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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第一章 元王都魔術師隊士の帰郷
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07 行政手続きは一度では済まない

 案内された役所は小奇麗な造りの建物だった。

 

 基本的に建築物と言うものはその土地の風習に合わせた造りになるものだが、役所の建物は王都の建築物そっくりであった為浮いていた。景観を破壊していると言ってもいい。口には出さないけども。


 そんな建物の入り口を通り抜け、中に入ると内装も王都でよく見た造りをしていた。こちらの世界での俺の人生は25年。その内10年がこの町で、15年が王都だった事を考えると実はこちらの造りの方が見慣れた物だったりするのだがまあいいだろう。

 ……15年の内10年は死地だったと考えると悲しくなるからな。


 スキンはその中をズンズン進み、一つのカウンターの前で立ち止まる。対面には俺よりも少し年下に見える金髪の女が座っており、こちらに向かってにこやかに頭を下げた。


「これはこれは。()()様直属の騎士様ではないですか。本日はどのようなご用件で?」


 俺でもわかるねっとりとした嫌味だな。

 そうか。王都っぽい建築物だと思ったけど、ここの管轄は本部なのか。


「今日の要件は俺ではなくこいつだ。……いや、一つあったな。先程そちらの派遣している兵士長がこの男の過去の経歴を周りに吹聴する事案があった。軽くで構わない。注意をお願いする」

「はあ……過去の経歴……ですか?」


 スキンの苦情の後に俺を見る受付の女。不思議そうな視線を向けた後にスキンに向き直った。


「詳しい事はそいつに聞け。不備に関してはそいつにもあるから注意は本当に軽くで構わない。何なら、あんたの所で止めてもいい」


 おい。俺も悪いってか?


「それはまあ。市民の方のお話を聞くのが私の仕事なので聞きますけどね。では、そちらの魔術師様。ご用件をお聞きしても?」


 スキンが横にどいたタイミングで女が俺に話しかけてきたので近くによる。にこやかで悪意のないその瞳。単純にここの領主と王国関係者の仲が悪いのかもしれないな。


「王都からこの町に転入予定のアレクセイだ。本来あちらで行っておくべき手続きを忘れてしまってね。こちらでも転入手続きは可能だろうか?」


 うん。話していると俺にも悪いところがある気がしてきたな。


「勿論、可能です。必要な書類はおもちでしょうか?」

「ああ。これで全て揃っているはずだ」


 鞄から書類と身分証をカウンターに置く。

 それらを一つ一つ確認していた受付嬢だったが、経歴書と身分証を確認した所で動きを止めた後、俺とスキンを交互に見た。


「……なるほど。どのようなやり取りがあったか理解しました。兵士長のキブルにはこちらから厳重注意をしておきます」

「いや、そこまで大事にしなくても──」

「いえ。これは必要な事です」


 スキンの言葉を途中で遮り、受付嬢が低い口調でそう告げる。何となくキブル氏が可哀そうになってきた。

 そんな事を考えていると、受付の女が立ち上がり、俺に向かって頭を下げた。


「住民課のウェンディと申します。この度は不快な対応をしてしまい申し訳ありませんでした」


 なんだか大げさだな。まだ魔術師隊に所属しているならまだしも、現在無職の俺に対する態度ではない。


「いや、知らなかったのだから問題ない。それよりも手続きをお願いしたい。このままだと次の職も探せないのでね」


 実際には無職でも問題ないのだけど。


「かしこまりました。しかし、次の職ですか……。まだお決まりではない……と?」

「え? まあ、この状態では探しようが無いですし。まずは手続きを……と」


 なんか、一瞬この女の目が光ったような気がするけど。気のせいだろうか?


「左様ですか。ならば、仕事を探される頃にまたお越しください」


 仕事探しで? ハローワーク的な事もやってらっしゃる?


「まあ、その時は……」

「ありがとうございます。では、手続きを進めますので、しばらくお待ちください」


 腰を折ってお辞儀した後に奥に引っ込んだウェンディの後ろ姿を見た後、広間にある椅子に移動して腰を下ろす。

 そんな俺の傍に移動してきて彫像のように控えるスキンだったが、薄っすら赤い魔力が立ち上っているのが見えた。


 ……うん。何かあるんだろうなぁ。



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