花の電話
不幸は重ならない。
腕にあった金色のロレックスは、失ったが、今のところ雨には見舞われていない。
(ゴールは確か・・・・)
大泉洋は、ポケットをまさぐった。
ん?何か変だぞ?
「おやおやおや??」
スマホがないではないか?
次のコンビニに寄れという、メールに返事をしようとしていると、また、黒澤の携帯が鳴った。
「マジか」と言ってまた黒澤は携帯を切った。
「要は、札幌から出発したタレントが、道に迷ったんじゃが、途中の道にそのタレントがしていたロレックスが落ちていた。おまけにじゃが・・・」
黒澤がそこまで言うと、「おおかた、次元のお化けにでも出会ったんじゃろうて」と、楠木があとを引き継いだ。
コンビニの駐車場に車を入れると、後ろから来ていたタクシーも入って来た。
蛍が出てきて、「まずは、おてあらいじゃけ」と、着物姿でコンビニに入って行った。
「コンビニじゃけ、シャツぐらいしかなか」
心配そうな花に、黒澤が、「花の着ている上着を貸せばいいじゃけ」と言った。
「ズボンは、ホテルのパジャマがある」と、谷田が言う。
飲み物だけ買うと、みな、車に戻った。
コンビニの奥を借りて着替えを済ませた蛍が少し遅れて出て来る。
ホテルのステテコみたいなズボンに、上は、コンビニの白いシャツ、その上に、花が貸したわりときつめのカーディガンは、蛍のからだの線をあらわにしていた。
車の中から、蛍がタクシーに乗り込むのを見ていると、黒澤が急に吹き出した。
その頃、大泉洋は、突如おかしくなって一人笑った。
北海道のディレクターとは、藤村ではない。
他の局のデスクであり、このたびの四国行きを裏で操作していた。
「ロレックスはな~いし~、スマホもな~いし~」
これで雨でも降ったら目も当てられないと、大泉洋は、空を見上げた。
「何度も申し上げたじゃろう」
背中から声がして、ギョッとして大泉洋は、振り返った。
遠くを黒い影が横切る。
「こうしちゃあいられないぞぉ」
先ほどの鈴の音は、クマよけだったのだ。
大泉洋は、自分の足のわらじを見た。
走るべきか・・・。
いや、走るべきだろう。
「今日は、日帰りじゃけ」と、田中が言った。
大塚国際美術館は、とうに過ぎていた。
「多分じゃが、本島には入ってないわ」
黒澤が、タブレットをスクロールさせた。
花は、何だかこの神戸の旅の目的が何だったのか忘れそうになった。
食中毒じゃけまかないがという蛍の声を思い出し、この旅は商談のためだったと思い出した。
(そうだ、静香は?)
花が思うと、いきなり花の携帯が鳴った。
知らない番号だった。
その頃、大泉洋は何度目かの声を放つ。
「おやおやおや??」
遠くにバンが見えた。
それと同時に、今度はカランカランと鈴の音がする。
ダッシュだ!大泉洋!!




