木枯らし1号が吹いた日に聞いてはいけないことを聞いた男たちの話
「寒い」
女子校に通う青海ハルカは、他校の門の前でユウジを待っていた。学校には来るなと言われたけど、もう二週間も会っていない。心配で心配で彼との約束を破って来てしまった。
今日は風が強くて待ち伏せには向いていない。木枯らし1号が吹いたとニュースで言っていた。こんな日に待ち伏せをするのはどうかと思う自分もいるが、会えない不安を抱えたまま夜になるよりはマシだと思った。ハルカはユウジに貰ったマフラーをしっかりと巻き直した。
「誰かと待ち合わせ?」
知らない男子生徒に声をかけられた。彼の後ろの女子生徒がクスクスと笑っていて嫌な感じだ。
「あ、いえ」
「山の上の女子校の子でしょ? ウチみたいな学校に用があるんだったらオトコでしょ?」
派手なメイクの女の子が軽蔑するような眼差しでハルカを見た。
「あの、すみませんでした」
走り去ろうとしたハルカの腕を、最初に話しかけて来た男子生徒が掴んだ。
「逃げなくてもいいでしょ? 俺らが代わりに遊んであげるよ。キミ可愛いし」
「出た。テルの女好き」
「なに、ヤキモチ?」
「ばーか」
「いてて」
テルの横に別の男子生徒が立っていて、テルの腕を捻り上げていた。
「オマエやめとけ。痛い目見るぞ」
「村雨さん! お知り合いですか?」
「俺じゃねぇよ」
村雨が視線を向けた先には、もう一人男子生徒が立っていた。
「ユウジ先輩! え?」
テルはユウジとハルカを交互に見た。テルの顔が強張った。一緒にいた女子生徒は既にそこにはいない。
「ハルちゃん、来ないでって言ったでしょ?」
甘えたような、拗ねたような声で話すユウジを、驚いた顔で見た村雨とテル。二人は思わずお互いを見た。そして、ゆっくりと音を立てないように離れ始めた。
「ユウちゃんごめんなさい。どうしても会いたくて」
「俺、しばらく忙しいって言ったでしょ?」
「いつ?」
「寝落ちしちゃったのかな。最後に電話した時」
「そうだったかも」
なんだあの甘い声。ハルちゃんユウちゃん? 眼光一つで教師を黙らせたあのユウジが? 村雨とテルの心はただ一つ。バレないようにこの場を去る!
「俺もハルちゃんに会いたかったからマジで嬉しい。でもここは危ないから来ちゃダメだよ」
ユウジがハルカの腕を掴んだ男の事を思い出して周囲を見渡した時、既にテルと村雨は隠れ終えていた。
「こっちの方が寒くないよ」
「ホントだ。ありがと」
ユウジが帰るまでは隠れていようと心に決めた彼らは、木枯らしに煽られても耐え続けた。
完




