06 故郷なのに地理がわからない
「なあスキン。とりあえず実家に帰りたいんだけど」
町に入って暫く経ってから声を掛けたのは、嫌な形で注目が集まってしまったからだ。
それはスキンも同じだったらしく暫くは黙って先に立って歩いていたのだが、流石にどこに向かっているのか不安だった事と、帰郷した目的が母さんの状況の確認だった事もあり声を掛けるに至った。このまま実家と反対方向に進んでいました。とか、嫌だからな。
「お前の実家は……今は無い」
「はあ?」
実家が無いとか何言ってんだ。あの家は母さんの所有物だった筈。相続人である俺の許可なしには取り壊す事はおろか、売却する事も出来ない筈だ。
「嘘つけよ」
「嘘じゃない。色々あったんだよ。お前がいない間に。そもそも、お前俺が誰だか覚えてるのか?」
「覚えてるよ。ヒョロガリスキン」
正確には思い出した……だけど。
「……そうか。覚えてたか」
立ち止まり、ぽつりと呟いたスキン。それだけで本当に色々あったのだろうと想像は付く。
「随分マッチョになってたから最初は気が付かなかったけどな。どういう心境の変化だ? 確かに背は高かったけど、どっちかと言うと頭を使う方が得意だっただろ」
どちらかと言えば魔術師タイプだった筈だが、今はどこから見ても歴戦の兵士だ。
「色々あったって言ったろ。それよりもお前の実家だけどな。サリィさんが売っちまったからもう無い」
「売った? いつ?」
「2年位前か? 動けなくなって少ししてからだな」
2年前……。危篤だって手紙が来たころだな。
という事は……。
「……母さんは死んだか」
「1年ちょっと前にな。お前が帰って来た理由はそれか?」
頷き、手紙を見せる。
スキンはその手紙を受け取るとこちらを見た後に中を確認し、はあ……と大きなため息を吐いた。
「サリィさんが倒れた時の手紙か……お前、コレ2年前だぞ?」
「みたいだな。それが届いたのがこの間だ」
「どうなってんだよ。王都だろ?」
そう言われてもそうだなとしか言えない。
「一応これでも急いで帰ってきたつもりだ。最悪の状況も想定して魔術師隊も辞めてきた」
「辞めた? じゃあ、今のお前の立場って……」
「無職だな。だから、身分と住所の変更をしたい。実家がないなら役所はどこだ? 案内してくれ」
「…………」
額に手を当ててスキンが呻く。あんな状況になってしまったのだから当然だな。気持ちはわかるがあれは俺達どちらのせいでもない。
「恨むなら上官を恨めよ」
「……軽くクレーム入れとくわ」
クレームを入れておくという事は、所属が違うのかもしれないな。
確かに、俺が知らない人だったし、王都魔術師団への対応が大げさ過ぎた。ひょとしなくても王都の人間。出向か何かで来たのかもな。
「まあいい。そうなると確かに最初に役所で申請をしておいた方がいいだろう。簡易的な身分証を発行してもらわないとどうしようもなさそうだ」
「その後はどうする? 母さんの墓? それとも叔父さんの所か?」
母さんには夫は死別したが弟がいた。俺が王都に行ってしまったから、身内は叔父さんだけだった。
「いや、時間が時間だし失礼だろう。今日は役所で手続きしたら宿に案内してやる。色々やるなら明日にしろ」
空を見るとまだ明るいが、確かに役所で手続きをしたらそれなりの時間になるだろう。どこの世界でもお役所仕事と言うのは時間がかかるものだ。
「わかった。じゃあ、明日案内してくれ」
「明日は仕事だ。流石に無職の相手に休みは取れん」
「おい」
だったら今日色々済ませた方が良くないか?
「明日はこちらから頼まなくても案内人が付くだろう。宿に行けばお前もわかる」
「なんだ? 知り合いか?」
宿屋の知り合いって誰かいたかな?
「知ってる。……知ってるはずだ。寧ろ、知らなかったら何されても責任は持てんぞ」
「おい。怖いこと言うなよ」
忘れてたら何をされるって言うんですかね?
「そう思うんだったらちゃんと昔の人間関係を整理しとけ。宿までは俺も一緒に行ってやるから」
恐らく役所に向かっているであろうスキンの後ろについて歩く。
宿屋……この町にそんなのあったっけ?




