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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
最終章 魔女達の想い切り裂く魔剣

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65 正義の在処

 帰還した俺はミーシャの遺体と共に“剣と杖の集い”を訪ねた。

 現在はミーシャの親族はいない事は話に聞いて知っていたし、最も関係が深かったのがナターシャ一家だと思ったからだ。


 取り急ぎアリーシャさんへ状況を説明し、その後現れたナターシャにも同様の説明を行うと、アリーシャさんは何処か達観したかのように、ナターシャはショックのあまり初めは話を信じず、その後状況を飲み込んだ後は酷く泣き出してしまった。


 その場を一旦アリーシャさんに任せると、俺はその足で拠点に戻って隊長に報告。

 クランチさんから小言を、イリスからは説教を貰った後にスキンと共に宿屋へと戻る。

 スキンに関しては多少の傷は残ったものの、リハビリすれば両腕は問題なく動かせるようになるだろうとの事だった。

 ただ、傷が残ってしまった以上、多少の魔力は縛られてしまうだろう。


 宿屋に戻ってくると飲食店は臨時休業となっており、旧ラーグラントの住民達が集まってミーシャのお別れ会をしている所だった。

 教会での葬儀はしないのかとアリーシャさんへと尋ねたが、普段は表には出していないが、あの事件の前後の新旧の住民の間には浅くない溝があるとの事で、旧住民であるミーシャの葬儀は旧住民のみで行う事になったらしい。


 その時に旧住民達から当時の話を聞いた。

 俺がアレクセイだとわかると、当時の事を許していないとハッキリ口にする住民もいた。

 逆に、今回の件を納めてくれて感謝しているという人もいた。“流石英雄の息子”だと……。


 ナターシャは大分落ち着いたようで表面上は気持ちを読み取る事は出来なかったが、ミーシャが死んだ事に関して俺やスキンに対して思う事はあるだろう。

 お別れ会に参加した俺やスキンに目も向けなかった事からもそれは分かる。

 だが、それでもそれを口にしない位には大人になったと思う。

 きっとこれから先、もう少し成長したら違う景色が見えてくるに違いない。

 だから、俺はその場は何も言わずに後にした。

 スキンだけは責任を感じているのかその場に留まって最期まで見届けるとの事だった。

 

 スキンに関しては今回はお咎めなしとなった。

 実行犯では無かった事や、スキンが関わった後に人死にが出る事があったわけでは無かったからだ。

 ミーシャの死亡という件はあったが、当時死亡したのが街の英雄であったサリィで会った事、そして、そもそも殺害計画を企てたのがミーシャであった点が考慮された。

 確かに、状況を考えればサリィは殺害されそうになった所を返り討ちにしただけである。

 表向きは当時からそのようにはなっていなかった筈だが、どうやら領主の側はその辺は把握していたらしい。それでもサリィを断罪しなかったのは、彼女がラーグラントの悲劇を救った英雄だったからだ。


 そう。サリィがこの町を救ったのが事実だった。

 ……なら、当時この町に来ていたであろう王国最強の魔術師は何をしていたのか?


 事件の後始末で暫くは忙しい日々が続いていた。

 そんなある日の事。

 王都からやってきていたコリーナが王都に帰る事にすると俺に伝えてきた。

 

 正直な話、「まだいたのか?」という思いだったが、彼女の目的は「アレクセイを王都に連れ帰る」である。

 流石に俺がこの場に留まっているのに帰る訳にはいかなかったのだろう。

 それでも、このタイミングまで何も言わなかったのは、ミーシャの埋葬まで待ってくれていたのだと思う。

 そして、俺に対して「帰る」と口にしたという事は……俺を連れ帰る事をとりあえずは諦めたという事になる。


「世話になったな」


 既に旅支度を終え、馬の傍に佇んでいたコリーナに声を掛ける。

 馬の反対側にはどこに隠れていたのか5人編成の部隊が整列して並んでいた。

 ローブを見るに王都魔術師隊……それも、赤龍隊の隊員だ。よく見ると、見知った顔も何人かいた。最後の小隊で共に戦い、生き残った俺以外の1名も……だ。


 元々一緒に来ていて、コリーナ以外は町中で待機していたのか、彼らが到着したから帰る事にしたのか……メンバーから考えるに俺が帰ってくる時に編成されていた部隊のようだから、コリーナの後に派遣された小隊と考えるのが自然だ。

 ()()()()ミレーヌさんの言い草から考えるに、今回の事は想定していた事態だったと思えるからだ。

 もしも俺がサリィの討伐に失敗した場合、先に戻ったコリーナと彼らが街を守るために動いたのだろう。


「全くね。本当ならあなたの首に縄を付けてでも連れ帰るのが私の役目なんだろうけど、そういう状況じゃないのは分かるもの」


 苦笑したコリーナに俺も肩を竦める。


「そこは何とか説得してくれ。少なくとも、こっちが落ち着くまでは帰る訳にはいかない。まさしく、()()()()が蒔いた種だからな」

「……そうね」


 俺の言葉の意味が分かったのか、コリーナもしみじみと呟く。


「お前は真相を知っていたんだな?」

「今だから言うけど、私は貴方よりも先にこの街に入ってたからね。その時にある程度調査をしていた。そこで色々とわかった結果、命令をそのまま受け入れる気分にならなかったのは確かね」

「……なあ。正義って何だろうな?」


 ラーグラントを振り返り、口にした俺にコリーナは首を振った。


「私にわかる訳ないでしょう。わかる事があるとすれば、過去の件も含めて、全ての人間が良かれと思って行動していたって事。ただ、見る人の立場によってその定義が変わってしまっただけよ」


 サリィは赤龍隊時代に現体制下での魔術師隊の生存率の低さを何とか改善しようとあがいていた。そのやり方が多少の犠牲を容認するものだった事と、手段が非人道的だったからわかりやすい“悪”と見られてしまった。


 そして、ミレーヌさんだ。

 

 彼女はあの時査察官としてラーグラントにやって来たのは本当だったらしいが、あの魔獣の襲来の時に殆ど魔獣の駆除をしなかったらしい。

 一直線に俺の元に駆け付けた後は、瀕死の俺を攫ってそのままいなくなってしまったと、当時の住民達から話を聞いた。

 形の上では査察ではあったのだろう。だが、本当の目的は俺の身柄を確保する事だったのではないか。

 その時想定外の魔獣の襲来はあったが、彼女にとっては恐らく“どうでもいい”事だった。


 また、今回の件での調査の結果、サリィが操る事が出来たのはグリフォンのみで、他の魔獣に関しては想定していない事だった事もわかっている。

 グリフォンの討伐に向かったサリィが任務の途中で町が魔獣の大群に襲われている事を知り、慌てて戻って魔獣を駆逐したのが、ラーグラントの悲劇の真相だった。

 もしも、あの時ミレーヌさんが魔獣を相手にしてくれていたら……あれほどの犠牲は出なかったかもしれない。

 旧住民達が俺を許せないのはその1点だ。結局、ミレーヌさんの弟子として王都魔術師団に名を連ねた事で、ミレーヌさんの側の人間だと思われたという事だ。


「ミレーヌ様は奪われた我が子を取り戻したかった。それは正しい事で、あの人にとってはそれが最大の正義だったのよ」

「だが、町の人からしたら極悪人だ」

「でも、逆の立場から見ればサリィも十分以上に極悪人だったわ」

「ああ。そして、俺も……」


 思い出すのはミーシャの事。


「ミレーヌさんを振り切って、一度でもいいから帰っていたら、今回の悲劇は無かったかもしれない」

「それはそれで、ミレーヌ様が何をするか分からなかったけどね」

「だから聞いたのさ。……正義って何なんだろうな……って」


 俺の問いにコリーナは首を振った。


「それは王都に戻ったら隊長に直接聞きなさいな。私は上からの命令を遂行するだけよ」

「軍属の悲しい所だな」

「貴方も軍属でしょ。それよりも、戻るつもりはあるのよね?」


 コリーナの問いに頷く。


「精神魔術での仮初の世界だったとしても、約束しちまったからな。戻るには戻る。だが、当分は年末年始に戻るくらいにしとくさ」

「それで納得する人かしら?」

「そしたら()()に言ってやれよ。自業自得だってな」

「確かに。そうね」


 コリーナはひとしきり笑うと、馬の背へと移動する。


「隊長に何か言付けはある?」

()()()()()()()へは『すみません。暫くラーグラント魔術師隊への出向の許可を下さい』とだけ」

()()()()へは?」


 クスクスと笑いながら問いかけたコリーナに返す言葉はもう決めていた。


「いい加減大人になれ。と」

「了解。伝えておく。あぁ、それと、当分会う事も無いでしょうし、元同僚達ともあいさつしとく?」


 コリーナの言葉に俺は整列していた隊員達を見る。

 殆どが顔を知っている程度の間柄でしかなかったが、約一名ゆかりの強い奴がいる。

 俺はそいつの元まで進むと、後一歩の距離で足を止める。


「暫く……という程時間は経っていないか。ともかく生きているようで何より」

「はっ! ありがたいお言葉頂戴し、感謝いたします。黒龍隊隊長直轄部隊隊長、アレクセイ・ラインクラフト殿」


 初めて聞く肩書にコリーナを見ると、無言で頷いていた。

 なるほど。予定通り戻っていたら、俺はその役職と名で活動する事になっていたという訳だ。

 ……尚更帰りたくなくなったな。


「悪いがそいつは保留だな。今の俺はラーグラント魔術師隊の新人隊員でしかない。立場はそちらの方が上なんだから本音で話せ」

「……では、遠慮なく」


 畏まった無表情から鋭い目つきの見慣れた表情へと変化する。


「そっちこそ生きていて何よりだ。あの【赤き魔女】とやりあうって聞いて、心配していた」

「心配してくれたのか。感謝する」

「必要ない。心配はしていたが、お前が負けるとは思っていなかった。俺がどれだけお前の下で働いていたと思う? 正直に言ってやる。俺はお前以上の魔術師をまだ見た事はない」


 そして、男は拳を突き出すと俺の胸──黄金の龍の紋章に当てる。


「どんな場所からでも絶対に生きて帰ってくる規格外。願わくば仲間の隊員も一緒に連れて帰って来てほしかったものだが、それは言わないでおいてやろう」

「……言ってんじゃねぇか……」

「ふん。精々働け。そして……戻ってきたら、今度こそ俺達全員を守れ。……それだけだ。旧第3小隊最後の隊長殿」

「副長……だ」


 俺の苦言を無視すると、そのまま隊列に戻ってしまった男に嘆息し、コリーナを見上げると笑顔のコリーナが口を開いた。


「じゃあ、もう行くわ。またねアレク。今度は王都で」

「ああ。顔見知りらしい旦那と、子供にもよろしくな」

「勿論。帰ってきたらちゃんと会わせてあげる。きっと驚くから」

「ああ。じゃあな」

「ばいばい」


 馬に乗って王都に向かって帰っていくコリーナの後に続く様に、赤龍隊の隊員たちも馬に乗って遠ざかっていく。


「本当に……正義って何なんだろうな」


 きっとそれは、万人が納得できるものでは無いのだろう。



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