試し読み 1
来る5月4日、ビッグサイトにて開催予定の文学フリマ東京42にて無料配布予定の作品、その一、
『稲穂と麺太の十個のお題』
から、〖序〗の部分を全文公開。
試し読みにどうぞどす。
◆◆◆
〘序〙
米俵稲穂の恋人は、いつもソファーの足元に腰を降ろして、スマホをいじっている。
小説を書くのが好きらしい。作家になる気は今の所ないそうだが、ネットに公開している作品を読んでみれば、それなりに面白かった。読んでくれる人もいるみたいで、コメントでのやりとりを教えてもらうこともある。
書くジャンルは決まってボーイズラブ。稲穂と恋人自身をモデルに全部書いているらしく、攻めの男はいつも天然パーマ。そして稲穂の髪型も天然パーマだ。恋人は稲穂の髪に触れるたび、嬉しそうに笑う。そしてこう口にしていた。
「僕だけの特権だからね? 他の人に触らせたら、駄目なんだからね?」
麦本麺太。稲穂の幼馴染みであり、今は恋人でもある。家は稲穂宅の隣だが、ほとんどの時間を稲穂宅で過ごしている。食事をするのも、風呂に入るのも、眠るのも、稲穂の家で、稲穂と共に。
父子家庭の稲穂宅。麺太も同じく父子家庭。どちらの父も稲穂と麺太の関係を認めており、温かく見守っている。
学校で話す友人もそれぞれいるが、二人は部活にも委員会にも参加せず、真っ直ぐに家へと帰り、恋人同士の時間を優先する。互いがいればそれでいい。そんな感じで、気付いた時には稲穂は高二、麺太は中二になっていた。
「稲穂ちゃん、今日は何する?」
「刑事ドラマの再放送を観る」
「昨日も観てたじゃん」
「昨日のは私立探偵のだろうが。全然ちげえよ」
「事件が起きてそれを解決する話じゃん、似たようなもんじゃん」
「私立探偵のは猫探しがきっかけの誘拐事件解決の話で死人は出ない、今日のは殺人事件でがっつり死人が出る。ちげえだろうが」
「……むう」
何か重大な事件が起きる、とかはない。
お互いのことが大好きな男子達の、日常恋物語が紡がれるだけだ。




