腐な例えになってしまうが、十人に聞けば十人が美少女と答えること間違いなしの容姿だね。



 昔はこの姿が自分だと思えずに苦労したが、現在はちゃんとこれが今の自分なのだと分かっているよ。





 そう、昔のボクはこんな姿ではなかった。いや、住んでいる世界さえも違ったんだ。


 地球という星にある、日本という国の、東京という場所に住むごく普通の男子・・高校生だった。


それがなんの因果か。日曜日の朝、布団の中でごろごろしていたときに、異世界に召喚されてしまった。人生は小説よりも奇なりとは言うけれど、それからはまさに絵に描いたように話が進んでいってしまったよ。



1、召喚された理由は魔王と呼ばれる人類の敵を倒すためだった


2、伝説の聖剣を王様から与えられる


3、城で修業をして前の世界より向上した身体能力に驚く


4、数か月の修業の後に、お姫様を含む数名のパーティで旅に出る


5、旅の途中で新たな仲間が加わる


6、なんやかんやあってお姫様と恋仲になる


7、魔王の城があるという魔の森に到着




 これが全部召喚されてから一年間の内に起きたんだよ。いくらなんでも詰め込み過ぎだと思うよね?



 まあ、なにはともあれ魔の森に着いたボクたちは近くの村で何泊かしてから森の探索に入ることになったわけだよ。ところがね、そこでボクは知ってしまったのさ。お姫様がボクと恋仲になったのはボクを監視するためだとか、お姫様から貰ったネックレスには付けた相手を奴隷にする魔術がかけてあるとか、実はパーティの一人とお姫様はすでに大人の関係だったなどなど。主にお姫様に関連することだけど。



 それでボクは絶望とかしちゃったわけだよ。今思えばなんて単純なって恥ずかしなるけど、あの時は「お姫様のために頑張るんだ」とか本気で考えていたから、それなりにショックだったんだよ。



 そこで、生きる気力をなくしたボクはなにもかもがどうでもよくなって、何も考えずに魔の森にフラフラと入って行ったの。その時に首から掛けているネックレスが目に入ったんだけど、それで怒りが込み上げてきちゃってネックレスを岩に叩きつけたの。だけど、魔術で作られている道具それなり丈夫だから、それぐらいじゃ傷一つ付かなくてさ。でも、自分を奴隷にしているネックレスなんてどうしても壊したかったから、腰に提げていた聖剣を引きぬいておもいっきり叩きつけてやったんだ。


そしたら、あら不思議。気が付いた時にはネックレスも聖剣もどこにもなくて、ボクはこの姿になって森に倒れていたってわけ。




 森で倒れていたボクを助けてくれた人によれば、強力な魔術がかかった物同士がぶつかったことによって持ち主に影響を与えたんじゃないかって話。本当はもう少し詳しい説明をされたんだけど、奴隷の魔術が消えてればそれでよかったボクとしてはあまり覚えてないんだよね。






 それが五年前の話で、今は魔の森のこの場所に結界を張って、花を育てながら暮らしているというわけ。まあ、この生活を送れるようになるまでに涙なくしては語れないボクの孤軍奮闘の記録があるわけだけど………今は過去の話だからいいとしよう。


 そうそう、ちなみに姿は五年前から変わってないよ。ボクはすでに魔物のような存在らしい。魔物は力が強ければ強いほど寿命が長い種族で、魔王になると一万年とか生きるらしいよ……………ちっ。




 そんなわけで、ボクもまだまだ寿命に余裕があるから、今までできなかった静かでのんびりとした暮らしを一人でしていこうと―――




 「おはようございます、リン」



 「――ひゃっ!!」




 いいい、いつの間にボクの背後に!!いや、それよりもなんでコイツは後ろから抱きしめてくるの?!




 「リンがかわいいからですよ」



 「っ!!また人の考えを勝手に読んだね!」



 「リンの思考は単純だから読みやすいですね」



 「なんだって!!」




 今ボクを後ろから抱きしめている奴こそ、森で倒れていたボクを助けてくれた恩人であり、ボクの行動が極端に制限されてしまっている原因でもある。




 「怒っているリンもかわいいですよ」



 パクッ



 「―――――っ!!!!」




 み、耳を、今、コイツ、ボクの耳を――




 「は、早く離して!!」



 「顔が真っ赤ですよ」




 クスクスという笑い声が耳元で聞こえる。それにもビクッと反応してしまう自分の体が恨めしいことこのうえない。




 「いいから離して!!」




 そう言ってなんとか奴の腕から抜け出した。



 久しぶりに見るけど、相も変わらず憎たらしいくらいに綺麗だね………けっ。



 背丈はボクが軽く見上げる程大きく、肩まで伸ばした漆黒の髪に、血のように紅い目が不気味な印象を与えている。それなのに顔の造形が良いせいで、それすらも視線を集める要因の一つにしかならない………イケメンは滅びてしまえばいいと思う(殺)。見た目は二十歳程度にしか見えないが、纏っている雰囲気がそれを否定している。実年齢が何歳なのかは訊いたことがないので知らない。




 「どうして離れるのですか?久しぶりに会うことができたというのに」




 首を傾げて尋ねる姿は、普通の男がやったら絶対に気持ち悪いと思われるだろうに、コイツがやるぶんには違和感がないのがまたムカつくよね。




 「べ、べつにボクは会いたくなかった」



 「フフ、顔を真っ赤にして言っても説得力がないですけどね」



 「なっ!!これはさっきおまえが―」



 「おまえ?」




 奴がそう言った途端に辺りの空気が凍りついた。




 「おかしいですねー、私のことは名前で呼べと言ったはずですけど?」



 「い、いや、それは―」



 「これはまたお仕置きが必要ですか?」



 「ひっ!!」




 奴はそう言いながら、ジリジリとボクに近づいてくる。ボクもそれに合わせて後ろに下がるがすぐにログハウスの壁にぶつかってしまって逃げ場がなくなってしまった。



 どど、どうにかして話を変えなくちゃ!!




「そうだ!仕事はどうしたの?」



 「ん、仕事?」



 「そうそう、なんかこの時期はいつも忙しいって言ってたよね?」



 「ああ、この時期になると会議が多くなりますからね。でも、リンに会えないのが辛いからすぐに終わらせてきました」



 「そ、そうなんだ」




 いつもならここで「まじめに仕事をしろ!!」って言うところだけど、今はできるだけ話を逸らさなければ!




 「じゃあ――」



 「それなのにリンは私に会えても嬉しそうじゃありませんし」



 「え?」



 「私のことは名前で呼んで頂けないし」



 「い、いやだからそれは―」



 「やっぱりこれは、お仕置きをしなくてはなりませんね」




 そう言って奴は、ボクの顔の横に手を付いてボクを逃げられないようにした。



 ど、どうにかしなくちゃ。でも、どうすれば――っ!!そうだ!!




 「ジェ、ジェイド!!」



 「!!」



 ピタッ




 ボクが名前を呼んだ瞬間、奴の動きが面白いくらいに止まった。



 よし、今がチャンス!!この間に家の中に入って籠城してしまえば――




 「リン」



 ガシッ!!



 「ひあっ!」




 ジェイドの腕の中から抜け出そうとしたボクは、今度は正面から抱きつかれてしまった。




 「ああ、ようやく私の名前を呼んでくれましたね」




 その言葉に顔を上げたボクの視界には、腕の中にいるボクを見降ろして微笑む奴の姿が――



 笑ってる!!笑ってるけど、目が絶対に良くないことを考えているときの目なんですけどー!!




 「これはご褒美をあげないといけませんね」



 「そ、そんなご褒美なんてもったいないよ」



 「いいえ、遠慮することはありませんよ」




 近い!!顔が近いよ!!




 「いや、ボクは遠慮なんて――んん!!」




 次の瞬間にはボクの口は塞がれてしまっていた。




 「んんー!!んっ!んっん―――!ふぁーんん!?」




 し、舌が入って―――



 ジェイドは逃げようとするボクの背中に手を回し、覆いかぶさるようにして、より行為を濃く深くしてくる。ボクはジェイドの舌で口の中を掻き乱されながら、与えられる唾液を促されるように飲み込んでいった。それでも飲みきれなかった唾液が口の隙間から零れて顎を伝っていくのを甘い痺れが支配する中で感じた。




 「んっんん!ふぁん!んーん!ふぁあっ!!」




 それは何時間にも感じた。最後の方は体に力が入らずにジェイドの好きなように翻弄ほんろうされていた。ようやく解放されたときには腰も抜けてしまっていて、ボクがジェイドに縋り付くような格好になっていた。




 「はあ、はあ、はあ」



 「フフ、相変わらずキスに弱いですね。とてもエッチな顔をしていますよ」




 コイツ、余裕な顔で笑いやがってー!!




 「誰の、せい、だと」



 「私のせいでしょうね。となれば私とリンは大変相性が良いといことでしょうね。やはり私たちは結ばれる運命なのですよ。ですから、私と結婚しましょう」




 そう、ジェイドは五年前からずっとこうやってボクに結婚を申し込んでくる。




 「だから、いつも言っているようにボクは元男だし―」



 「ですが、今は女性ですから問題ないですね」




 いや、問題はそれだけじゃないでしょ!!




 「それに、ボクは勇者で人間だよ」




 これが最大の理由と言ってもいい。



 この目の前の男の正式な名前はジェイド=ウォズ=ランドレイ。

 魔物による、魔物のための、魔物の国、ランドレイ国の国王にして、魔物の頂点を統べる者。



 「魔王・ジェイド=ウォズ=ランドレイ」御本人なのである。



 その魔王が人間と、ましてや勇者と結婚など聞いたことがない。毎回そう言って断っているのだが―




 「前にも言ったと思いますが、リンはもう人間ではないですよ。それにリンが勇者であろうと私は構いません」




 と、いったようにまったく相手にされないのだ。



 そりゃボクだってこんなに言われて何も感じない訳じゃないよ。どっちかっていうと、その、う、嬉しいし。でも、やっぱりどこかで疑っているというか、自分の気持ちがよくわからないというか………。




 「そうですか。リンは私の気持ちをまだ疑っているのですね」



 「ジェイド、また勝手に!!」



 「なら仕方がありません。もっと簡単な方法で私の想いを知ってもらいましょう」



 「え、簡単な方法?」




 今ボクの笑顔は確実に引きつっているだろう。正直嫌な予感しかしない。




 「できればその簡単な方法とやらをお教え頂けたらなぁ、なんて。アハハハハ」



 「なに、簡単なことですよ。リンは頭より体で覚える方が得意のようですから、今からじっくり体に教えて差し上げますね」




 そう言ってジェイドはまだ腰が抜けて動けないボクを抱き上げる。世間一般で言うお姫様抱っこというものだ。そして転移の魔術で城にあるジェイドの私室へと飛んだ。




 「なにをっ!うわっ!?」




 な、なにベッドの上?



 ボクをベッドの上に落としたジェイドは蕩けるような笑みを浮かべていた。




 「さて、幸い明日の昼まで政務はないですから」



 「え、あ、その」




 ジェイドはゆっくりとボクの上に覆いかぶさり、耳元に囁いた。




 「覚悟してくださいね」






 この日、魔王の城には少女の絶叫が響き渡るが、部屋に入ろうとする勇者はしなかった。いや、部屋はおろか、次の日の昼になり、上機嫌な魔王が中から出てくるまで、部屋の前の廊下を通ろうとする者すらいなかった。











 これから数ヵ月後にリンが王妃になる旨がランドレイ国の国民全てに伝わる。



 城で働き、魔王のリンに対する溺愛ぶりを知る者たちは、ようやく一緒になってくれた二人に安堵の息をもらし、いつも魔王に振り回されていた側近たちはリンに感謝すらしたという。






 これは、元人間で元男で元勇者が現魔王の恋人になり、後魔王妃となっていく物語のほんの序章のお話である。





最後まで読んでくださってありがとうございました。

本当は、リンが森で暮らすようになるまでの五年間や、王妃となった後の話などもあるのですが、それだと短編にならないので今回はあきらめました。この作品が多くの人の目に留まるようなことがあれば、短編で出していきたいと思います。

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[気になる点] 勇者はしなかった →勇者はいなかった
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