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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
最終章 魔女達の想い切り裂く魔剣

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61 母さん

 目に入ったのは雲一つない青い空。

 どうしてこういった状況になったのかは分からないが、いつの間にか俺は実家の庭で寝ていたらしい。

 芝生の感触を背中で感じながら暫くそのまま空を眺めていたが、そうしていても始まらない。

 仕方なく起き上がって腕を回すと、少し離れた場所で()()()が胡坐で腕を組んだ姿勢で渋い表情を浮かべていた。


「遅い。遅すぎる」

「……何の事だよ」


 あくびを1つして立ち上がると、母さんも立ち上がってこちらに向かって歩いてきた。

 ……相変わらず小さいな。これで王国最強の魔術師だって言うんだからわからないものだ。

 近くに寄ってきた母さんはジロジロと俺を見ながら周りをまわる。


「何やってんだ?」

「……フム。おいアレク。フルネームを言え」

「……本当に何言ってんだ?」

「いいから言えって!」


 気でも触れたか?

 しかし、こうなった母さんに何を言っても無駄だ。

 こういう時は素直に言う事を聞いた方が問題は早く解決する事を長い時間一緒に居た事で学んでいた。


「アレクセイ・ラインクラフトだろ」

「よし」


 何が「よし」なんだよと思ったが、満足そうに頷く母さんにそんな事を言ったら問題が長引くから口には出さない。


「想定していたよりも再会が遅くなったが、それだけお前が成長したって事なんだろう。こうして問題なく会えたのも、なんだかんだ私の指輪を付けていたからだろうし、遅くなった事は咎めないでおいてやる」

「何言ってんだかわかんねーけど、小言がないのはありがたいな」

「待て。小言が無いとは言ってない」


 あるのかよ。


「まず一つ。お前何で本気を出さない?」

「は? 言ってる意味が分かんねぇよ」

「おいおい……記憶が安定してないのか? 面倒臭いな」


 面倒臭いのはこっちなんだが?


「まあいい。詳しく説明している時間が無いし簡潔にいくぞ。今お前は下手人の討伐任務の最中だ」

「あん? 実家の庭で休息中じゃないのか?」

「マジでめんどくせ……。良いから聞け。今のお前は特別任務中でその内容が下手人の討伐だ。そいつは恐ろしく強い魔術師で、普通にやったら私以外に勝てる奴はいない。【赤き魔女】の噂位聞いたことあるだろ?」


 【赤き魔女】!?


「あんた本気で言ってる? 俺が()()魔女に勝てるわけないだろ」

「勝てる。というか、完勝出来る人間で言えばお前意外にはいない。じゃなけりゃ私が任務の許可をするわけがないだろうが」


 そう言えばこの人過保護だったな……。


「母さんでも出来るだろ」

「まあ、勝てるだろうな。だが、逃げられるかもしれん。現に一度はそれで逃げられている。確実に殺す為にはお前じゃないと無理だ」

「俺でも無理だわ」

「お前さぁ……」


 呆れた様な母さんの声。

 しかし、現実を見たらそうとしか言えないだろう。


「何で本気を出さないんだ」

「本気出しても勝てねぇよ」

「勝てる。以前私が言った事を覚えていないのか? 『一対一でお前に勝てる魔術師はこの世に存在しない』と」


 ……なんだ?

 今何か声が二重に……。


「折角私が名前を付けてやったのに、使わないとか。魔術師相手に舐めプしてるんじゃない」

「……ああ、本気ってあれか……。あの安直な名前。あんまりあれ戦場で口にしたくないんだよな」

「おい! まさかそんなくだらない理由で使わなかったわけじゃないよな!? 用途にピッタリの名称だろうが!」

「用途そのままじゃねぇか」


 むしろ、どうしてあれを戦場で叫ばにゃならんのだ。


「弱点晒してどうすんだよ」

「弱点にはならん。そもそも、あの状態のお前に勝てる奴はいない」


 母さんはそう言うと前髪を右手で掬い上げる。

 露わになった額には一文字に刻まれた傷が見えた。


「自信を持て。胸を張れ。お前は王国最強の魔術師であり、【黒い破壊神】と呼ばれた魔女に勝った唯一の魔術師だ」


 ……思い出したくない傷だ。

 この傷のせいで母さんは……。


「そんな顔をするな。確かに全盛期の力を出す事は出来なくなったが、ちょうどいいハンデだし、こいつのお陰でこっちの計画もスムーズにいったからな」

「計画?」

「おっと、こいつはお前には関係ない。大人の話だな。とにかくお前は課せられた役目を果たせ」


 その役目が勝ちすぎてるんだよなぁ……。


「にしても【赤き魔女】は無いだろ」

「確かに強敵だな。だが、役目を果たせと言っただろう? お前の胸には何が付いている?」


 母さんが指さした先は俺の右胸。そこには紋章が刻まれた勲章がある。


「あの魔女をこれ以上生かしておくわけにはいかない」

「…………」

「生かしておけばきっとこれまで以上の悲劇が起こるからだ。これは私やお前だけの問題じゃなく、王家に関わる問題でもある。アレク。お前の所属と役目はなんだ?」


 俺の所属と役目か。

 実力はともかくとして、それだけはハッキリしている。


「俺は黒龍隊隊長直轄部隊所属にして、ルクレイアの守護者の1柱。アレクセイ・ラインクラフト」

「そうだ。それだけは絶対に忘れるなよ」


 深く頷いた後に母さんは片手をあげてつま先立ちをしてプルプルしだす。

 何してんだこいつ?


「何してんだこいつ?」

「うるさいな! 察しろよ! いいから屈め!」


 プリプリ怒り出した母さんに呆れながらも屈んでみせると、母さんはその右手を俺の頭に乗せてゆっくり撫でた。


「大丈夫。お前は強い」

「…………」

「誰にも負けない。お前は私の意志と力を継ぐたった一人の魔術師だ」

「……ああ」


 それは忘れた事はないよ。

 恥ずかしくて口にした事は無いけど。

 やがて手が離れ、背筋を伸ばす。

 今は見降ろさなければ目と目を合わせられない位身長差が出来てしまった。


「行ってこい。そして、終わったら必ず帰ってくるんだぞ」

「わかった。行ってくる」


 背を向けて門に向かって歩き出す。

 黒龍隊隊長直々の討伐任務だ。

 絶対に失敗する訳にはいかない。


「絶対だぞ。必ず生きて帰って来いよ!」


 ……流石にしつこいわ。

 これだから過保護って言われるんだぞ。



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