【その4】惜別の日よ……
『人は出会い――そして別れ――その繰り返しなのかもしれない……』松屋省吾のラスト・オブ・シュール・アワ―〜〜〜!!でございます。
ある日、オレがいつも通り学校に登校すると突然劇的ニュースが舞い込んで来た。
「今月を持って私はこの学校を辞任することになりました」
「ええ〜〜〜っ!? 何でぇぇぇ〜〜!?」
蒲谷先生のその報告を聞き生徒達が驚き教室が騒がしくなった。
蒲谷先生とはこのクラスの担任の先生だ。
「妻の実家で農業を手伝うことになりましたので……」
そう言った蒲谷先生は顔が赤かった。
「先生奥さんいたの!?」
「いつの間に結婚してたの!?」
「何で教えてくれなかったの〜〜!?」
先生は一気にみんなの質問攻めにあっていた。
それもそのはず、蒲谷先生は独身貴族が売り(?)の地味な男性教師として今まで通して来たのだ。それで先生は
『結婚したら君達に教えるから』
なんて言っていて純粋な生徒達は皆先生のその言葉を信じていたというのに……あれはたんなる大人のリップサービスにすぎなかったのだろうか(?)
ああ、蒲谷則夫お菓子にのりが付いたようなあなたのその名前はまやかしだったのか……(?)
すると先生は照れくさそうにしながら質問に回答した。
「……実は、先月オ、ん゛っんーっ! 先生が……プロポーズしました……」
「……」
食い入るようにみんながその話に聞き入り一瞬だけ静寂が流れたが……
「おお〜〜!」
「やったじゃん先生!?」
「おめでとう〜〜!」
また一気に盛り上がり生徒達から先生へと温かいエールが送られた。
それはこの荒んでしまっているこの世の中において(?)実に美しい光景だった。
蒲谷先生、オレはあなたを決して忘れはしない!(はず)
独身貴族卒業おめでとう――と教卓に刻んでおこう……(多分)
――それから数日後、新たな担任はやって来た。
「今日からこの四年二組を担当して頂く先生を紹介します」
三組のおかっぱ頭のおばちゃん先生が教室にやって来てそう言った。
戸が開き――
静寂が流れ――
運命の瞬間……
そして姿を現したのは紛れも無い素朴で健康的〜な男性教師だった。
「皆さんはじめまして。私の名前は……」
そう言いその男性教師は黒板に勢いよく大きな字を書いた。
(照弥基?何か族の当て字みたいな名前だなぁ。何て読むんだろ?)
変わった名前だなぁとオレが思っているとその男性教師が言った。
「ええ〜私の名前は……」
オレの中に緊張が走る。
(まさかまさか?)
「酉野照弥基です」
(ええ〜〜〜っやっぱり〜〜〜!?)
オレは心の中でそうツッコミを入れたがクラスの連中は誰もツッコミを入れず、普通に聞き流した。
(スルーかよ……っ!?)
オレはそんなクラスの連中にある意味驚愕した。
「実家はとんかつ屋なんですが親が照り焼きが好きなので……」
酉野先生はそこで話を中断した。
「……」
生徒達は皆行儀よく黙っていた。すると
「誰だトンカツ屋の息子なのに痩せてるなんて言う奴は!?」
「……」
酉野先生のその声に皆の表情が固まった。
(誰も言ってないし……てゆーか今のはノリツッコミか?)
それが酉野先生との出会いだった。
それから月日は流れ、オレは中学生になった。
そして、その知らせはあまりに突然やってきた。
「省吾、久米くんから電話よ」
夕飯の時電話が鳴り、すぐに出たママが言った。
「どうした?」
久米は小四の時同じクラスだった男子で、中学に入ってからは別のクラスになった。
「四年の時担任だった酉野先生……昨日交通事故で亡くなったんだって……」
沈んだ声で久米は言った。
「え!?……嘘」
身近な人の死を知らされるのはこれが初めてではなかったが、オレはショックで頭の中が真っ白になった……
ああ、酉野照弥基先生
オレはあなたのことを忘れない
ただ一つ後悔しているのは
あの頃オレが先生のネタ(?)にツッコまなかったこと……
あの頃はガキだったんだ
もしも、時間を戻せるのなら
オレはきっと……
きっと先生にツッコミを入れてあげるのに
『酉野照弥基』
「とりのてりやきかよっ!?」
まずはそう言ってあげたかった……
今まで読んでくださった方々、どうもありがとうございました。評価、感想のほうもよろしくお願いします。