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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

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雨音と、ほどけるブラウス——先輩の甘い香りに溺れる夜

掲載日:2026/10/14

 窓を叩く雨音が、やけに大きく室内に響いていた。

 時刻は午後八時を回ったところ。

 定時をとっくに過ぎたオフィスには、もう私と結月《ゆづき》先輩しか残っていない。


「ひゃっ……冷たっ」


 外回りから帰る途中で急な土砂降りに遭い、私はすっかり濡れ鼠になってしまっていた。

 傘を持っていなかったため、駅からの短い距離を走っただけで、白いブラウスが肌に張り付くほど濡れてしまったのだ。


「栞《しおり》ちゃん、おかえり。……って、すごい濡れてるじゃない」


 パソコンに向かっていた結月先輩が、弾かれたように立ち上がる。


 黒髪のボブティアーに、タイトなネイビーのスーツ。いつも隙がなく、社内でも高嶺の花として有名な先輩だ。


「すみません、急に降ってきて……」


「謝らなくていいから。ほら、給湯室に行くよ。タオル貸してあげる」


 先輩は私の手首を掴むと、半ば強引にオフィスの隅にある給湯室へと連れ込んだ。

 誰もいない、薄暗い給湯室。

 蛍光灯のスイッチを点けると、先輩は自分のロッカーから清潔なバスタオルを取り出し、私の頭からバサリと被せた。


「風邪、引いちゃうよ」


 そう言いながら、タオル越しに私の髪をわしゃわしゃと拭いてくれる。

 先輩との距離が、近い。

 普段から憧れていた彼女の、ふわりとしたバニラとムスクが混ざったような香水が、雨の匂いと混ざって私の鼻腔をくすぐった。


「あ、あの、先輩……自分でやりますから……」


「いいの。私にやらせて」


 少し低く、耳元で甘く響く声。

 その声色にドキリとして顔を上げると、至近距離に先輩の顔があった。

 長いまつ毛に縁取られた切れ長の瞳が、獲物をねめ回すように私をじっと見つめている。


「……髪だけじゃなくて、服も下着も透けてる」


 先輩の視線が、私の胸元へと下りる。

 雨に濡れた白いブラウスは透明度を増し、下に着ていたキャミソールや肌の輪郭までをくっきりと浮き彫りにしていた。


「っ……見ないでください……!」


 恥ずかしさで両腕を交差して胸元を隠そうとしたが、それよりも早く、先輩の白く細い指が私の手首をふわりと押さえ込んだ。


「どうして? すごく、綺麗なのに」


「せん、ぱい……?」


 いつもの凛とした先輩とは違う。

 どこか熱を帯びた、とろけるような瞳。

 先輩の手が私の手首から滑り落ち、濡れて冷え切った私の首筋へと触れた。


「ひゃあ……っ」


 冷たい肌に、先輩の温かい指先が触れる。

 その温度差に、思わず甘い吐息が漏れてしまった。

 先輩の親指が、私の鎖骨をなぞるようにゆっくりと這う。

 ゾクゾクとするような快感が背筋を駆け抜け、膝の力が抜けそうになる。


「栞ちゃん、震えてる。……寒いの?」


「……さむい、です。だから……」


「そっか。じゃあ、温めてあげなきゃね」


 言い訳を塞ぐように、先輩の顔が近づいてきた。


 チュッ、という小さな水音が給湯室に響く。

 唇の端に、先輩の柔らかい唇が落とされた。


「……っ!?」


 驚いて目を見開く私を逃がさないように、先輩の片手が私の後頭部を引き寄せる。

 そして今度は、まっすぐに唇が塞がれた。


「んっ……ふぁ……」


 ちゅ、れろ……という、卑猥《ひわい》な音が静かな空間に響き渡る。

 ただ触れ合うだけじゃない。先輩の舌が、私の唇を割り入って、甘い痺れを口内にもたらしていく。

 私の舌を絡め取り、味わうように深く、深く。

 息継ぎの隙間すら与えられないほどの濃厚なキスに、頭のなかが真っ白になっていく。


「はぁっ……ん、せんぱ……だめ、ここ、会社っ……」


「誰もいないよ。聞こえるのは、雨の音だけ」


 唇をわずかに離し、銀色の糸を引きながら先輩が妖艶に微笑む。

 その目には、私に対する隠しきれない独占欲が渦巻いていた。

 先輩の手が、私のブラウスのボタンへと伸びる。

 カチ、と一番上のボタンが外され、濡れた布地がゆっくりと肌から剥がされていく。


「あ……」


「栞ちゃんの肌、すごく冷たい。もっと私が、熱くしてあげるから」


 ブラウスの隙間から滑り込んだ先輩の手が、私の腰をそっと撫で上げた。

 直接肌に触れる指先は火傷しそうなほど熱く、そこから伝わる熱情に、私の身体はビクビクと反応してしまう。


「声、抑えなくていいよ。……私しか、聞いてないんだから」


 耳たぶを甘噛みされ、私は堪えきれずに小さな喘ぎ声を漏らした。

 先輩の香りと、まとわりつくような熱い吐息。

 濡れた服の冷たさなどとうに忘れてしまうほど、私の身体の中心には熱い火が灯っていた。


「栞ちゃん……可愛い。全部、私のものにしたい」


 再び重なる唇。


 今度は私から、先輩の首に腕を回してその熱に応えた。

 外の雨音は、もう二人の吐息と水音にかき消されて聞こえない。

 この嵐が過ぎ去るまで——いや、過ぎ去った後もきっと。

 私はこの甘く危険な先輩の腕の中から、抜け出せそうになかった。

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