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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
最終章 魔女達の想い切り裂く魔剣

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63 たった一つの後悔

 霞がかかっていたかのようだった頭の中が徐々にクリアになっていく。

 それに至ってようやく今の状況を理解していく。

 どうやら、【赤き魔女】を討伐する事がこの()が解除されるトリガーだったらしい。

 恐らくは俺の命を守るため。

 確実にサリィを殺すため。

 それは分かっているが……。


 それでも……このタイミングはあまりにもひでえよ。()()()()()()……。


「……回復が……出来ない……」


 血だまりの中。ゆっくりと体を傾けながらサリィが喘ぐ様に呟く。

 サリィの傷は致命傷だ。

 股から左肩に掛けて完全に切断された体で、意識を保つどころか声を出している事がおかしい。

 恐らく、突出した回復魔術がそうさせているのだろうが、残念ながらもう助かる事は無い。


「そういう魔術だからな」


 剣の血をふき取り、鞘に戻すとサリィの傍に腰を下ろす。

 既に危険ではないという事と、既に立っている事が限界だった為だ。


「……魔術……。……あれが……?」

「【魔術師殺し】。ミレーヌさんが付けた魔術名だが、状況を理解するには十分だろう? こいつは剣で切る事で発動し、その時に付けた傷を回復しない限り永久的に発動する。効果は“対象者の魔力を縛る”」


 まあ、縛れる量には限りがあって、極端に魔力量が多い人間には限定的な効果しかない所がデメリットと言えばデメリットだが。致命傷を受けて即死していないサリィ然り、魔力を縛られていながら並みの術者を遥かに超える力を維持しているミレーヌさんのように。


「……魔力を……でも……それだけじゃない……よね……?」


 わかるのか。

 まあ、わかるか。実際に対峙したのだから。


「そうだとしても、もう死ぬ事が確定している相手に説明する必要があるのか?」

「ある……と、思うな……。知りたい……から。……アレクの……事は……」


 仰向けになった事で漸く動く事を止めたサリィは天を目にして大きな息を吐く。

 ……もう、長くはない。


「魔力の視認能力が劇的に向上する。相手の魔力量と質だけじゃない。その先まで見通す事が可能になる。それは魔力量が多い人間ほど効果的で、つまり……」


 そこで一旦言葉を切ったのは、言っていいものか躊躇ったからだ。

 だが、サリィは静かに待っていた。

 ゆっくりとこちらに視線を移して。


「……強い魔術師の行動が読める。強ければ強い程正確に」

「……ははっ……なーんだ……」


 サリィは力なく笑う。


「それって……私の能力……だよね……? やっぱり……アレクは……私の子……なんだよ…………」

「…………」

「強ければ…………強い程。…………ふふ………ミレーヌ………ちゃんの…………天敵…………だ。良かった…………やっぱり……………私の、目は……正し……かった……」


 嬉しそうに笑って。

 そして……ふーっと。大きな、大きな息を吐いた。


「……死ぬんだね。……私……」

「……ああ」


 もう取り繕っても仕方がない。


「魔力を縛ったからな。もう魂の交換も出来ない筈だ。仮に使えたとしてもこの場にいる生者は俺しかいないし、今の俺はあんたの行動が読める」

「……そう……………だねぇ…………」


 絶望的な状況の筈なのに、サリィは笑顔のままだ。

 ……もう、死ぬ事は決まっているというのに。


「後悔は……してないよ。……これまで……してきた……こと……」

「……沢山の人を殺した事を……か?」

「うん」


 サリィの体の切断面の出血が徐々に増えていく。もう、回復魔術を維持する事が出来なくなっているのだ。


「……後悔したら……アレクに会えた事も……否定……しなきゃいけなく……なる。……それは……嫌だし……。何よりも……見る事が……出来たから……」

「何を?」

「誰もが……最強だって……褒めていた……ミレーヌを……超える……魔術師を見れた。……ハハッ……ざまぁみろ……」


 サリィの目から涙が零れる。

 そんなサリィの姿がどうにもぼやけて見えにくい。


「それでも……後悔……する事が……あるなら…………」


 滲んだ視界の中。地面に置いた手に何かが触れる。


「……アレクを……貴方に……親殺しを…………させてしまった……。……ごめんね……」

「……どうして謝る。俺は……」

「あ、は、は……」


 ()()()の傷口から血が噴き出す。


「あれく……変わらない……ね。……泣き虫な……」


 言葉が止まる。

 動かなくなる。

 血だけが激しく流れていく。

 こちらを向いた顔が笑顔のまま固まっていた。

 

 夜が明けるまで、その笑顔が動く事はついになかった。



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